連作形式の短編漫画集や、オムニバス形式の漫画単行本の中から、読んで面白かったおすすめ作品のまとめです。
記事中で紹介している連作短編集・オムニバスについては、
- 連作短編集…各話が同一世界観上で展開されている、または各話の登場人物に共通性がある。
- オムニバス…『SF』『ホラー』など、特定のテーマに沿ってまとめられている。
という解釈で取り扱っています。
連作・オムニバス形式の短編漫画リスト
音盤紀行
毛塚了一郎さんの『音盤紀行』。様々な時と場所で、レコードが時に主役、時に小道具となり、人の縁をつないでいくドラマ描く短編集。2023年10月現在、1~2巻が刊行中。
第一話『追想レコード』が特に印象的な一編。祖父の遺品であるレコード、そのジャケットには謎の言葉が。買取査定を依頼した孫とレコード店員、女性二人がその真意をたどり…
というライトな冒険。アナログ感のあるドラマが心に染みます。緻密に描かれた「レコードのある風景」にも注目。
営繕かるかや怪異譚
小野不由美さん原作の小説を、『青の祓魔師』の加藤和恵さんがコミカライズした『営繕かるかや怪異譚(えいぜんかるかやかいいたん)』全1巻。
古民家や旧家に息づく、得体の知れない「魔」。その存在に怯える人々を営繕屋の青年が救っていくホラー・オムニバス。
特徴的なのは、主人公が「霊感を持たない」こと。そのため退魔ものではなく、落ち着いたドラマ感のあるホラーといった作品。382ページのビッグ・ボリュームで描かれる、加藤和恵さんの緻密な作画と巧みな物語運びが必見です。
外天楼
石黒正数さんの『外天楼』全1巻完結。作中の舞台「集合住宅・外天楼(げてんろう)」に集う人々の日常、はたまた不可思議な出来事を描くオムニバス。
エロ本ゲットに知恵を凝らす中学生たち。特撮ヒーローもので突如起こった殺人事件の謎。人工生命体「フェアリー」を巡る騒動…などなど、笑いあり、シリアスあり、バラエティ豊かな物語。
しかし一見無関係な各話の繋がりが徐々に明らかになり、終盤ではサスペンス風味の漫画へと変貌していく、トリッキーな構成が面白い!第一話を読んだ時には想像もできないラストの、何とも言えない読後感と言ったら…。
スキエンティア
戸田誠二さんの『スキエンティア』全1巻。超高層タワーの頂きから、科学の女神・スキエンティアの彫像が見守る街。そこに住む人々の人生をほんのりSF風味を絡めて描き出すオムニバスです。
全身マヒの老女に3ヶ月、自分の体をレンタルする女性を描く『ボディレンタル』ほか、人生に悩み、苦しみ、傷つきながらも懸命に生きる人々。その生活にほんの少し、科学の力をプラスしたら…
そんなライトなSF風味のヒューマン・ドラマ。戸田誠二さんらしい味わいと深みのある短編集です。
メランコリア
道満晴明さんの『メランコリア』。巨大彗星メランコリアがその直上に迫る地球上で展開される、SF・オカルト・不思議系などバラエティ豊かな物語を描くショート・ストーリー上下巻。
道満晴明らしいポップでちょいエロなキャラクターが繰り広げるシュールな笑い。その裏では刻一刻と地球滅亡のカウントダウンが進んでいる、という構図が何とも言えないおかしみと薄ら寒さを演出。単話としても全体としても面白みのある漫画です。
うちらきっとズッ友 ―谷口菜津子短編集―
谷口菜津子さんの『うちらきっとズッ友 ―谷口菜津子短編集―』。多感な小学生女子たち、幼なじみの男子、異性の友達、気の合わない女子大生たち…など、様々な人間関係を「友情」をテーマに描く連作ストーリー。
人と人の間に横たわる繊細な心情をユーモアを交えながら、時に優しく、時に鋭く描き出す谷口菜津子さん。その手腕が遺憾なく発揮された物語たち。各話に込められた様々な「友情」が、心に刺さります。
図らずも家事から開放された主婦が、偶然出会った旧友たちとの旅行で「真実」を知り、成長していく『モノクロの修学旅行』が、後日譚(電書限定?)も含め味わい深い一話。
アイリウム
1錠で一日分の記憶を「飛ばす」ことのできる薬・アイリウム。その薬を使った人々に起こる悲喜こもごもを描く、小出もと貴さんの『アイリウム』全1巻。
各話「アイリウム」という同じ小道具を使いながらも、ヒューマン・ドラマだったりサスペンスだったり、はたまた感動話だったり後味の悪い話だったり、描かれる内容が全く異なるという点がユニーク。
その中でも特にドキドキするのが第5話『ホスト』。サイコなオーナーから逃げ出すために、記憶の飛ぶアイリウムを盛って盛られてのサスペンス。アイリウムの性質を上手く盛り込み、二転三転する展開が読ませます。
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回游の森
自分の性的指向を知る年下の従妹と再会した男。真夜中に一心不乱に穴を掘る女に出会った少年。爬虫類にしか興味を抱けないエリート会社員…。
彼・彼女らの心のなかにある昏い「森」が、不思議と読むものの心を捉えて離さない。それは誰しもが持つ「森」と共鳴するが故なのか…。
か、どうかはわからないけれど(笑)、暗めの絵柄と相まって、読み進めるうちにずるずると深い森の奥に引きずり込まれるような、独特の凄みを感じる短編漫画集、灰原薬さんの『回游の森』。この暗さがたまらない。
手紙物語
鳥野しのさんの『手紙物語』全1巻。ファンタジー、ライト・ミステリー、SF、ヒューマンドラマなど、様々なジャンルの5編を収録。それら全てに小道具として「手紙」が登場するオムニバス作品集。
アナログな「手紙」という存在が人の心と心を結びつける役割を果たし、各ドラマの良いアクセントに。美しい作画となめらかなストーリー、そして存在感のあるキャラクターたちも、短編とは思えない読み応えを演出しています。
10年に一度、とある目的を持って宇宙に集まる人々を描くSF『星の林に月の舟』は、特に印象的。広大な宇宙と郷愁を感じさせてくれる一編です。
珈琲時間
豊田徹也さんの『珈琲時間』。女性チェリストと怪しいイタリア人の愉快な掛け合いを描く連作、コーヒーの焙煎を介した叔母と姪の会話など、全17話の物語全てにコーヒーが小道具として登場するオムニバス。
シリアス風味なドラマ、笑えるコメディ、人生の不思議・悲哀をじわりと感じる話など、作者ならではの美麗でセンスあふれる作画によって紡がれる物語たち。
そしてそこにはいつも苦味の効いたコーヒーがある。
にわにはににん
中野シズカさんの『にわにはににん』全1巻。「庭」をテーマに描かれるオムニバス。
「スクリーントーンを幾重にもかさねて漫画を紡ぎ出す」という独特な描画方法を用いる作者。その端正な作業から生み出されるファンタジックな世界がとても!ステキ。
不思議で幻想的なストーリーと、繰り返し眺めたくなる美しさを持つコマの数々は、他の漫画では味わえない魅力。漫画好きにぜひ読んで欲しい一作です。
名づけそむ
志村志保子さん『名づけそむ』全1巻。各話、「名前」に絡んだ人間模様が展開されるオムニバス。
ときにはハッピーエンドじゃないこともあるけれど、世の中にはきっと、こんな人生のワンシーンがあるのだろうな、と感じさせる大人の短編集です。
かつて家族を捨てた女性が偶然に別れた娘と再会し、「結婚式に出て欲しい」思いがけない誘いを受けるが…という第一話が、とても秀逸。物語の中で「名前」にそういう役割を持たせるのか!と素直な驚きが。
HER
ヤマシタトモコさんの『HER』。それぞれの日常生活を普通に送る、5人の女性(と1人の男性)。モノローグで語られるその内面と、終盤で噴出する本音。そして最後はちょっと笑えるオチをつけるw、というオムニバス。
人の内面を見ていく、ということに対する怖さ、居心地の悪さ。そしてあまりにも赤裸々にさらけ出されるナイーブさに感じる、不思議な恍惚感。生々しい人間性がビンビン伝わってきます。
しかし赤裸々なままで終わると何だか微妙になるところを、笑いでチャンチャン♪と締める形式が好き。
グッド・バイ・プロミネンス
ひの宙子さんの『グッド・バイ・プロミネンス』全1巻。少しずつ絡み合った関係性を持つ登場人物たちの、その胸の内が時にシリアスに、時にコミカルに描き出されていく全8編。
少し変わった同級生を優しく見守る委員長 → 同級生の母と叔父の複雑な関係 → 若かりし叔父の友情と愛情 → 委員長の先生が義姉に抱く気持ち → 義姉の職場恋愛事情…
といった感じで、各話がゆるやかに繋がる読み応えが素晴らしい!最終話のあと、また頭からページをめくりだしたくなる連作短編集です。
まとめ
以上、「連作短編集・オムニバス形式の漫画まとめ」でした。また面白い作品を読み次第、随時追記していく予定です。
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