行方不明となった妹を探すため、有象無象が蠢く闇社会に一人挑む女性化学教師。武器は己の知識のみ―。
高口揚(たかくちやなぎ)さんの漫画『腹腹先生(はらはらせんせい)』。集英社のWebメディア『少年ジャンプ+』連載で、全4巻完結。以下、『腹腹先生』の主なあらすじや見どころなどをご紹介します。
『腹腹先生』あらすじ
地味で冴えない底辺高校の化学教師・津雲あずさ(23)。化学に夢を抱きながら、それを「奪われた」過去を持つ彼女の心の支えは、唯一の肉親である妹・ルカ。
しかしそのルカが、ヤクザに追われていると思しき電話を最後に失踪。あずさは彼女がホステスをしていた新宿・歌舞伎町のクラブに、単身乗り込んでいく。
そこに現れたのは、クラブのケツ持ちをしている片目のヤクザ・鎧塚。「俺らもルカを探している」と息巻く彼の部下に、あずさは暴行を受ける。そこで突如起こる爆発!あずさの手には手製の爆弾が。
「ここに…■■■と■■■■をつめた爆薬があります―」
『腹腹先生』のココが面白い!
裏社会に単身挑む女性化学教師
突如姿を消した妹を探すため、「化学」を頼りに社会の闇に一人挑んでいく主人公・あずさ。漫画『腹腹先生』では、そんな彼女の息詰まるような「戦い」が描かれていきます。
第一話で手製爆弾を手に、龍王興行のヤクザたちと渡り合った彼女。その化学知識を見込まれ、幹部・鎧塚とともにルカの行方を追うことに。しかしあずさが踏み込んでしまったのは、まっとうな感覚が通用しない裏社会。
暴力と狂気が渦巻く暗闇の中で、己が磨いてきたものだけを頼りに「たった一人の家族」を救おうとする彼女。これまでの常識が全く通用せず、一歩間違えれば「死」が待っている世界で、しかし徐々に覚悟を見せていく。その表情に現れる「決意」に引き込まれる…!
謎と欲望が錯綜するサスペンス
一方の武闘派ヤクザ・鎧塚。いかつい眼帯で覆った右眼と、対象的にギラつく左眼。一見、話の分かる風ながら、裏社会でのし上がるためには手段をいとわない男。全身から「狂犬」の雰囲気を漂わせる彼の欲望が、あずさの願いを飲み込まんとする…!
裏社会に通ずる鎧塚を仕方なしに頼るあずさ。彼女の危険な力を利用したい鎧塚。二人は図らずも共闘していくわけですが、物語は「東京中のヤクザがルカを探す」事態に発展。そしてそこには「普通のホステスをなぜ…?」という謎が。
この「謎」と「欲望」が激しく入り混じったサスペンス感、非常に毒っ気があって、読みながらヒリヒリすること必至。読み手の心も、どんどん闇の中へと足を踏み入れていくあずさの心とリンク、泥沼に引きずり込まれるような絶望を感じます。
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「化学」がキーを握る物語
しかしごく普通の教師であるあずさ。その立場は裏社会においては圧倒的な弱さ。やがて彼女は当然のように、鎧塚の前にやがて屈服…かと思いきや、1巻後半ではその「協力関係」の構図を大きく変える出来事が。
…まあ正直に書くと「それが出来るんだったら何でもありなんじゃ?」という気が無きにしもあらずですが、そこは置いといて(笑)。化学要素が『腹腹先生』という物語を、絶妙なバランスで成り立たせるキーとなっているのが、独特の面白み。
本作は科学監修に、漫画『Dr.STONE』の監修もしている”くられ”(ドクタークラレ)氏が参加。裏社会のサスペンスに「化学」というファクターがどのように影響していくのか?が大いに気になるところです。
感想・レビューまとめ
以上、高口揚さんの漫画『腹腹先生』感想・レビューでした。突如暴力の嵐に放り込まれた女性が、「化学」を武器に反撃を見せていく物語。2022年11月刊行の4巻で完結となりました。
最終的には序盤とは全く異なる立ち位置となるあずさ、その力強い表情が印象に残ります。全体的にはやや荒削りながらも、序盤の伏線を回収、まずまずのまとまりを見せて終了といったところです。
ちなみに『腹腹先生(はらはらせんせい)』というタイトル、実に変わったものですが、元ネタは1974年に地下出版された、爆発物等に関する書物『腹腹時計』 (はらはらとけい)との話が。
なかなかマニアックな(笑)バックグラウンドですが、知っていると物語により面白みが増すかもしれません。
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