1970年代から『ポーの一族』『トーマの心臓』『11人いる!』など、ヒット作を多数世に送り出されている漫画家・萩尾望都さん。その短編集のひとつ『山へ行く』の感想・レビューです。
自分は少女漫画を積極的に読み始めのはここ最近。なのでそこまで萩尾望都氏の過去作品を読み込めていないのですが、まずは読みやすそうなこの短編集からその世界に触れてみました。
『山へ行く』感想・レビュー
概要
短編集『山へ行く』の収録作品は、下記の12編。いずれも「月刊flowers」誌上にて2006年~2011年までに発表されたものです。
- 山へ行く
- 宇宙船運転免許証
- 駅まで∞
- あなたは誰ですか
- くろいひつじ
- ビブラート
- 柳の木
- 青いドア
- 世界の終わりにたった1人で(前・後編)
- ゆれる世界
- 春の小川
作家・生方(うぶかた)を主人公とする表題作『山へ行く』など、関連した人物が登場する連作のほか、人間ドラマ・SF・ファンタジー風味など、バラエティーに富んだ話が収録されています。
深みのある短編の数々
風味の違う短編が数多く収録されている『山へ行く』。どの話も深みがあって興味深く読めました。
ページ数の少ない物語の中で、独自の世界観を展開させる萩尾望都さんの手腕は流石…。という感想はちょっと陳腐に過ぎますが、やはり安定したおもしろさがあります。
異色の短編『くろいひつじ』
そんな全12話の中で、特に印象に残った漫画、現代劇『くろいひつじ』は、強烈なインパクトを受けた作品。
おばあちゃん(母)の法事に集まる、長男・次男・長女と、その子ども・孫まで十数名の「とある一族」。
その多くは音楽センスがあり、かつておばあちゃんと音楽を楽しんだり、またはその才覚を受け継いだ者ばかり。音楽の思い出ばなしに花が咲きます。
しかしその輪の中に長男は入れない。なぜなら彼は、母の音楽センスを受け継がなかったから。
一人散歩に出て、枯れ枝を切ろうとナタを探す長男。それがきっかけで、彼の積年の鬱屈が…という物語。
恐ろしくも悲しい物語
「黒い羊」とは、「集団内における異質な存在」の暗喩。家族内における「黒い羊」を描いた本作は、ホラーな話ではありません。
しかし読んでいる途中はめちゃくちゃ怖かった…。ここまで「こわい、恐ろしい」と感じたのは久しぶりです。しかもホラーではない作品で。
そして読み終わったあとは…なんだか無性に悲しくなりました。決して誰にも理解されないであろう寂しさ・疎外感がグサリと心に刺さる。
扉絵を入れてわずか16ページの短編なのですが、ここ数年で読んだ漫画の中でも強烈な読後感を残しました。
まとめ
というわけで短編集『山へ行く』。『くろいひつじ』はじめ、萩尾望都さんの漫画力を存分に楽しめる漫画作品集。読後に感じる濃密なドラマ感が、心に残る一冊です。
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