SF漫画「火の鳥」は今読んでも面白いの?全巻あらすじ紹介&感想

数多くの漫画を遺した漫画界の巨匠・手塚治虫さん。有名作品を挙げれば枚挙に暇がありませんが、その中でも外せない漫画の一つがSF「火の鳥」。

作者のライフワークと評される漫画ですが、今あらためて読み返してみると「手塚治虫をあまり知らない人は、いま初めて『火の鳥』を読んでも面白いと感じるのか?」と素朴な疑問が。

「火の鳥」は間違いのない名作なのですが、手塚漫画は独特の「クセ」があり、知らないで読むと少し戸惑いそうな気がします。

そこで未読の読者向けに、漫画「火の鳥」の概要・ポイントをまとめてみました。後半では「火の鳥」全巻(講談社「火の鳥 手塚治虫文庫全集」版)のあらすじと感想も掲載しています。

漫画「火の鳥」とは?

「火の鳥」概要

手塚治虫さんの漫画「火の鳥」。初出は学童社「漫画少年」1954年6月号~1955年5月号での連載(通称「漫画少年版」)です。

この漫画少年版は未完に終わりますが、内容を変えて講談社「少女クラブ」にて1956年5月号~1957年12月号まで連載(通称「少女クラブ版」)。

その後、掲載誌を「COM」(虫プロ商事発刊の漫画雑誌)に移し、1967年1月号より新たに「火の鳥 黎明編」としてスタート。以後「マンガ少年」掲載を経て、「野性時代」1988年2月号まで掲載された「太陽編」までが描かれています。

「黎明編」以降の構成は、下記の12編から成っています。

  • 黎明編
  • 未来編
  • ヤマト編
  • 宇宙編
  • 鳳凰編
  • 復活編
  • 羽衣編
  • 望郷編
  • 乱世編
  • 生命編
  • 異形編
  • 太陽編

「火の鳥」は以降のエピソードの構想もあったそうですが、手塚治虫さんが1989年に亡くなったために、物語全体としては「未完」。ですが最初期の「漫画少年版」を除き、各編は個々で完結しているため、読書に大きな支障はありません。

なお「火の鳥」の単行本は、紙・電子書籍などで様々なバージョンが刊行されていますが、本記事の内容は電子書籍版「火の鳥 手塚治虫文庫全集」全11巻および、「火の鳥 ―少女クラブ版― 手塚治虫文庫全集」(いずれも講談社)を元に構成しています。

「火の鳥」ってどんな話?

100年に一度その身を自ら焼き生まれ変わることで、永遠に生き続ける生命体・火の鳥。飲むと不老不死となるその生き血をめぐって、人間たちが争い、苦しみ、悩み、悲しみ、あるいは希望を見出していく姿が、「輪廻・転生」を絡めて描かれていきます

手塚治虫さん本人による『「火の鳥」と私』(「火の鳥 手塚治虫文庫全集」2巻収録。初出1968年)によると、「火の鳥」最初期の作品となる「『漫画少年版』火の鳥」の連載にあたり、

ぼくは、この火の鳥を通じて、日本の歴史を、ぼくなりに描いてみたいと思いました。そして、そのテーマは、いつの世にも変わらぬ人間の生への執着、それに関連しておこるさまざまな欲の葛藤を、火の鳥の狂言まわしにして描くことにしました。
(※原文ママ。強調は管理人による。)

という構想があったそうで、これが後に長期シリーズとなる「火の鳥」のベースとなっているようです。

シリーズ第一作「黎明編」ではこの構想の通り、卑弥呼なども登場する古代日本の様子が描かれ、手塚治虫が火の鳥を絡めて再構築した「日本の歴史」が表現されています。

また物語では日本の歴史だけでなく、未来におけるSFストーリーも展開。超生命体・火の鳥の存在や自身の運命に翻弄されていく人々の悲喜こもごもが綴られ、手塚治虫先生本人の言葉にある「いつの世にも変わらぬ人間の執着」「さまざまな欲の葛藤」が描かれます。

なお物語上では「火の鳥」は狂言回し、というかシンボル的な存在。編によってはほとんど話に絡まないことも。各編の主体となるのは、舞台となる時代時代を生きる「人間」であり、その濃厚なドラマが見どころとなっています。

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「火の鳥」はいま読んでも面白い?

さてそれでは本題。果たして漫画「火の鳥」は今読んでも面白いのか?

簡潔に書くと「面白いけど、若干クセがあるので慣れが必要」というところでしょうか(※主観です)。「面白さ」と「クセ」は異なる次元の話ですが、手塚治虫独特の漫画技法や表現に慣れが無いと、面白さまで行き着かない可能性があるかもしれません。

「面白み」としては、まずバラエティに富んだ多様な物語たちが、非常に魅力的。1巻「黎明編」でファンタジー風味の歴史ロマンが描かれたかと思えば、2巻「未来編」でハードなSFストーリーが展開されたりと、今あらためて読んでもその発想の豊かさに驚かされます。

また火の鳥というシンボルのもとで繋がる各編には、輪廻・転生を繰り返す共通のキャラクターも登場し、『「火の鳥」という大きな括りの物語』としての面白さがあります。全11巻を読むと、その壮大なSF的スケール感に打ちのめされること必至。

一方、作者特有の表現に、昨今の漫画作品には無い独特の「クセ」があります。特に手塚治虫初心者が戸惑いそうなのが、ギャグ的な描写。例えば時代ものなのに、キャラクターがいきなり「電話」を手にして遠方と通話したり、といった表現が随所に登場。

これは手塚治虫漫画に慣れ親しんだ身からすると、「手塚文法」というか「お約束」みたいなものなんですが、初見の人は「何でこの時代に電話があるの?」なんて真面目に突っ込んでしまうのでは。

まあ最初は気になるかもしれませんが、あまり固く考えずに「こういうもの」として流してください。次第に慣れます(笑)

ギャグ傾向は特に「ヤマト編(3巻)」において顕著なのですが、後半に行くに従いシリアス要素が強くなってくるので、その頃には物語にどっぷり浸かっているはず!

「火の鳥」各編あらすじ・感想

以上を踏まえて以下、「火の鳥」全11巻+αのあらすじ・感想です。タイトル横の()内にある巻ナンバーは講談社「火の鳥 手塚治虫文庫全集」のものです。

黎明編(1巻)

古代日本、クマソ(九州南部の地名)の部族は、不老不死をもたらす「火の鳥」を求めるヒミコの軍勢に滅ぼされる。一人生き残り、武人・猿田彦の奴隷となった少年ナギは、復讐の機会を窺うが…?

日本の成り立ちを、火の鳥の血を求める人々の争いを組み込みながら大胆に再構築した「黎明編」。後の物語に繋がる「種」が蒔かれる、「火の鳥」の大いなる一歩となる巻です。なおカバーの鼻が大きい人物が「猿田彦」。彼は輪廻転生を繰り返し、時に我王、時に猿田博士と名を変えて「火の鳥」の大部分に登場する物語の中心的人物です。

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未来編(2巻)

西暦3404年、地表は荒廃し、世界に5つのみ存在する地下都市「永遠の都」で無気力な暮らしを送る人類。エリートである人類戦士・山野辺マサトは、人間に変態した不定形生物ムーピー・タマミと愛しあっていたが、ムーピーを殺せという上官・ロックの命に背き、地表へと脱出する。

一方、地表のドームで生命を研究する猿田博士は、突如現れた火の鳥から「地球は死にかかっている」とのメッセージを受ける。そして「地球をなおせる人間がもうすぐここへ来る」と伝えられるが…。

日本の始まりを描いた「黎明編」から一転、SF的終末世界を描く「未来編」。この2編を読むだけで、「火の鳥」という物語の大まかな雰囲気が掴めるのでは。後半で山野辺がたどる運命が壮絶過ぎてスゴイ

ヤマト編(3巻)

「黎明編」のもう少し後の古代日本。ヤマト国の王子オグナは、多くの人民を犠牲にする墳墓づくりに反対。厄介払いのためクマソ国の長・川上タケルの討伐を命じられる。そのタケルはオグナを手厚くもてなし、またタケルの妹・カジカはオグナと深い仲に。火の鳥にも出会ったオグナは、進むべき道を迷うが…。

古代日本に生きる二人の男女のラブ・ロマンス、そして数奇な運命を描く「ヤマト編」。ヤマトタケルの伝説とも絡めて展開される「火の鳥」ストーリーが面白い。と同時に、シリーズの中でも手塚ギャグが断トツに目立つ問題作(笑)。まあサラッと流して。

宇宙編(3巻)

西暦2577年、オリオン座ペテルギウス付近を航行中の宇宙船内で、乗員の一人・牧村の死体が発見される。さらにトラブルにより、残り4人は個人用ボートで脱出。宇宙をさまよう過程で、実は牧村は殺されたのでは?という疑惑が持ち上がる。果たして事件の真相は?そして乗員たちの運命や如何に?

サスペンス・ミステリー仕立てのSF。特筆すべきは、斬新過ぎる各ページのコマ割り。コマの流れを4分割することで4台の個人用ボートの中を表現したり、といった漫画技法が強く印象に残ります。今、こんな風に漫画描く人、ほとんどいないのでは。もちろん火の鳥や人間の業がしっかりと絡んで、迫真の読み応えあり。

鳳凰編(4巻)

奈良時代、出生時の事故で片目・片腕を失った我王(がおう)。世を憎む彼は成長し、盗賊の首領に。悪逆非道の限りを尽くすが、いずれ捕らわれの身に。しかし死罪になるところを高名な僧正に拾われ、その旅に同道。やがて仏師としてのその才能を開花させてゆく。

「火の鳥」の中心的人物・猿田彦(=我王)の送る過酷にして数奇な人生を、仏の道と絡めて描く歴史ロマン。約370Pの大ボリュームながら、その凄絶な生き様に圧倒されて一気読み必至。シリーズの中でも屈指の完成度。人を殺め続けてきた我王が魔除けの彫刻を彫り、初めて人から感謝されるシーン。その時の彼の表情が忘れられない

復活編(5巻)

西暦2482年。少年・レオナはエアカーから転落し一度は死亡するも、人工頭脳の力を借りて蘇生。しかし有機物が無機物にしか見えない体質になってしまう。人を人として認識できないレオナは、やがて唯一「人間」に見えたロボットのチヒロと愛し合うようになるが、その死因に殺人の疑いが浮上し―

生き物が鉱物のように見える、というショッキングな描写に始まり、やがて生命とは何なのか?という深い問いにたどり着く「復活編」。…からの、「未来編」に登場した猿田博士の助手ロボット「ロビタ」が生まれるまでの数世紀を描く、という予想もつかない展開へ。「ロボットの反乱」シーンはSFファン必見の迫力

羽衣編(5巻)

漁師が天女の羽衣を奪って夫婦になる、という「天の羽衣伝説」を元に、火の鳥を絡めてSF仕立てに再構築した物語。「観客の前で演じられる舞台の演目」が「全編、1ページを均一の4コマに分割」した形式で描かれます。他の編とは大きく異なるテイストで、箸休め的な掌編。

望郷編(6巻)

罪を犯し地球から逃亡、辺境の惑星エデン17で暮らそうとするジョージとロミだったが、事故でジョージが死亡してしまう。一人取り残されたロミは、自分の息子たちと子どもを作ることを決意。コールドスリープ、そして近親相姦を繰り返すが、女の子が生まれない。そこに救いの手を差し伸べた火の鳥は、不定形生物ムーピーを連れてきて―。

辺境の惑星で一人の地球人女性が歴史をつくり、そして滅びていくまでの過程を描くSFストーリー。火の鳥の気まぐれで物語が進むような気がするのはご愛嬌(笑)。「未来編」で登場したムーピーや、「宇宙編」登場の宇宙飛行士・牧村も登場。「火の鳥」ワールドの繋がりを意識させる一編

乱世編(7・8巻)

1172年の京都。木こりの弁太は誤解から侍に家族を殺され、恋人”おぶう”をさらわれる。おぶうを探して五條橋で刀狩りをする弁太は、めぐり合わせから山に住む「神サマ」の下で生活する青年・牛若と行動を共にすることに。一方、器量の良さから貴族の娘に仕立て上げられたおぶうは平清盛に仕え、その寵愛を受けていく…。

源平の争い、そして不死をもたらす火の鳥を巡る諍いに巻き込まれ、別れ別れの運命をたどる恋人たちを、単行本にして2巻分のボリュームで描き出す大作。おぶうを寵愛する平清盛が実に俗っぽくって、いい味出してます。ちなみに「神サマ」は「鳳凰編」の主役・我王。

生命編(9巻)

西暦2155年。立体テレビのプロデューサー・青居は、視聴率を求めてクローン人間をハントする番組を企画。世界で唯一クローン人間を培養可能な、アンデスの研究所へ向かう。そこで不思議な力を持つ「鳥人間」に出会った青居は、自身のクローンを大量生産されることに。日本へ移送され、マンハントのターゲットとして街へ放たれる…。

「クローンを使ったマンハント・ゲーム」を40年以上前に漫画化しちゃった、スゴイ作品。ハードで悲壮感漂うSFストーリーも、手塚治虫の円熟味を感じさせます。「火の鳥」シリーズの中でも個人的に大好きな一作。なお人間狩りと言えば、スティーブン・キング原作の「バトルランナー」(リチャード・パックマン名義)が思い浮かびますが、発表はこの「生命編」が先です。

異形編(9巻)

時は応仁の乱の前後。横暴な父に男として育てられた左近介は、その命を救う可能性のある八百比丘尼を寺で暗殺する。しかし「閉ざされた場所」である寺に、お付きの可平と共に囚われてしまった左近介。その「罪」ゆえに、彼女自身が苦しむ民衆を救う八百比丘尼として生きることに…。

因業により、時空の狭間に閉じ込められてしまった女性。その数奇な運命を八百比丘尼伝説を絡めて描く「異形編」。ボリューム的には短めなのですが、はっきり言ってめちゃくちゃ!面白いです。「火の鳥」で一番大好き。序盤と終盤の「あるシーン」に込められた仕掛けは鳥肌モノ。「生命編」と「異形編」を収録した9巻は、単独で読んでも面白いと思います。

太陽編(10・11巻)

西暦663年。敵の手により顔の皮を剥がれ、狼の皮を被せられた百済の兵士ハリマ。日本に渡り犬上宿禰を名乗り、土着の神・狗族と親交を深めながら地位を築いていく。しかしその意識は時折21世紀の未来へ。そこでは火の鳥を神と崇める光教団と、地下での生活を強制されたシャドーが、苛烈な戦いを繰り広げていた…。

「乱世編」と同じく単行本2巻分の大ボリュームで描かれる、「火の鳥」のラスト・エピソード「太陽編」。神々の戦いなどファンタジー的な要素も描かれる過去と、ディストピア的なSF観が展開される未来。

2つの時代が交互に入れ替わるというトリッキーな構成ながら、スムーズに物語を展開させる手塚治虫さんの手腕は圧巻の一言。「火の鳥」の実質的な最後を締めくくるにふさわしい、一大スペクタクルが描かれます。

火の鳥 ー少女クラブ版―

本巻は上記までの全11巻とは異なり、「少女クラブ版」「漫画少年版 黎明編」およびエッセイ漫画「火の鳥 休憩」を収録。

少女クラブ版・漫画少年版はいずれも「火の鳥」本連載より以前に描かれたもの。火の鳥のキャラクターもタッチも異なり、またストーリーも若年層向けとなっています。なので読まなくても「火の鳥」本編の理解に影響はありませんが、手塚治虫自身が「火の鳥」に関する思いを記した「火の鳥 休憩」はちょっと興味深い内容です。

まとめ

以上、「SF漫画「火の鳥」は今読んでも面白いの?全巻あらすじ紹介&感想」でした。

かつては漫画ファン必読の一作であった「火の鳥」ですが、最終シリーズが発表されてから三十数年。手塚漫画に馴染みのない方が今読むと、表現的な部分で戸惑う部分があるやもしれません。

が、その普遍的な内容は時代を超えてなお面白さを保ち続けており、今読むからこその新しい発見があると思います。ぜひ巨匠の遺したSFロマンの世界に触れてみてください。

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