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漫画『アドルフに告ぐ』感想―ヒトラー出生の秘密にまつわる歴史サスペンス

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手塚治虫先生の「アドルフに告ぐ」。定期的に読み返すのですが、何度読んでも色褪せないおもしろさを持つ漫画です。

アドルフに告ぐ 1

第二次世界大戦時の日本とドイツを舞台に、アドルフ・ヒトラー(※作中では「ヒットラー」表記)の出生の秘密と、それに翻弄される二人の青年と日本人記者を、迫真の筆致で描く歴史サスペンスです。

「アドルフに告ぐ」感想・レビュー

概要

漫画「アドルフに告ぐ」は、1980年代に週刊文春にて連載された作品。少年誌を中心に発表されていた手塚漫画とは一線を画す、コメディ要素のほとんど無い大人向けの漫画です。

物語の中心となる時代は、ベルリンでのオリンピックが開かれた昭和11年(1936年)から、昭和20年(1945年)の終戦まで。

ユダヤ人迫害の先鋒であったナチスの党首・アドルフ・ヒトラー、実は彼自身がユダヤの血を引いているのではないか?という疑惑を証明する文書の存在が発覚。その文書を巡って翻弄される、三人の男が描かれます。

なお「アドルフに告ぐ」は、手塚プロダクションより発行の手塚治虫漫画全集版・全5巻と、講談社より発行の手塚治虫文庫全集版・全3巻があります。本記事は手塚治虫漫画全集版・全5巻を読んでの感想です。

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ヒトラー出生の秘密に巻き込まれた日本人

三人の男の一人であり、物語全体の狂言回し的な役割を務めるのが、日本人新聞記者・峠草平

ヒトラーの出生文書に絡んで、ドイツで弟をナチスに殺された彼。仇を討つために文書の行方を追い、同じく文書を狙うドイツの諜報部員ランプや、峠を目の敵にして追い回す特高警察の赤羽らと、追いつ追われつのやり取りを展開します。

命をも奪わんとする巨大な権力を相手に、徒手空拳で挑む峠。すべてを失い、辛酸をなめ、地を這いながらも懸命に生きる姿。激動の時代を生き残らんとする力強さを感じる男です。特に天敵とも言えるランプとの、命を賭けた戦いは圧巻。

ユダヤ人とドイツ人、二人のアドルフ

そして峠とは別に、ヒトラーの出生に翻弄されて激動の人生を送るのが、ユダヤ人とドイツ人、二人のアドルフ

神戸に住む在日ユダヤ人のアドルフ・カミルは、日本生まれ・大和魂を持つ青い瞳の少年。日本でナチスに抵抗する父たちの活動から、ヒトラーがユダヤ人であることを知ってしまう。

ドイツ人外交官の父と日本人の母を持つアドルフ・カウフマンは、国籍は違えどアドルフ・カミルを兄のように慕う少年。しかし同じく知ったヒトラー出生の秘密を胸に抱えながら、やがてドイツに帰国し、SD(親衛隊)のエリート・コースへ

もとは親友であった二人が、成長するにつれ各々の立場を明確にし、次第に半目していくように。ナチスとユダヤ、相容れない二人の背景は、やがて後戻りの効かない確執を生み出します。

戦争が無ければ、ひょっとしたら親友のままでいたかもしれない二人が、憎しみの果てにたどり着いた場所は―?

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時代の裏側を描くサスペンス

「アドルフに告ぐ」ではそんな三人が時に複雑に絡み合いながら、昭和11年からの9年間を生きていく様が描かれます。

折しも時代は第二次世界大戦という激動を迎え、混乱に突入していく頃。その中でヒトラー出生の秘密は、ドイツ政権をひっくり返す力を持つ、大きな存在。

歴史の表側には決して出ない・出せない事柄に、峠・カミル・カウフマンやその周囲の人間たちが翻弄される様子が、巨匠・手塚治虫ならではの迫真の筆致で綴られていきます。

戦時下という特殊な状況で繰り広げられるサスペンス。もちろん読み手である我々は、ドイツが、そして日本が戦争に負けた事、そして劇中のような事実が無かった事を知っています。

しかしその裏側で蠢いていたであろう多くの謀略の一つに、人生を大きく狂わされた人たちが居たかもしれない。そんなリアリティを、「アドルフに告ぐ」は感じさせてくれます。

記録としての戦争描写

歴史サスペンスとして秀逸な「アドルフに告ぐ」ですが、もう一つ、物語以外の部分で特筆すべき点があります。それは劇中で描かれる「戦争に関連する描写」に、非常に価値があるということ。

アドルフ・カミルが暮らしていた神戸のユダヤ人コミュニティの様子。

外交官であったアドルフ・カウフマンの父らドイツ人が日本でどのような立場であったか。

ナチスの迫害が過激さを増していく中でユダヤ人が受けた仕打ち。

自由に物も言えない日本国内の空気。

戦局が進むに連れ、日に日に貧しさを増してゆく生活…。

漫画というフィクションの一部ではありますが、戦争のリアリティを感じる描写が、作中の随所で描かれています。

その中でも個人的に特に印象的だったのは、物語終盤で描かれる、大阪や神戸が受けた空襲の様子。実際に戦時下で思春期を過ごした手塚治虫さんは、勤労動員中に大阪大空襲を経験されたそうです。

手塚治虫と戦争

その時の経験が反映されているのでしょうか。神戸の自宅で空襲にあった峠が、不運にも丸焦げになった隣家の奥さんを見て、「よく焼けたなあ…」というシーンは、忘れられないインパクト。

ふと彼の口から漏れた言葉が、死が日常と隣合わせとなった戦争末期の空気を如実にあらわしています。

もちろん作中の描写が、全て事実に基づいているかどうかは分かりません(特にドイツ国内の様子など)。が、少なくとも実際にこれに近いことが起こったのであろう、という考えに至るだけのリアリティを、コマの一つひとつから感じます。

昭和、そして平成が終わり、令和の時代となった今、「マンガ」という誰でも読める媒体で、視覚的に当時の出来事を追体験できる、というのは貴重なものであり、これもまた「アドルフに告ぐ」の大きな価値である、と考えます。

なお作中で描かれる文化・歴史や、第二次世界大戦の細部ディテールについては、事実との差異があるようです。詳しく知りたい方はWikipediaの「アドルフに告ぐ」項目をご覧になると良いでしょう(ネタバレが多いので本記事ではリンクを貼りません。悪しからず)。

まとめ

以上、手塚治虫さんの漫画「アドルフに告ぐ」感想・レビューでした。シンプルにサスペンスとして楽しめる作品ですが、読み終える頃には単にサスペンスを読んだ、というだけではない「重み」を感じるのではないでしょうか。

手塚治虫漫画全集版・全5巻、手塚治虫文庫全集版・全3巻と、手頃な巻数でまとまった良作漫画。戦時下を生きた人々の、壮絶な人生を体験してみてください。

アドルフに告ぐ 1
アドルフに告ぐ 手塚治虫文庫全集(1)

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