「この物語は
とある女猟師が自らが犯した過ちを認めるまでの
贖罪の物語である」
そんな冒頭から始まる漫画「狩猟のユメカ」。人間と野生動物がタッグを組んで「異種間チームバトルロイヤル」を繰り広げる、異色の狩猟アクション漫画です。
作者は古部亮さん。単行本は2020年12月現在2巻まで刊行中。以下続刊です。
「狩猟のユメカ」感想
あらすじ
女性ハンター・狩野夢歌(かのうゆめか=ユメカ)は秩父市山中でハンティング中に、日本では見ない巨大なシカに遭遇。自らを「シュジャー」と名乗るそのシカ=オリックスに、「俺はあんたに敵意は持っていない」と話しかけられる。
異常な事態であること、互いに敵意の無いことを確認したユメカとシュジャーは、共に下山。そこでバイクや車が使えないこと、電気・ガス・水道が止まっていること、そして「世界に人がいないこと」に気づく。
戸惑う二人だが、息つく間もなくシュジャーが別の人間、そして「肉食獣」の匂いを察知。救出に向かうが、同じく人語を話すハイエナの群れに囲われ―。
疑似限定空間+異種族タッグバトル
以上が「狩猟のユメカ」導入部。
以降、文明の消えた世界で「人間」と「言葉を話す動物」たちが出会い、時に仲間になり、時に戦いを繰り広げる、といったアクション・ストーリーが展開されます。
その世界観をまとめると、
- 場所は埼玉県秩父市
- ユメカら一部の日本人以外は、突如その場所に出現
- シュジャーら世界に生息する動物も同様
- 人間・動物問わず、言葉の壁は無い
- 電気を使う道具などは、持ち込んだもの以外使えない
- それらの現象の理由は一切不明
といったもの。「(異世界)転生」というよりは、擬似的な「限定空間バトル」といった方が近いでしょうか。
登場人物たちは誰かからバトルを強制されている、ということは無いのですが、「どこかわからない場所で」「肉食動物に襲われるかもしれない」という不安定な状況・疑心暗鬼から、衝突しがち。緊張感のある状況となっています。
リアルな武器描写が魅力
劇中では迫真の戦いが繰り広げられるわけですが、その中でキラリと光るのが、リアルな武器描写。劇中では多彩な武器が登場しますが、その描かれ方がいずれも実に!本格的。
その中でも目を引くのが、ハンターであるユメカの持つ狩猟用ポンプアクション式ショットガン「ブローニングBPS」。
彼女が銃に弾丸を込め、「シャコンッ」とポンプをスライドさせて装填するアクションや、長い銃身を苦もなく取り回し狙いを付ける様が、実にカッコイイ!
またカッコよさだけではなく、ある戦いでは「ブローニングBPSならではの特性」を活かした立ち回りを見せたりと、武器の存在が物語の大きな魅力となっています。
そしてそれらが劇中で「ごく自然に」描かれていることに驚くのですが、本作にはミリタリー監修が付いているということで納得。
また2巻巻末には「取材協力」として「クマ撃ちの女」の安島薮太さんがクレジットされています。
SNS等をチェックすると、古部亮さんは狩猟免許を持ち、また安島薮太さんとは元同僚であるとのこと。銃描写のリアルさもなるほどな~という感じです。
言葉を解する動物を撃てるのか?
しかし武器を持っているのはユメカだけではない。秩父市に「現れた」人間の中には危険な人物も存在し、またユメカらに敵意を向ける野生動物たちも多数。
その中で幸運な出会いを果たし仲間となった、ユメカとシュジャー。「敵」となる人間または動物に、協力して対峙していきます。
ここでポイントとなるのが、「牙をむく動物もまた、人間の言葉をしゃべる」ということ。
ユメカは狩猟用の強力な銃を持ち、それを撃つことにためらいの無い人間ですが、それはあくまでも猟師・ハンターとして。決して殺戮を好む人間ではありません。
そんな彼女が「意思疎通のできる野生動物」を前にした時、引き金にかかるその指には、ためらいが…?
「人語を話す動物」という特殊空間ならではの設定が生み出す、これまでのバトルロイヤルものには無い風味が、独特の緊迫感を演出。思わず手に汗を握ります。
シュジャーとユメカの結びつきに期待
そして2巻に至り、多くの敵・仲間が登場。物語は混迷の展開へ―。
といった感じでなかなか面白いのですが、個人的にはもうひとつ!物足りないところも。具体的には「シュジャーとユメカの結びつき」に、もう少しスパイスが欲しい。
ユメカには銃という強力な武器があり、またシュジャーは強靭な肉体を使った攻撃方法を持つのですが、それらが今ひとつ絡み合っていない感じ。
「狩猟のユメカ」の独自性は「人間と動物のタッグ」であり、ユメカとシュジャー以外はお互いの特性を活かしたりもしているのですが、肝心の主人公コンビの噛み合わせが弱い。
もっとユメカとシュジャーでなければ!というエピソードやコンビネーションがあれば、物語がもっと盛り上がる気がします。ストーリーはまだまだ序盤ではあるのですが、早く彼女たちの関係性の強化を見たいところ。
まとめ
以上、「狩猟のユメカ」2巻までの感想でした。上記のように少し物足りない部分もありますが、ストーリー・設定・キャラクターなど全体的にはとても魅力的な物語。これからもっともっと、面白くなるであろうと期待しています。
何より、物語の中にさりげなく織り込まれている、本格的にしてセンスあふれる武器描写・アクションは、本作の大きな魅力。このクオリティを保ったまま、「ユメカたちはなぜこの世界に来たのか?」という大きな謎に向かって突き進んでいただきたい。
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