オカルト・ホラー中心の短編漫画集まとめです。
短編漫画集の性質上、各単行本にはオカルト・ホラー以外の短編漫画が含まれている場合があります。
漫画リスト
顔ビル/真夜中のバスラーメン
呪みちるさんの「顔ビル/真夜中のバスラーメン」。一風変わったタイトルは、収録の短編「顔ビル」と「真夜中のバスラーメン」から。
カバーの女性は、収録の一編「第三京浜の追跡者」で大活躍(?)する三島みどり。幽霊が出ると噂の第三京浜で、ドライブデートを楽しむ男女が遭遇する一夜の恐怖が描かれます。
ほか、「ヤキトリ奇談」「アメリカのコート」など、11編のホラー短編を収録。単にびっくりどっきりで怖がらせるだけでなく、深い物語性を感じさせるホラー漫画の数々。短編とは思えない読み応えがあります。
呪みちるさんの魅力の一つでもある美麗かつ迫力のある線にのせて、絶妙のストーリーテリングが楽しめるホラー漫画集です。
魔法はつづく
カラオケボックスに集った、少し様子のおかしい家族の真実「かえるのうた」。
霊が見えると主張する変わった女の子を描く「こくりまくり」。
とある女性の人生の節目に現れる謎の存在「よふさぎさま」。
などなど、読み応えのあるホラー・オカルト系の短編を10編収録したオガツカヅオさんの「魔法はつづく」。
オガツカヅオさんと言えば、「りんたとさじ」「ことなかれ」などのホラー漫画で定評のある作家さん。
本作収録の短編は、基本的にはホラー系統に属するもの。ですが恐怖ばなしというよりは、どの漫画もじっくり繰り返し読みたくなる、深みのある物語性を感じさせます。
読み終わったあとに、自然ともう一度ページをめくり始めたくなる、そんな魅力があるホラー漫画集。ホラー系の漫画が苦手な方にも手にとって欲しい作品です。
私のともだち
那州雪絵さんの「私のともだち」。全6編のホラー短編を収録。
学校の旧校舎に出る”怪物”と、友達になったいじめられっ子。しかし旧校舎が取り壊されることになり…「私のともだち」。
一人は人間、一人は幽霊として生きる、双子の少女の成長と結末を描いた「水にうつる思い出」。
など、かつて少女漫画誌に掲載されていたような、「とんでもなく怖いホラー読み切り」を目指して描かれたという漫画群。懐かしさ、そして確実な恐怖を味あわせてくれます。
ひとりかごめ
「麻衣の虫ぐらし」などで美少女描写に定評のある、雨がっぱ少女群さんのホラー短編集「ひとりかごめ」。数ページ~数十ページの短編漫画を12編収録。
自分の背後に謎の気配を感じる女子高生が、やがて起こす奇行の結末を描いた表題作「ひとりかごめ」、新人女性バイトが工場で恐怖の体験をする様をやや百合風味を絡めて描く「工場勤務」など。
不思議・不条理系のストーリーが展開される各話。暗めの画風ではないのに、何かが起こりそう、という雰囲気が絶えないホラー感が良し。
グロも多めですが、雨がっぱ少女群さんの描く美しいキャラクターと奇妙に調和。他のホラー漫画とは一線を画す、独特な味わいを持つホラー短編集です。
運命の女の子
ヤマシタトモコさんの「運命の女の子」。ホラー・青春もの・ファンタジーの3編を収録した短編集。その一編、サイコホラー「無敵」が、最高に怖い。
連続殺人の被疑者である少女と、それを取り調べる女性刑事。取調室で向き合う二人の会話から、凄惨な事件が浮かび上がってくるという趣向。
落ち着き、薄ら寒い笑みを浮かべ、未成年という立場と、自分の美しさを自覚している少女。そして直接的には描かれないが、きっと少女が起こしたであろう、数々の凶行。
それらがジワジワと、女性刑事の狼狽を通して読者の心を蝕んでいくような、得も言われぬ恐怖が描かれます。
ホラーではありませんが、同時収録の2編「きみはスター」「不呪姫と檻の塔」も、それぞれ魅力のある短編。毛色の違う三作ながら、どれも面白いのは流石のヤマシタトモコ作品です。
高橋留美子傑作短編集(2)
高橋留美子さんの「高橋留美子傑作短編集」から、2巻をご紹介。
戦国時代にタイムスリップした女子高生を描く「炎トリッパー」ほか、様々な形のボーイ・ミーツ・ガールが描かれる短編集。ホラージャンルとしては、「闇をかけるまなざし」「笑う標的」「忘れて眠れ」の3編を収録しています。
その内の一編「笑う標的」はOVA化もされた作品。弓道部に所属する男子高校生が、田舎から来た妖しい雰囲気を持つ許嫁に再会したことから起こる、恐怖の顛末。コメディ系のタッチとは異なる昏い雰囲気が魅力的。
ほかの二編も、今読んでも色あせない独特の恐怖を感じさせるホラー漫画。どんなジャンルを描いても面白い、高橋留美子さんの凄さが実感できる短編集です。
口裂け女あらわる!~昭和怪奇伝説~
呪みちるさんの「口裂け女あらわる!~昭和怪奇伝説~」。「スケスケメガネ伝説」「黒い清涼飲料水」など、昭和感あふれる都市伝説を題材にしたホラー短編集。
昭和感、と言っても決して古いわけではなく、呪みちるさんの美しさを感じさせる流麗な線は、いつ読んでも新鮮。
注目の一編は「スケスケメガネ伝説」。何でも透けて見えると噂のスケスケメガネ。それをあと一歩のところで手に入れ残った少年の思い出話。
…からの、実際にスケスケメガネを手に入れた別の人物が辿った恐ろしい顛末、という深みのある構成が面白い。
シンプルなようでいて深みのある、よく練られたストーリーは、呪みちる作品の何よりの特徴。怖さの中に美しさのある、独特の作風も魅力的です。
フロイトシュテインの双子
うぐいす祥子さんの「フロイトシュテインの双子」。
悪魔的な美しい双子に翻弄される男子大学生を描いた表題作3話ほか、全7編を収録。「死人の声をきくがよい」のひよどり祥子さんの、別名義によるホラー漫画集です。
ホラーということでちょっとグロい話もあるけれど、実はコメディ?といった体の作品群。
表題作ほか、エイリアンの妄想に取り憑かれた父の狂気を描いた「星空パルス」など、よくよく読むと笑いが込み上げてくるのは、ホラー・コメディが得意な作者ならでは。
ホラー好きはもちろん、ブラックな笑いが好きな方にもオススメのホラー漫画集です。
伊藤潤二自選傑作集
伊藤潤二さんの「伊藤潤二自選傑作集」。伊藤潤二さん自らの解説が付いた9編と、伊藤潤二作品で有名な「あのファッションモデル」を描いた番外編を収録。
自分たちの顔が気球となって襲ってくる名作「首吊り気球」や、超有名シリーズ「富江」の1編など、収録の各話は作者自らが選んだだけあって、どれも読み応えあり。
個人的に印象に残ったのは、一晩に長時間の夢を見る入院患者が、夜を重ねる内に次第に変貌していく様子を描いた「長い夢」。伊藤潤二さんの発想・表現力の凄さを実感できる傑作です。
りんたとさじ
オガツカヅオさんの「りんたとさじ」。ホラー漫画「ことなかれ」にも登場するリン太とさじ。二人が様々な怪異に出会う、全8編。
グロ表現や血しぶきにたよらない、ジワジワと心に染み込む恐怖。オガツカヅオさんの巧みなストーリーテリングが、クセになるおもしろさ。
「ことなかれ」は「りんたとさじ」を読んでいなくても楽しめますが、本作からの流れで読むと、より楽しめること請け合いです。
スノウホワイト グリムのような物語
諸星大二郎さんの「スノウホワイト グリムのような物語」。
「七匹の子やぎ」「スノウホワイト」「ラプンツェル」など、グリム童話を諸星大二郎風にアレンジしてコミカライズ。
怖い話風、SF風、コメディ風など、バラエティ豊かな全12編を収録しています。
ホラー漫画オンリーではありませんが、全体から漂う「童話ならではのホラー・ブラック感」が、またひと味違う感覚です。
グリム童話って、知っているようで意外と知らない話があったりして、それもまた面白い。諸星氏自身による全話解説もあり。
おとろし
カラスヤサトシさんの「おとろし」。現代劇から昔話風まで、各話6Pのショート・ホラー全24編。
マムシをたやすく捕まえる手を持つ老人、その心の内に宿った妄執を描く「マムシデ」。
廃村にある祖母の生家を探し当てた女性に芽生えた、黒い心「想い」。
殺した夫を埋めるために掘った床下から、なぜか屋根が現れ…「床下の屋根」。
など、短い話の中にきっちりと怖さを詰めこんだ、秀作ホラー。
短編集にありがちな、時折いい話を混ぜてくるといった手ぬるいことはせず、収録全編が怖さを追求している。その姿勢が素晴らしい。
顔を見るな
「恐之本」の高港基資さんの「顔を見るな」。都市伝説風の恐怖話や、心霊・怪奇現象を主題とした正統派のホラー漫画、全9編を収録。
異常に安い中古車、その価格の理由「安い車」。
引っ越し先で少女が見た、天井からぶら下がる老女「天井のおばあさん」。
いわくつきのポストにいたずらしたその日から、謎の嫌がらせが始まる「ポスト爺」。
など、ベーシックな題材ながらしっかりと怖さを感じさせてくれる、恐怖話の数々。つーか怖い。
悪い夢のそのさき…
うぐいす祥子さんの「悪い夢のそのさき…」。表題の連作5編ほか、計10編のホラー短編を収録。
うぐいす祥子さんの漫画は、怖さ・グロさの中にも、どことなくユーモラスな感じが含まれているのが特徴。
ですが、本作に収録の漫画は読後にちょっと嫌気なモヤモヤ感が残るという、これまでのうぐいす祥子漫画より、ホラー寄りに踏み込んでいるイメージ。
エキセントリックな彼女に穴掘りを頼まれる「彼女のスーツケース」、古い洋館に足を踏み入れた男女の顛末を描く「囚われ人」など。
ビクビクと怖さを感じながら読み進め、そして最後にクルッと世界の回る感じを味わえる、まさに「悪い夢のそのさき」を感じるホラー漫画です。
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