数学、というものから縁遠い人生を送ってきた私。
そんな私が、「数学を肌で感じる」ことができた漫画がこちら。
三原和人さんの漫画「はじめアルゴリズム」。老数学者が離島で出会った、数学が大好きな天才少年の成長物語です。
「はじめアルゴリズム」レビュー
老数学者の絶望
「若者の学問」と言われる数学。その世界でかつては天才数学者ともてはやされたが、自らの衰えを感じている老数学者・内田。
「キサマらにはわかるまいっっ!!」
出身地の離島で講演をするも、数学に関心のない聴衆に向かってキレる始末。世間の数学への無理解に失望します。
難問の解決には「粘り」が必要で、肉体の衰えはそのまま精神の衰えに繋がる数学の世界。
数学史上、50歳を越えての大発見はほとんど無いそうです。
天才少年との出会い
そんな自身の現状を理解しながらも、発見の喜びを渇望する内田。
彼が向かったのは、廃校となった母校の中学。校舎内で学生の頃に自らが壁に描いた数式を懐かしみ、感慨にふける。
と、そこに新たな式が足されていることに気付きます。
「いったい誰が…!」
その独創的な式を見て感じたのは、「天才のようであり、まるで阿呆」。
そして校舎の中庭で、運命的な出会いを果たしたのは…。
少年の望み
木もれ陽のもとで、雲の運動、木の枝の分岐、水の波紋の伝わりなど、「世界」を数式であらわそうとする少年。
彼こそが数式の主である、関口ハジメ。
その独創的な数式に内田が抱いたイメージは、「違う世界の生き物の数学を見ているよう」。
ハジメとの出会いに運命を感じた内田は、彼に「君は数学で何をしたい?」と問いかけます。
「(数学によって)世界を全部知りたい」
その答えを聞いた内田。数学者である自身の最後の仕事として、はじめを導くことを決意。ここに「はじめアルゴリズム」の物語がスタートします。
ちなみにこの時、内田は鼻血がダラダラ垂れてます。
漫画でイメージ化される「数学」
「数学」という、人によっては少しとっつきにくい学問の世界。学生時代に挫折してしまった方も多いのでは(私もその口)。
しかし「はじめアルゴリズム」は、そんな数学苦手マンでも安心。
専門的にして難解なその世界を、やわらかなイメージ中心で描写。難しいセリフや数式は控えめで、読みやすい漫画になっています。
印象的なのは第2話。内田とハジメが、互いが心に持つ「数学」を巡り、海辺でセリフの無い「戦い」を繰り広げます。
カモメたちが飛ぶ位置、、不規則な波飛沫、雲の流れや降り注ぐ日光。
自然を全て数式であらわそうと、イキイキと無音の激論を戦わせる二人の姿。
ユニークな「イメージ化された数の世界」を描く、作者・三原和人さんの表現力が素晴らしい。
強弱をしっかりとつけながらも、全体としては不思議と柔らかさ・繊細さを感じさせる線。
華やかさがあり、漫画を読むシンプルな楽しさを感じさせてくれます。
ハジメの目に映るものは?
そんなハジメ。後半ではその世界を広げるため、内田とともに島を出ることを決意。
そこで描かれる、母とのエピソードが素敵。
数学の天才であるハジメと、見ているもの・感じるものが違うのではないか?と不安に思う母。
ハジメの見てる世界を、いつかお母さんに見せて。
そんな風に語る母の手を取り、ハジメが向かった先は、島が一望できる高台。
幼い頃、母に連れられてまわった養鶏場やお寺を指しながら、「見てる世界は一緒だよ」と語るハジメ。
数学の天才少年と聞くと、一般人としては少し構えてしまいがち。しかし同じ人間、見ている世界は決して違うものではない。
ハジメの存在がグッと身近に感じられる瞬間です。
輝きを持ち始める数学の世界
数学によって結びついた内田とハジメ。
かたやその幼き瞳に可能性を感じ、彼を導くことを人生の集大成とする老人。
かたや蓄積された老獪な経験と知識に導かれ、今まさにその能力を引き出されんとする、未来ある若者。
年齢は大きく離れていますが、共に心に抱くのは数学への熱い想い。
そんな二人が奇跡的な出会いを果たし、世界がパーッ!と開けていく。豊かな表現で描かれるイメージが、胸を打ちます。
そして家族・学校・島といった小さいコミュニティから、やがて大きく羽ばたこうとするはじめ。彼がどのような数学の道をたどるのか?
今後、ハジメの世界がどのように広がっていくか、ワクワクします。
まとめ
といわけで三原和人さんの漫画「はじめアルゴリズム」1巻。
輝きに満ちた世界が胸を満たす、楽しい作品でした。数学が苦手な人でも楽しく読める漫画です。
また安定した絵柄とストーリーはもちろん、真っ直ぐ前を向く明るいキャラクターたちも魅力的。
ハジメと内田のコンビ以外にも、ハジメの母や、姉的な存在として彼を見守る離島の少女・ヒナなど、温かみのある人物たちに、思わずほっこりします。
そして内田の下で数学を学ばんとするハジメ。2巻ではその世界を広げる新展開もあるようで、続きが楽しみです。
コメント