クリスマスに起こった凶悪犯罪から数年後、とある町に現れた「家族」。彼らは果たして事件の関係者なのか?そこに人々の悪意が襲いかかり…。
日本文芸社の漫画雑誌「週刊漫画ゴラク」での連載を1冊にまとめた、ウチヤマユージさんの全1巻漫画『もろびとこぞりて』。「加害者家族」と「町の悪意」から起こる事態の顛末が、シリアス&サスペンスフルに描かれます。
以下『もろびとこぞりて』が気になる方向けに、主なあらすじや見どころなどを基本ネタバレなしでご紹介します。
『もろびとこぞりて』あらすじ
クリスマス・イブに発生した、無差別連続殺傷事件。犯人の自殺で幕を閉じるも、その後も模倣犯を生むなど、社会と人々の記憶に様々な影響を及ぼす。
それから2年後、とある町に越してきた三人の家族。一見、普通の一家に見えるが、名字や家族構成が件の犯人のものと一致。
「彼らは加害者の家族ではないのか?」
そんな噂が立ってから、その周辺に「悪意」に満ちた変化が…?
『もろびとこぞりて』レビュー
とある「加害者家族」を襲うもの
実際のニュースでも目にするような凄惨な事件を起点に、「ある家族」とその周辺を描く全1巻のストーリー漫画『もろびとこぞりて』。
その中で「家族」に降りかかる出来事が何とも胸糞。
彼らが「加害者家族(らしい)」と知るや、その弱みにつけ込んで、町の人々が陰湿な嫌がらせを仕掛けてくる。
奴らは犯罪者の家族だ。だから俺たち「善良な市民」は何をしても構わないんだ。
そう言わんばかりに職場で、学校で、道端で、「普通の人々」が見せる態度は、目を覆いたくなるもの。
もちろんこれはフィクションですが、それは決して荒唐無稽なものではない。作中以上の事が現実で起こっているのであろう、と想像せざるをえないリアリティに、気が滅入る…。
やがて明かされる真実とは…?
しかしイヤ~な感じのエピソードを読み進め、随所に散りばめられた「ピース」を拾い集めていくと、やがて物語は大きな転換点を迎えることに。
数々の伏線を回収し、「真実」が明かされていく。読者の想像をオセロのようにクルッとひっくり返していく終盤、そこにあふれるエンタメ感にスカッとする!
スカッとする!…んだけど、同時に「人間の暗部」をのぞき見しているような、「あ、ちょっと嫌なもの見ちゃったな…」みたいなモヤモヤが湧き出てくる。
そして物語を読み終えて感じるのは、「人の立ち位置」なんてあやふやで、非常に脆いものである、ということ。
自分は「白」なのか「黒」なのか、立ち位置は「あちら側」なのか「こちら側」なのか。その線引きは非常に脆いもので、しかもそれは一瞬でコロッと変わる、のかもしれない。
そんなある種の「怖さ」と示唆に富んだ内容が、胸の奥にズシッと重しを残していきます。面白いんだけど、ちょっと恐ろしい…!
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社会派の題材とエンタメが融合した全1巻
作者のウチヤマユージさんは文献はもとより、映画・小説・漫画・音楽など、多様な参考資料を元に作品を創造する漫画家さん。
「犯罪加害者の家族に向けられる世間の目」をテーマにした本作『もろびとこぞりて』でも、社会派の題材とエンタメがうまく融合。
あっさり目な絵柄からは想像できないヘビーな内容で、面白みと余韻を感じせる全1巻となっています。
なお本記事では極力、核心をボカしてご紹介しました。ネタバレ無しで読むとより物語に没入できるでしょう。フラットな気持ちで物語、そして結末を味わってみてください。
レビューまとめ
以上、ウチヤマユージさんの漫画『もろびとこぞりて』のネタバレなしレビューでした。
全1巻ながら200ページを超えるボリュームで、読み応えバツグンのストーリー漫画。エンタメとしてのシンプルな面白さと、社会派の奥深さを併せ持つ、ブラックなサスペンスです。
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