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この短編漫画が面白い!よりぬき短編マンガ

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短編漫画が大好きで、本ブログでも多くの短編集をレビューしています。そんな短編漫画集の中から、「その中に収録されている面白い1編」に絞っておすすめ漫画をご紹介。

よりぬき短編マンガ

とんかつ(『ゴーグル』収録)

豊田徹也さんの短編漫画集『ゴーグル』より『とんかつ』。

銀行内部で過去の融資に関わる問題が発覚、当時担当だった元行員に協力をあおぐことに。しかし老行員が出した協力の条件は、思い出のトンカツを探すこと。検査部の女性銀行員は「思い出の味探し」に奔走するが―。

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クールで無表情な女性銀行員が、「トンカツ探し」の過程で老行員の仕事に対する悔い、そして家族への思いを知っていく。短編ながら濃厚なドラマ感が素晴らしい!終盤で描かれる、彼女の表情の変化にも注目。個人的に好きな短編ベスト1

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妹の姉(『藤本タツキ短編集 22-26』収録)

藤本タツキ短編集 22-26』より『妹の姉』。

妹に勝手に描かれたヌードが金賞を取り、高校の玄関に一年間飾られる、という辱めを受けた姉。「復讐」のため、妹のヌードを描こうとするが…?

妹の絵の才能に嫉妬し絶望を感じる姉と、その後ろ姿を見て成長してきた妹。そして「先に生まれた」というアドバンテージを失った姉が、自らの努力で「妹の姉」としての威厳を取り戻していく。

二人の繊細な関係性と変化が「裸」を通してユーモラスに描かれていく様が絶妙に面白い!大好きな短編です。

銃声を削り出す(『空飛ぶくじら スズキスズヒロ作品集』収録)

空飛ぶくじら スズキスズヒロ作品集』より『銃声を削り出す』。

工業系高校の不良4人組。その一人は仲間をかばい退学、ヤクザの道へ。それから18年後、取引に失敗して粗悪な拳銃を掴まされたヤクザは、かつての仲間を頼り…。

かくして旧友が結集、それぞれの技能を活かした「銃のレストア」が始まるのですが、専門的な知識・技術をふんだんに散りばめて描かれる、その工程が面白い。一人前になった仲間たちを見てヤクザが自身の生き様を省みる、という人間ドラマも胸に響きます。

炎トリッパー(『高橋留美子傑作短編集(2)』収録)

高橋留美子傑作短編集(2)』より、アニメ化もされた名作SF『炎(ファイヤー)トリッパー』。

ガスタンクの爆発により、戦国時代にタイムスリップした女子高生。一緒に爆発に巻き込まれた男の子を探そうとするが…。

タイムスリップ要素をうまく使った仕掛けにより、短編ながら読み応えのあるSF。徹底的なボーイ・ミーツ・ガール(またはガール・ミーツ・ボーイ)も、高橋留美子漫画ならでは。かなり昔の作品ですが、時代を感じさせない面白さがあります。

くろいひつじ(『山へ行く』収録)

萩尾望都さんの短編漫画集『山へ行く』より『くろいひつじ』。

4世代に渡り、音楽を愛する一族。亡き曾祖母の法事で、思い出と音楽話に花を咲かせる。その中でただ一人疎外感を感じる男性。その積年のいらだちはやがて頂点に達し…

集団の中における除け者を暗喩する「黒い羊」。その「羊」である男性の、誰にも理解されないであろう暗い妄執、そして苦しみ・哀しみを、わずか16Pで描ききった短編。萩尾望都さんのスゴさをわからされた衝撃の一作でした。

金なし白祿(『九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子』収録)

九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子』より、ファンタジー時代劇『金なし白祿』。

描いたものが紙を飛び出すほどの実力を持つ画家・白祿(びゃくろく)。金に困り、彼の贋作に眼を入れて侍と馬を実体化、ともに金策に走るも失敗。そこで高価な龍の鱗を手に入れるため、絵の中の龍に眼を入れるが…

もとは下手くそな贋作ゆえ、ダメダメな侍。しかしその絵は描いたのは実は…。予想外の人情ストーリーがジワジワ来ます。多彩な表現力を持つ漫画家・九井諒子さんの和風タッチにも注目。

天国までひとっとび(『天国 ゴトウユキコ短編集』収録)

ゴトウユキコさんの『天国 ゴトウユキコ短編集』より『天国までひとっとび』。

事故死した幼なじみ女子と、「幽霊」として再会した男子。「好きだった担任の先生に想いを伝えたい」という彼女の未練を果たすため、苦手な先生とコミュニケーションを取ろうとするが…?

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先生を想う女子、女子を想う男子、そして生徒を想う先生。三者の「想い」が収束する終盤に胸打たれる、爽やかな青春ストーリー。先生のキャラクターがものすごくいい味出してます。物語を演出する、三人の多彩な表情にも注目。

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セス・アイボリーの21日(『スターダストメモリーズ』収録)

星野之宣さんのSF短編集『スターダストメモリーズ』より『セス・アイボリーの21日』。

とある惑星に宇宙船が不時着。ひとり生き残った女性調査員は、その星が生物時計の進み方が異常に速いことに気づく。救助が来る21日の前に「老衰で死ぬ」ことを悟った彼女が取った、驚愕の行動とは―。

普通ではありえないシチュエーションを設定できるSFジャンルだからこそ、生み出された作品。星野之宣さんのリアルな筆致と奇想天外なアイデアは、スゴイの一言。短編ながら、壮大なSFを感じます。

追想レコード(『音盤紀行』1巻収録)

毛塚了一郎さんの連作短編集『音盤紀行』1巻に収録の『追想レコード』。

祖父の遺品であるレコード。その一枚に記された謎の文字を辿って、孫とレコード店員、ふたりの女性が繰り広げるライトな冒険が描かれます。

どこの国のものかもわからない一枚のレコード、そこに込められた思いがやがて新たな世代へと受け継がれていく…。アナログな音楽メディアであるレコードだからこそ成り立つ物語に、懐かしさと新鮮さを感じます。風変わりな女性店員も印象的。

ラクーンドッグ・フリート(『螺旋人同時上映 速水螺旋人短編集』収録)

螺旋人同時上映 速水螺旋人短編集』より『ラクーンドッグ・フリート』。

妖精やオバケたちをパートナーとして、地球の周囲を守る防衛軍。敵の攻撃を受けて出撃する女性パイロット+狸のセンバ丸は、見事敵を撃墜!しかし本命は他にいた!果たして二人は地球を守れるのか…?

コミカルな設定を持つファンタジーSF短編。短いページ数の中で世界観を確立し、最後に「あっ」と思わせる展開。シンプルに面白く、満足度の高い読後感があります。他に『代書屋レオフリク』シリーズも、作者らしさが溢れていてオススメ。

追燈(『ようきなやつら』収録)

岡田索雲(おかださくも)さんの『ようきなやつら』より『追燈(ついとう)』。

妖怪読切集に収録の一編。なぜか頭が「提灯お化け」の”おじい”が、孫に聞かせる昔話。それは大正十二年の関東大震災で彼の身に起こった、凄惨な出来事だった…。

震災時に実際に起こった朝鮮人虐殺を、妖怪を絡めて描いた短編漫画。フィクションだが、多数の文献を取り入れて構築されたストーリーは、圧巻の内容。終盤の主人公のセリフ、そして行動に、言葉にならぬ「怒りの火」を感じる。当時から約100年が経った今こそ、読むべき作品。

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白件(『新装版 天帝少年 中村朝短編集』収録)

中村朝さんの短編集『新装版 天帝少年 中村朝短編集』より『白件』。

廃村の旧家で頭髪を真っ白にして死んだ4人の少年。部屋の襖には「小さな白い手形」が。旧家の血を引く少年から「白い女」の証言を得た刑事たちは、さらにその家系にまつわる「不自然な死」を知るが…。

SNS等で話題となった民俗学ホラー系統の短編。あっさり目な絵柄とは裏腹に、キャラクター設定、怪奇事件のディテール、物語の運び方、伏線の回収などで、読者をきっちり恐怖に陥れる構成が素晴らしい

あつい皮膚(『推しの肌が荒れた ~もぐこん作品集~』収録)

もぐこんさんの『推しの肌が荒れた ~もぐこん作品集~』より『あつい皮膚』。

ひどいアトピーによる痒みを我慢できない女子生徒。図書室で寝ていると、「かわいそう」と図書委員の少女に触れられる。その日から奇妙な交流が始まり、やがて家に招かれるが…?

耐え難い苦しみに皮膚も心も疲弊しきっている女子が、不思議な接触を続けてくる相手に次第に心を許していく。その様子が微笑ましくも、しかし同時に流れる不穏な空気に心がゾワゾワ。ラストの一コマには驚愕せざるを得ない

旬(『渚 〜河野別荘地短編集〜(1)』収録)

河野別荘地さんの『渚 〜河野別荘地短編集〜(1)』より『』。

書道教室の女性講師、アルバイトの男子大学生、そして新しく教室に入った女子高生。年代も性別も異なる三人がねっとりと繰り広げる愛憎劇。比較的ライトな不思議物語を収録している単行本内で、一本だけ異彩を放つ短編です。

まず度肝を抜かれるのが、ねちっこい性描写。そして男子を中心に関係が綴られていく中で、やがて訪れる破綻。そこで描かれる「男のクズっぷり」と「女の強かさ(したたかさ)」のコントラストから伝わる、何とも言えない「居たたまれなさ」が絶妙。※エロ注意。

あなたにあいみつ(『グッド・バイ・プロミネンス』収録)

ひの宙子(ひろこ)さんの連作短編集『グッド・バイ・プロミネンス』より『あなたにあいみつ』。

既婚者男性と女子大生バイト・秋吉さん、二人の路チューを目撃した同僚・瑤子(37歳独身)。翌朝、悪びれる様子の無い秋吉さんに「なにこの女」と怒りが。しかしその夜なぜか、二人で飲みに行くことに。そこで意外な展開が…?

読んでいると最初は瑤子と同じように、秋吉さんのことを「なにこの女」って思っちゃうんですよね。が、後半でそのイメージがコロッとひっくり返される。してやられた感があってくやしい!

にくをはぐ(『遠田おと短編集 にくをはぐ』収録)

遠田おと短編集 にくをはぐ』より、表題作『にくをはぐ』。

狩猟系Youtuberとして活動する千秋は、体は女性、心は男性のGID(性同一性障害)。性転換に特別な思いを抱くも、ハンターである父と亡き母の「立派なお嫁さんになってね」という願いに苦しむ。しかし父親が大腸がんに侵されていることを知り、ある決意を…

全編から受ける張り詰めた、息苦しいほどの緊迫感は、著者自身の体験がもとになっているからか。主人公が心の中で「胸を削ぎ落とす」シーンは圧巻。GIDの苦しみだけではなく、性転換の問題点などが織り込まれている点も秀逸。

星の林に月の舟(『手紙物語』収録)

鳥野しのさんの『手紙物語』より『星の林に月の舟』。

長期のフライトを終えた宇宙船の女性船長。アナログな手紙を受け取り、楽しみにしている「同窓会」へ。しかしそこに集まるメンバーと目的は、普通の同窓会とは少し異なるもので…?

劇中で「手紙」が小道具として使われるオムニバス集収録のSF短編。物語を読み進め、「違和感の正体」に気づいた時に感じる寂寥感、そして宇宙の壮大さが心に残る一編。ラストシーンが素敵…!

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京子の夢(『宇宙のプロフィル』収録)

こがたくうさんのSF漫画『宇宙のプロフィル』より『京子の夢』。

安住の地を求めてさまよう宇宙船内の少女・ルシュと、現代日本に住む女子高校生・京子、二人の意識がリンク。夢を見ている時だけルシュとシンクロする京子は、やがて宇宙船内から「地球」を見つけ…。

シンプルな構成に見えつつも、読者の想像をクイッとひねる仕掛けがいい味出してます。短編ながら宇宙の広大さを意識させてくれる、良質なSF漫画。『宇宙のプロフィル』にはほか、本格からファンタジー風味まで多彩なSFが揃っています。

星空パルス(『フロイトシュテインの双子』収録)

ホラー漫画『死人の声をきくがよい』の作者・ひよどり祥子さんの別名義・うぐいす祥子さんのホラー短編集『フロイトシュテインの双子』より、『星空パルス』。

妻を亡くし、電波系な行動が増えた父親に困っている少年。ある夜「たった今、エイリアンからのメッセージを受信した」と言う父親に連れられ、森の中へ。二人はそこで、少女の死体を見つけ…

不気味な雰囲気から、物語は予想もつかない方向へ。…ホントに予想がつかないんですよ、この漫画。でもホラーなのに、最後まで見ると笑ってしまうことうけあい。グロさと笑いが共存する、作者ならではのホラー短編。

長い夢(『伊藤潤二自選傑作集』収録)

作者・伊藤潤二さん自らがチョイス、解説まで付いた『伊藤潤二自選傑作集』。名作『首吊り気球』も収録されていますが、ご紹介する『長い夢』も捨てがたい良作ホラー短編。

一晩の夢の中で、実際の睡眠時間よりもはるかに長い時を過ごす入院患者。しかし夜を重ねる内に、夢の内容が彼の外見にも次第に影響を及ぼし…

どの作品を読んでもその発想の奇抜さ、そしてそれを表現する強い力を感じる伊藤潤二さんのホラー漫画。その中でも個人的に特に印象に残っている短編。ハッと息を呑む怖さと、驚きがあります。

ル・ネ(『レミドラシソ 鶴谷香央理短編集 2007-2015』収録)

レミドラシソ 鶴谷香央理短編集 2007-2015』より『ル・ネ』。

有名調香師の父と離れ、祖母と金沢で暮らす女子高生・優。気の合う友人とボーッと日々を過ごすが、女性講師から銘柄のわからない香水について尋ねられ…。

父に反発しながらも英才教育を受けてきた優が、女性講師が香水に重ねる想いに触れ、何かを感じ取っていく様が、ゆるやかに紡ぎ出されていきます。漫画なのに「香り」が伝わってくるような表現、雰囲気の作り方がステキな短編。

バイパスの夜(『時計仕掛けのりんご』収録)

手塚治虫さんの『時計仕掛けのりんご』より『バイパスの夜』。

真夜中に箱根を超えようとする長距離移動のタクシー。その車内では怪しい乗客が笑みを浮かべながら、「現金輸送車から一億円を強奪してきた」と運転手に語りかける。しかし一方の運転手も驚愕の「打ち明け話」を…

「タクシーの車内」という限定空間で、二人の男の会話のみで物語が進む異色のサスペンス。深夜の峠道、他に走る車は無く、次第に土砂降りの雨が。徐々に重たくなる空気の中で、男たちの緊張感は高まりやがて…!この構成で一本描き上げちゃう手塚先生はやっぱりスゴイ。

夏を知らない子供たち(『夏を知らない子供たち 山本和音作品集』収録)

山本和音さんの『夏を知らない子供たち 山本和音作品集』より表題作『夏を知らない子供たち』。

平均気温が52℃を超え、夏場は国民全員が寒冷施設「スノードーム」で生活する、2150年の日本。そこで施設を脱走した一人を、防護服を着た捜索班が探すが…というライトなSF感のある近未来の物語

主人公である「新人」は脱走者を「夏の恐さを知らない子供」だと考えるが、意外性のあるその正体と、そこから投げかけてくるメッセージが面白い。作者らしい、ポップでデザイン性のある作画も魅力的。

透明人間の恋(『透明人間の恋』収録)

安藤ゆきさんの短編集『透明人間の恋』から表題作『透明人間の恋』。

透明人間のように存在感の薄い女子高生。クラスのモテ男に告白するも「あんた鏡みたことあんの?」とバッサリ。そこからメガネを止め、髪型を変え、化粧もはじめて、次第に変化していく彼女。逆に彼女が気になってきたモテ男はー。

地味目の女子がその外見を劇的に変貌させてゆく、というのは定番のパターン。が、「そう来たか!」と思わざるを得ないオチが秀逸。物語の流れから予想した展開とは全く異なるラストにニヤリ。

ヤキトリ奇談(『顔ビル/真夜中のバスラーメン』収録)

呪みちるさんのホラー短編集『顔ビル/真夜中のバスラーメン』から『ヤキトリ奇談』。

「ヤキトリ屋」のゲテモノ串で、上司のキャリアウーマンを困らせようとする年上の男性部下。しかし上司は逆に、その味にハマってしまう。やがて会社をやめた部下と再会した彼女は、ヤキトリ屋で恐ろしくも不思議な体験をする…

美麗な作画と奥深いストーリーで、読者を独特のホラー世界へ誘う呪みちる作品。この『ヤキトリ奇談』も単にグロテスクなだけではない、読み応えのある物語。極上の恐怖を味わったあと、得も言われぬ余韻が残ります。

スケスケメガネ伝説(『口裂け女あらわる!~昭和怪奇伝説~』収録)

同じく呪みちるさんの短編集『口裂け女あらわる!~昭和怪奇伝説~』より『スケスケメガネ伝説』。

何でも見える「スケスケメガネ」を手に入れ損なった男の、思い出ばなし。しかしそれを実際に手にした人間は、恐怖の体験をしていた…!

タイトルからして昭和の都市伝説感があふれますが、中身は本格的なホラー。妖しくも美しい美麗な線と深みのある恐怖物語は、一度読んだら忘れられないインパクトが。ちょっとクセのあるタイトル(笑)と相反するような、恐ろしいホラー体験をさせてくれる短編です。

リトロリフレクター(『ベランダは難攻不落のラ・フランス』収録)

衿沢世衣子さんの短編集『ベランダは難攻不落のラ・フランス』より、『リトロリフレクター』。

山上の天文台を舞台に、探検に来た男子小学生と謎の少女の交流を描いた、ボーイ・ミーツ・ガール。

ゆるふわな魅力を持つヒロインと、思春期の少年のささやかな成長。そしてふと夜空を見上げて、宇宙へ思いを馳せたくなるさわやかさ。衿沢世衣子さんならではの魅力が遺憾なく発揮された一作です。

ハンドスピナーさとる(『制服ぬすまれた』収録)

同じく衿沢世衣子さんの短編集『制服ぬすまれた』から、『ハンドスピナーさとる』。

スマホを壊して落ち着かない大学生・さとるが、元ヤンの美人喫茶店員から渡されたのは、ハンドスピナー。その彼女が謎の失踪事件に関わっているかもしれない!さとるはハンドスピナーを回して思考をフル回転させる…!

…という、ちょっとコメディー仕立てのライトなミステリー。推理の前にさとるが発した「このっ ハンドスピナーが 止まるまででいいから…!!」は名言(笑)。衿沢世衣子さんの描く、力の抜けたゆるふわな物語が個人的に大好き。多くの人にその魅力を知って欲しい!

すいかドライブ(『小僧の寿し』収録)

勝田文さんの短編漫画集『小僧の寿し』より『すいかドライブ』。

毎日に張り合いの無い女性が、偶然再会した吹奏楽部の先輩に誘われて、軽トラでスイカ売りのドライブに出る、という短編。

ふとしたきっかけで人は変われる。そしてその横にはスイカがある?夏の一日の「一瞬」が一人の女性の心にエポックを与える瞬間が、さわやかに描かれる一編。女性営業マンとダンディな初老男性の恋模様を描く、同時収録『ととせの鴨』もステキな短編です。

ちひろ(『地上の記憶』収録)

白山宣之さんの作品集『地上の記憶』より『ちひろ』。

海辺の田舎町に住む、とある女子中学生の夏の一日を、写実的な描写で丁寧に描いた一作。

少女の一日をただ訥々と綴っているだけなのに、家族への想い、将来に対する不安など、彼女の内面がじわじわと伝わってくる、緻密な表現力と構成力は圧巻。彼女はこの後、どんな人生を送るのだろう?そんなことを考えずにいられない。1992年発表の本作ですが、手作業で描かれたであろうコマの、ひとつひとつが美し過ぎる!

クローン(『スキエンティア』収録)

戸田誠二さんのSF短編漫画集『スキエンティア』より、第3話『クローン』。

事故で夫と娘・マナミを亡くした女性。医師の提案により娘をクローンとして再び産み、新た名前で育てる道を選ぶ。しかし彼女の成長とともに、その心には戸惑いと葛藤が生まれー。

辛さを乗り越えるために娘をクローンとして再生した女性が、その成長を喜びつつも自身のエゴと向き合っていく。感情の置きどころが難しい問題で、100%スッキリすることは決してない話。しかし「人生の光」を感じさせる一編

コルベス様(『スノウホワイト グリムのような物語』収録)

『七匹の子やぎ』『ラプンツェル』など、グリム童話を諸星大二郎さんが独自の感覚でアレンジした『スノウホワイト グリムのような物語』から『コルベス様』。

擬人化された動物たちが、コルベス様のお屋敷へ乱入、ひたすら暴虐の限りを尽くす様が淡々と描かれる、異色の物語。

普通はまず知らないであろう『コルベス様』という話。オリジナルは童話でありながら、どことなく漂うSF・ホラー感は諸星大二郎ならでは。わけのわからない理不尽な暴力にただただ圧倒され、奇妙な後味が心に残ります。

兄嫁の爪(『彼女のカーブ』収録)

ウラモトユウコさんの漫画短編集『彼女のカーブ』より、『兄嫁のつめ』。

ネイリスト検定を明日に控える女性。しかしトラブルにより、モデルがキャンセル。ちょっと苦手なギャル系の兄嫁に助けを求めるが、マイペースな彼女に対してイライラが頂点に…。

徹底的に噛み合わない二人の女性。しかしその原因は実は…というオチが面白い。再読すると、いろいろと違う面から物事が見えてくる。ほっこり漫画でありながら、意外と示唆的な内容

谷後先生(『幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい』収録)

黒谷知也さんの『幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい』から『谷後先生(やごせんせい)』。

定年後に1年だけ国語の講師となった老教師と、彼に不思議な気持ちを抱く女子中学生。二人の作文を通した交流を、女子目線で描く短編。

多くは語らず、その姿勢で矜持を伝える老教師。思春期らしい真っ直ぐな清廉さを持つ中学生。二人が世代を超えて心を通わす様に、短編小説を読み終わったかのような瑞々しい読後感があります。

ヨランダ・ボーの薬草(『奈知未佐子短編集 ~思い出小箱の15粒~』収録)

幼い頃、大事な薬草を無くしたヨランダ。やがて子を生み、老人となる。そしてある日、疫病により家族が次々と倒れる事態に。ヨランダは思う。あの薬草さえあれば―。そして彼女の前には突如、不思議な扉があらわれて…。

奈知未佐子短編集 ~思い出小箱の15粒~』より『ヨランダ・ボーの薬草』。童話的なテイストで展開される、不思議なお話。優しい絵柄と裏腹に、物語の展開はダイナミックで力が入ります。終盤で発せられるヨランダの言葉に、静かに感動

ミッドナイトブルー(『ミッドナイトブルー』収録)

全7編収録の漫画短編集『ミッドナイトブルー』より、表題作『ミッドナイトブルー』。

高3の夏に、2年毎の再会を約束する男女4人。しかしその一人・みのる(女性)は交通事故にあい帰らぬ人に。その後、初めて集まった3人。そこで主人公・暁人は、幽霊となったみのるに再会する―

思わず夜空を見上げたくなる、切ないラブ・ストーリー。静寂かつファンタジックな雰囲気が心に染み入ります。ちなみに本作収録の短編は全て、青で彩られています。まさに「ミッドナイトブルー」

私たちはまだ途中(『世界の合言葉は水 安堂維子里作品集』収録)

世界の合言葉は水 安堂維子里作品集』から『私たちはまだ途中』。

宇宙学校で、宇宙飛行士としての訓練を積む少年少女たち。その中でも天才と評される少女の目は、常に遠くを見ていた。そして宇宙へ上がった彼らは、少女の取った行動に驚愕するー

水の表現を絡めながら、リアルかつファンタスティックに描かれるSF短編。地球、そして宇宙へと自然に気持ちが広がってゆく、不思議な読後感のある作品です。ほか収録の短編もみずみずしさが溢れ、爽やかな気持ちに。

ELEMENT7(『冬目景作品集 空中庭園の人々』収録)

冬目景作品集 空中庭園の人々』より『ELEMENT7』。

女子大生の部屋に居着いた宇宙人。少女の姿に擬態したそれは、宇宙にいる仲間からの助けを待ちながら、完璧な主婦を目指す(笑)。そしてやがて来る別れ。その時、宇宙人は意外な行動をー

アパートの一室で起こる、小さな「未知との遭遇」。コミカルだけど、ちょっとドキッとする、そんなファースト・コンタクトが描かれます。SF・ファンタジー・ゾンビものと、多彩な物語を収録した短編集。冬目景さんの美麗な絵柄にも注目です。

なき顔の君へ(『さらば、やさしいゆうづる』収録)

有永イネさんの漫画短編集『さらば、やさしいゆうづる』より『なき顔の君へ』。

顔のアザがコンプレックスである女子中学生は、良くできた双子の弟の不幸を願い、そして彼の「顔」が突然見えなくなる―

互いの立場を取り替える物語『王子と少年』に絡めて、コンプレックスを抱える少女がやがて周囲に向き合うまでを、丁寧に描いた短編漫画。物語終盤で見せる彼女の決意の表情は、ハッとする美しさ。

マムシデ(『おとろし』収録)

カラスヤサトシさん描くホラー・オムニバス『おとろし』より、『マムシデ』。

マムシをたやすく捕らえることのできる、不思議な「マムシ手」を持つ老人。しかしふと思う。「この手で人をつかむとどうなるのか?」抱いた妄執と、その顛末。

わずか6Pの短編ながら、人の底に潜む昏い欲望をねっとりと描いた秀作。他人の心の闇を思わずのぞいてしまったような、後味の悪い恐怖が心に残ります。

僕らの夏と灰(『終末の惑星』収録)

大家さんの『終末の惑星』より、『僕らの夏と灰』。

引っ越していく仲間のために、森に隠れて「誰にも見つからずに一週間過ごすゲーム」にチャレンジする、小学生男女5人。しかし夜の森で、彼らは恐怖の体験をするー。

少年少女たちのひと夏の冒険…風味から、どんどん不気味な方へ物語が転がっていく様が怖い。子どもから大人へと成長していく不安定な時期の、繊細な心と残酷さをじっとりと描き出すホラー短編。

最後の回(『これでおわりです。』収録)

小坂俊史さんの「おわり」をテーマにしたショート・ショート漫画集『これでおわりです。』から、ラストの1編『最後の回』。

ドラマ好きのアラサー女性会社員。あるドラマのラストを見逃したことから、ゴールを気にしない人生を送るように。そこから運命が回り始めて…?ラストのセリフがすごくステキな一編で、この作品が「これでおわりです。」の「おわり」となっているのが、実に洒落ています。

まとめ

以上、「よりぬき!短編漫画集に収録の面白い漫画を紹介」でした。各単行本に収録されている作品から1編を選びましたが、もちろん他にも面白い漫画がたくさん詰まっています。ぜひ単行本を手にとって楽しんでください。

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