神への生贄だった少女は、不思議な行者とその従者に導かれ、神々を巡る旅への一歩を踏み出す―。
鶴渕けんじさんの「峠鬼(とうげおに)」。
人間の生活の身近に神々がいた頃の日本を舞台に、行者・役小角(えんのおづの)と弟子たちの道行きを描く、和風ファンタジー漫画です。
連載はKADOKAWA「ハルタ」で単行本は2019年8月に1・2巻が同時刊行、以下続刊です。
「峠鬼」感想
あらすじ
ずらりと並ぶ大山・小山、それらが成す谷を埋めるように、「倭の国」があった頃。
大小の御山は神様の国であり、人々は世のすべては神様の思し召し次第と信じていた。
その倭の村の一つで、齢12にしてある年の生贄に選ばれた、みなしごの妙(みよ)。
運命を受け入れ、淡々とした生活を送る彼女の前にある日、前鬼・後鬼と呼ばれる弟子を従えた高名な行者・役小角が現れる。
人々から慕われるも、どこか胡散臭い彼らを信用できない妙だが、弟子の女性・後鬼と親しくなり、生贄となることへの恐怖を吐露する。
そして神に捧げられる日、役小角らとともに社の前へ出向いた妙は、彼の力で不思議な体験をする―。
完成度の高い第一話
神への捧げ物である少女・妙と、行者・役小角一行との出会いが描かれる「峠鬼」第一話。
もともとはハルタ誌の購入特典である特別小冊子「青騎士」に掲載された作品。そこで注目を集め、連載へとつながったそうです。
おそらく読切として描かれたのであろうこの第一話。連載を勝ち取ったという経緯を持つだけあって、完成度がものすごく高い!
少女・妙と、後に師となる小角、その従者である少年・前鬼(善)との出会い。
人知を超えた力を発揮する「神器」を持つ、巨大な神の存在感。
そして仮面の美女・後鬼のミステリアスな振る舞い。
生贄として死を迎える運命にある少女に降り注ぐ、怒涛の体験。60Pを超えるボリュームを持つ話を読み終えると、ホッと息を吐くと同時に、「そう来たか!」と思わずニヤリとしてしまう。SF風味を持つファンタジーに圧倒されます。
神と神器を巡る冒険
なんだか第一話をベタ褒めしてしまって、じゃあ面白いのは第一話だけなのか?と聞かれると、もちろん第二話以降も面白いのが「峠鬼」。
役小角・善と、小角の弟子となった妙の、ファンタジックな冒険が紡がれていきます。
見どころは、行く先々で出会う土着の神と、その神の持つ神器に関わる出来事。只人(一般人)である妙の視点から見るそれは、時に摩訶不思議、時に畏れ多く。
作者・鶴渕けんじさん描く神々は、どちらかと言えばモンスター的な外見を持つのですが、これが実に存在感・趣があるもの。古来の日本には、ひょっとしたらこんな神様たちが居たのかもしれない、と思わせてくれます。
雰囲気作りが巧みで、物語に引き込まれることこの上なし。
旅の目的は?
さて、それでは役小角一行の目的とは何か?
これは1~2巻で徐々に顕になっていきますが、役小角の仕える神・一言主(コト様)に会うこと。
巨大な龍の姿を持つコト様。変化して女性の姿にもなり、それは幼き日の役小角が淡い恋心を抱く(ひょっとして今も?)ほどの美しさ。人々から慕われている神です。
しかし現在はその身に何やら問題を抱えているよう。そして役小角との奇異な運命が示唆されるのですが…。
さらにもう一人の弟子・善の身もまた、コト様と関わりを持っているようですが、その顛末は3巻以降のお楽しみ、というところでしょうか。
それまでは、神妙にして不可思議な出来事に右往左往しながらも、自分の道を見つけていく妙の冒険を楽しみたいところ。
まとめ
以上、鶴渕けんじさんの「峠鬼」1・2巻感想でした。
絵・物語ともバツグンのクオリティを持つ作品。一度物語に触れれば古き日本の世界に一気に引き込まれるファンタジーです。
なお超オススメの第一話は、電子書籍の試し読みで最後まで読めると思います。一話完結の物語としてシンプルに面白いので、ぜひ!一読を。
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