「少女漫画・女性漫画」というジャンル。それは漫画好きの男子にとって触れがたい高いハードル。
ですが思い切って一歩踏み出すと、「あれ、意外と面白いな…?」と思える漫画が数多く存在しています。
そんな少女漫画・女性漫画から、「これは男子が読んでも面白いはず!」というオススメの作品をまとめてみました。
漫画リスト
違国日記
ヤマシタトモコさんの「違国日記」。事故で両親を喪った高校生と、姪である彼女を引き取った女性小説家。成り行きから家族となった二人の交流を描く人間ドラマ。
叔母と姪という関係性ながら、ほぼ面識のなかった二人。しかも叔母は、姪の母である実姉と確執があった、というのがやや複雑な関係。そこから来る独特の距離感が徐々に縮まっていく様が、これでもか!という丁寧さでじっくり綴られていきます。
姪から見るとまるで「違国の女王」とも言うべき叔母・槙生。特異な感性を持つ彼女のクールな立ち居振る舞いと、時折見せる柔らかな表情が、非常に印象的な本作。ヤマシタトモコさんならではの、繊細さと力強さが表裏一体となった人間描写が魅力的です。
百鬼夜行抄
累計350万部突破の人気ホラー漫画、今市子さんの「百鬼夜行抄」。Nemuki+コミックス版が28巻まで刊行、以下続刊。
妖魔や心霊と縁のある家系で育った主人公・律を中心に、美しい従姉妹・司、律を守る式神・青嵐などが、飯島家に起こる怪異とか変わっていく様が描かれます。
今市子さんの流麗な線で描かれる、練り込まれたストーリー、そして時折ぶっこまれてくる、超絶に怖い話が魅力のホラー漫画。長い歴史の中で確立されたキャラクター達も、次第にその関係性を変化させたりして、読むと不思議と愛着が湧いてくる物語です。
数字であそぼ。
絹田村子さんの「数字であそぼ。」。既刊6巻で以下続刊。なまじ記憶力が秀でていたために神童扱いされていた青年が、京都の名門大学理学部に合格したことから起こる悲喜劇を描く理系青春コメディ。
人生で初めて「考える」ことの壁にぶち当たり二留するも、良き友人(?)たちに恵まれて、数学の世界を何とか泳ぎきろうとする主人公。数学知識や理系大学生事情、そして京都の風情を絡めて描かれるその悪戦苦闘ぶりに、思わず笑いがこぼれます。奇人・変人揃いの友人たちと送る、風変わりなキャンパスライフも面白い。
魔法使いの娘・魔法使いの娘ニ非ズ
那州雪絵さんのオカルト・ホラー漫画「魔法使いの娘」全8巻と、その正統な続編「魔法使いの娘ニ非ズ」全7巻。「魔法使い」は、退魔業を行う陰陽師の比喩。
「魔法使いの娘」は、主人公・初音と陰陽師である義父・無山が中心。そして「魔法使いの娘ニ非ズ」では、自身が陰陽師となった初音とパートナー・兵吾が、オカルト案件に関わっていく様が描かれます。
キャラの立ったレギュラーメンバーを軸に、コミカルなやり取りをまじえて描かれるストーリー。しかし基本1話完結の各話では、確実にゾクリとくるオカルト案件が組み込まれ、ホラー漫画としても手抜きなし。
各話でしっかりと怖がれるホラーテイストと、全体で楽しめる大きな流れのストーリー展開で、充実の全15巻。オススメです。
グッド・バイ・プロミネンス
本作がデビュー単行本となる、ひの宙子さんの「グッド・バイ・プロミネンス」全1巻。高校の同級生、姪と叔父、元・家族、会社の同僚など、様々な人間関係のワンシーンを題材に描く連作短編集。
ストーリーの進行とともに徐々に明らかになってくる関係性と、各話の終盤で訪れるセンセーショナルな瞬間が、短編とは思えぬ読み応え。さらに連作ということで、各話の登場人物たちにもゆるやかな繋がりがあり、一冊の漫画単行本としても充実した読後感。
ある話ではクールに思えた人物が、別の話ではコミカルな顔を見せたり。忘れた頃に序盤のキャラクターが再登場したり。それが物語全体に深みを与えていて、何度読んでも飽きないおもしろさがあります。これがデビュー作とは、ひの宙子恐るべし。
ヘルタースケルター
実写映画化もされた、岡崎京子さんの「ヘルタースケルター」全1巻。全身整形によって作り上げられたトップモデル「りりこ」。彼女の容貌と精神が崩壊していく様を狂気的に描く、サイコ・サスペンス。
「ヘルタースケルター=螺旋状の滑り台」というタイトル通り、奈落の底へと滑り落ちていくりりこ。人間の欲望、そして悲哀に、背筋が薄ら寒くなるような感覚を覚える一品。読み始めると止まらないおもしろさ。意外なラストも好き。
町田くんの世界
安藤ゆきさんの「町田くんの世界」全7巻完結。成績はあんまり良くないけれど、その純朴な心で周囲の人々の心を捉えて離さない、不思議な高校生・町田くんの物語。
町田くんのことが大好きな、きょうだい・同級生たちと、町田くんの心あたたまる交流にほっこり。そして彼に次第に気持ちを寄せていく、クールな同級生・猪原さんとの気になる恋の行方。
ベタつきすぎない、カラッとした空気の中で展開される人間模様が心地よい少女漫画。ある意味「人たらし」な町田くんの人柄に、読みながら「たらされて」いく感覚が面白い。
さんかく窓の外側は夜
ヤマシタトモコさんの「さんかく窓の外側は夜」。全10巻完結済み。霊が視える体質の書店員と除霊師。二人の除霊業が描かれるオカルト・ホラー。除霊の際に、書店員がエクスタシーを感じてしまう、というのがポイントw。
本記事で紹介する漫画の中では、唯一BL要素がある作品ですが、本作は小道具的にBLが使われているぐらいなので、苦手な人でも問題ないレベル。
そして本作の特徴は、ホラー表現がめちゃくちゃ怖い!ということ。ヤマシタトモコさんの表現力の幅広さを感じます。もちろんストーリーも面白いので、そっち方面が苦手な方にも一度読んでいただきたい、オススメのホラー漫画。
7SEEDS
田村由美さんのSF漫画「7SEEDS」全35巻+外伝。絶滅の危機に陥った人類が、種の存続を図るために、7人✕5組の男女を冷凍保存する7SEEDS計画。文明が滅びた後、別々の場所で目覚めた彼らは、過酷な世界でのサバイバルを展開する、というお話。
初期では目覚めた人間たちが、ポストアポカリプスな世界で生き延びる様子が描かれます。やがて物語は、主人公たちとエリート組との齟齬による諍いなど、次第にSF的舞台を活かした対人サスペンス要素が主軸に。
そして長い冒険の末に迎える、感動のラスト。少女漫画でありながら全35巻という長大なSFストーリーを描ききった、異色の作品です。
うたかたダイアログ
ライトヤンキーな金髪少年・片野くんと、クールだけど実は天然ボケな宇多川さん。ドラッグストアでバイトする二人が繰り広げるラブコメ「うたかたダイアログ」。ちなみにラブコメの比率は、ラブ10:コメディ90ぐらいです。
基本、片野くんと宇多川さんの会話で展開される物語。とにかく作者・稲井カオルさんの会話センスが秀逸。滑らかなボケとツッコミの応酬は、声を出して笑うおもしろさ。
この「うたかたダイアログ」、基本的に男子である片野くん目線で描かれているため、少年マンガ誌連載か?と錯覚するほど、男子たちにも親和性が高い漫画。笑いに包まれた二人のやり取りにニラニラしながら、片野くんの恋の成就を見守りたいところ。全3巻という手頃な巻数で完結しているのも良し。
涙雨とセレナーデ
河内遙さんの「涙雨とセレナーデ」。既刊7巻で以下続刊。突如、明治40年の世界にタイムスリップした女子高生。自分にそっくりな女性(血縁?)と出会い、その許嫁である男性と恋に落ちていく、というタイムスリップ・ロマンス。
現代に戻る方法を探す主人公と、イケメン許嫁。しっとりしたせつない空気が流れる中、中盤で意外なSF展開を見せる本作。果たして主人公は現代へ帰還できるのか?そして恋の行方は?今後の展開が気になります。
制服ぬすまれた
衿沢世衣子さんの短編集「制服ぬすまれた」。基本、ゆるふわなストーリーを多く描く作者ですが、従来の発表作に比して暗め・サスペンス風味の物語を収録。
制服を盗まれた女子高生に、かつての自分を重ねる女性警察官。彼女がたどりつく真実とは?「制服ぬすまれた」。暗い過去を持つ組員とパソコンサポートの男性、という異色の組み合わせを軸に、裏社会の出来事をつづる「カラスが鳴くから」。など、全5編を収録。
それまでの衿沢世衣子漫画とは一線を画す物語の数々。既存のファンも、初めて作風に触れる方も、彼女の作り出す独特な雰囲気を存分に感じることができるでしょう。ハンドスピナーを回して推理する「ハンドスピナーさとる」は、ただただ笑う。
リクエストをよろしく
河内遙さんの「リクエストをよろしく」。全5巻で完結済み。売れないピン芸人とその元相方、そしてラジオ局の美人ディレクター。彼らを中心に、ラジオ業界と番組づくりの裏側が描かれていきます。
女性誌であるフィール・ヤング掲載でありながら、ビックリするぐらい恋愛要素のない作品。しかし読んでみると気づくのは、キラリと光る「お仕事漫画」としての顔。
底抜けにポジティブだけど、芸人としては芽が出ない主人公・颯太。彼が周りを巻き込んで、徐々にラジオ業界の中でポジションを築いていく様。その活躍を楽しんでいると、何だかラジオを聞きたくなってくるから不思議。
小僧の寿し
勝田文さんの「小僧の寿し」。食べ物に関連した短編4作と、ディケンズ原作の同名作をコミカライズした「クリスマスキャロル」を収録した短編集。
失意の中にある女性が、高校時代の先輩となぜかスイカを売り歩くことになる「すいかドライブ」。アラサー女性とアラフィフ男性の出会いと恋を、鴨を絡めて描く「ととせの鍋」。ほか、作者ならではのユーモアとカラッとしたドラマが詰まっています。勝田文さんの漫画は他に「マリーマリーマリー」全6巻もオススメ。
雑草たちよ 大志を抱け
池辺葵さんによる連作短編集「雑草たちよ 大志を抱け」全1巻。地方都市を舞台に、ちょっと地味目な女子高生たちの心の交流を描く全5話を収録。
池辺葵さん独特の間・表情・構図によって紡ぎ出される「優しさ」が、じわりじわりと伝わってくる不思議な漫画。読み終わる頃にはほっこり、胸の中に温かいものが流れるような感覚に。ちょっと落ち込んだ時に読むと元気をもらえます。ゆっくり、じっくり、何度でも味わいたい。
はてなデパート
谷数野さんの「はてなデパート」。とあるデパートを舞台に、そこに関わる人々に起こる不思議な出来事を優しく描いた、連作短編集。
やわらかい、ファンタジックな空気で描かれる物語。しかし中盤以降で明かされるデパートの「秘密」に、胸がドキドキ…!読後、あらためて全体を読み返すと、それぞれの話が浮かび上がってくる。連作ならではのおもしろさを持つ漫画です。
彼女のカーブ
ウラモトユウコさんの「彼女のカーブ」。
ネイリスト試験のモデルを、やむなく苦手な義姉にお願いしてしまった女性を描く「兄嫁のつめ」。ふと乗り合わせたエレベーターで、エレガのうなじにあるホクロを、押したくて押したくて仕方なくなった男の顛末「エレガのほくろ」。
などなど、ウラモトユウコさんのイラストチックな絵柄にのせて綴られる、笑える話・ほっこりいい話、全10編。気楽に読めて、読み終わる頃にはなんだか心が軽くなってくる、良い短編集です。
三等星のスピカ
イシノアヤさんの「三等星のスピカ」。全3巻完結。
脳天気な一年生キャッチャーと、彼とコンビを組む、同じく一年生の背の低いピッチャー。もうすぐ引退、そして受験を迎える三年生たち。彼らが抜けたあと、新たに部活を引っ張っていく二年生たち。そんな野球部に所属する部員たちと、関わりを持っていく女子たち。
「三等星のスピカ」では、そんないたって普通の高校の、普通の一年間を描く青春群像劇が展開。イシノアヤさんの朴訥とした線から、サラリと描かれる等身大の彼・彼女らは、かつての学生時代を思い起こさせるような。不思議と心に残る漫画です。
まとめ
以上、「男子が読んでも面白い!オススメの少女漫画・女性漫画」でした。面白い漫画を探している方は、その目線を普段と違うところに向けると、また新しい地平が開けるはず。ぜひ少女漫画・女性漫画の扉を開いてみてください。
本屋で女性向けコーナーに入るのはちょっと…という方は電子書籍をどうぞ!
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