「それでも町は廻っている」―鋭い観察眼とトリッキーな構成が魅力の全16巻

アニメ化もされた大人気作品。石黒正数さんの「それでも町は廻っている」全16巻です。

SFアクションでもなく、バトルでもなく、ファンタジーでもない、基本コメディ漫画。それが16巻も続いたというのは、それなりの理由があります。

…単純におもしろいからなんだけど!連載終了後も時々読みますが、一度手を付けるとついつい次の巻、次の巻、と進んで読み終わりません。困った魅力を持つ漫画です。

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概要

「それ町」は女子高生・嵐山歩鳥(あらしやま・ほとり)を主人公とする、基本一話完結形式の物語。

幼馴染の真田、同級生のタッツン・針原さん、紺先輩、弟のタケル・妹の雪子、担任の森秋先生、古道具屋の亀井堂静らを中心に繰り広げられる、日常系コメディです。

基本的には町や高校を舞台に、笑いにあふれたゆるやかな日々の出来事が描かれます。ですが時折、サスペンス・ミステリー風味や、オカルト・ホラー、SF、ファンタジーといった要素がぶっこまれてきます。

なお歩鳥がメイド服を着ているのは、馴染みの婆ちゃんが営む喫茶シーサイドがメイドカフェに転身したのをきっかけに、そこでバイトをするようになったから。

石黒正数氏の鋭い観察眼

「それでも町は廻っている」の魅力を語りだすとキリがないのですが、さて「それ町」は何がおもしろいのか?

…基本は歩鳥のボケっぷりと、それに対する周囲のツッコミ。これがシンプルにおもしろい。

石黒正数「それでも町は廻っている」3巻
[石黒正数 著 少年画報社「それでも町は廻っている」3巻より引用]

ここから笑いが産まれるのですが、それだけでは全16巻分も連載が続くわけがない。

読み返して気づくのは、「一話一話を読んだあとの満足感が高い」んですよね。

それは起承転結がハッキリしていて、オチの付け方がウマイから、ということもあるのですが、加えて石黒正数さんの世の中の見方、鋭い観察眼が物語に練り込まれているから、ではないかと。

例えば2巻16話の「ナイトウォーカー」。歩鳥が眠れなくなった弟・タケルと夜更かしをする話なのですが、深夜0時を超えた瞬間、タケルは衝撃を感じます。

石黒正数「それでも町は廻っている」2巻
[石黒正数 著 少年画報社「それでも町は廻っている」2巻より引用]

あるある!こんな感じ。いつもは早く寝るのに、起きて日付をまたいだ時の不思議な感覚。誰しもが通った道ではないでしょうか。

「それ町」は小学生~高校生ぐらいの話ですが、思春期に誰もが感じたけど忘れている、そんな出来事がストーリーに織り込まれていることが多い。

石黒正数さんは、おそらくその辺りの観察レベルが異様に高いのでしょう。またそれらの物語への組み込み方が秀逸。

エピソードを読むと、ハッとする気づきとともに、不思議な充足感を感じます。

伏線を回収する楽しさ

「それ町」のもう一つの楽しさは、伏線の回収。読んでいると気づくのですが、「それ町」では各話の時系列がバラバラです。

基本的には歩鳥の高校三年間が描かれるのですが、エピソードの順序は唐突に前後します。かといって読みにくさは一切なく、自然に受け入れられるのは石黒正数さんの巧みさ。

時系列を読み解く一つのバロメーターは、歩鳥の髪型。さらに正しい時系列は、「それでも町は廻っている 公式ガイドブック廻覧板」にて確認できます。

エピソードの前後を読み解くと、「あの話がここに繋がっていたのか!」といった驚きが。完結しているからこそのお楽しみがあるのですが、それにしてもトリッキーなその構成がスゴイ。

それでも町は廻っている 公式ガイドブック廻覧板 (ヤングキングコミックス)著者:石黒正数出版社:少年画報社発行日:2017-02-14

また前半で完結していた(と思われた)エピソードが、後半意外な形で登場したりも。

とりわけ印象的なのは、1巻第4話の「目」。歩鳥の担任・森秋先生の祖父が描いた、不気味な絵にまつわる謎が明かされます。

石黒正数「それでも町は廻っている」1巻
[石黒正数 著 少年画報社「それでも町は廻っている」1巻より引用]

このエピソードはこの1話で完結していると思いきや、14巻第113話「赤」、そして最終16巻の第126話「悪」へと、意外な繋がりを見せることに。

石黒正数「それでも町は廻っている」14巻
[石黒正数 著 少年画報社「それでも町は廻っている」14巻より引用]

これは読んでいて、「ここで1巻の話を持ってくるのか!」と素直に驚きました。マンネリを感じさせないトリッキーな展開。読んでいて飽きないおもしろさがあります。

なおこのエピソードはなかなか味わい深い展開を見せるのですが、それはぜひ単行本でお楽しみください。

まとめ

以上、石黒正数さんの「それでも町は廻っている」通称「それ町」全16巻のレビューでした。

単なるコメディにとどまらず、SF・オカルト・ミステリー風味と多彩なおもしろさを持つ漫画。また歩鳥と紺先輩・タッツンらとの友情が、特に最終16巻で結実する様は、静かな感動も。

笑いながらサラッと読んで、忘れた頃にもう一度読み返すと止まらなくなる、絶妙におもしろい、オススメの漫画です。

それでも町は廻っている(1) (ヤングキングコミックス)著者:石黒正数出版社:少年画報社発行日:2006-01-27

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