マンガ好きの間で、近年たびたび話題に上がる「編集不要論」。編集にひどい目に合わされた、なんて漫画家さんの告発が本にもなったり。
果たしてマンガ作りに編集は不可欠なのか?それとも?
そんなマンガ業界の内情や課題をどストレートに描く漫画が、青木U平さんの「マンガに、編集って必要ですか?」。連載はWEBメディア「くらげバンチ」、単行本は1~2巻が刊行中です。
↑こちらから連載が読めます。
「マンガに、編集って必要ですか?」レビュー
あらすじ
主人公は、さえない中年漫画家・佐木小次郎(45)。キャリア8年目、青年誌畑ひとすじで連載を続けてきたが、近作はいずれもコミックス2~3巻で打ち切り。「本気でヤバい」と焦りを感じている。
その佐木を担当するのは、若手女性編集者・坂本涼(24)。漫画に静かな情熱を燃やし、良い作品を作るために佐木とコミュニケーションを図ろうとする、真面目な業界人。
が、その坂本さんの存在そのものが、実は目下の佐木の悩みのタネ。打ち合わせ中、「話はそれるんですけど~」から始まる『不毛な雑談』が多い彼女。早く漫画を描きたい佐木の焦りは、坂本さんの態度で加速して―。
漫画家と編集のギャップ
「マンガに、編集って必要ですか?」序盤では、こんな中年漫画家と若手女性編集者のどうしようもない隔たりが、ユーモアを混じえて描かれます。
商業的に崖っぷちな佐木に対し、意味のわからない心理テストをしたり、佐木の感覚とはズレたトピックを持ち出したりと、一見トンチンカンな坂本さん。その坂本さんに対して内面怒りを感じながらも、人が良すぎるために変に迎合してしまう佐木。
この佐木先生の、お人好し過ぎる態度が面白い、というか、わかるわぁ~、って感じ。日本の一般的なオジサンは、なかなか思っていることをハッキリ言えないイメージがありますが、まさに典型的なその姿。思うことを伝えたいけどできない、佐木先生の焦燥がゆるい笑いを生み出します。
マンガに編集は必要なのか?
そんな漫画家と編集のゆるい掛け合いを楽しむ漫画なのか、と思いきや、さにあらず。「マンガに、編集って必要ですか?」というタイトルどおりの内容に、徐々に深く切り込んでいきます。
Webからデビューして「編集っていらなくない?」と豪語する、今どきの若手漫画家。打ち切りを告げられる佐木に対して、「それも貴重な経験だ」と語る友人の人気漫画家。キャリア初期から佐木の面倒を見てくれた、ベテランの編集者など。
彼らとの会話などから浮かび上がってくる、現代漫画業界の編集者事情。数字を求めるのか?それとも「面白い漫画」づくりを求めるのか?そして、漫画に編集は必要なのか?
意外なストーリー展開
…が、実は読者にとっては、漫画に編集が必要かどうかなんて、ぶっちゃけどちらでもいい(興味深い内容ではあるけれど)。「面白い漫画」が読めれば、それでいい。という人もいるでしょう。
しかし単なる「漫画業界の裏話を描く漫画」というメタ構造的な漫画ではないのが、「マンガに、編集って必要ですか?」の特筆すべきポイント。佐木先生と坂本さんの二人三脚は、1巻終盤で意外な局面を迎えることに。
ネタバレになるので細かくは書きませんが、ちょっと笑ってしまうぐらいぶっ飛んだ展開。そして2巻で少しずつ明らかになっていく、坂本さんが漫画編集を志した理由。変わっていく二人の関係性。果たして佐木先生の漫画人生はどうなるのか…?
という感じで、「漫画業界あるある」だけではない、ストーリー漫画としてシンプルに面白い物語が紡がれていきます。マンガに編集は必要か?という気になる問いかけを軸に展開され、かつ物語的にも続きが気になる漫画です。
まとめ
以上、「マンガに、編集って必要ですか?」のレビューでした。おそらく作者・青木U平さんの経験が、全体に大きく反映されているのでしょう。物語の絶妙な強弱の付け方が、なんだかクセになってきます。
それにしても、佐木先生の人の良さは、見ていて心配になるぐらい。だけど何だか心地よいから不思議。彼の奥さんもとてもとてもユニークなキャラクターなんですが、それはぜひ本編でご覧ください。
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