オーストリアの圧政に苦しむ民衆。反撃の機会をうかがうが、関所を守る非道な代官がその前に立ち塞がる。人々は代官を討ち倒し、自由を手に入れることができるのか?
14世紀のアルプスを舞台に、難攻不落の要所を守る残忍な代官。その圧政に抵抗する民衆たちの苛烈な戦いを、迫真の筆致で描く歴史アクション。久慈光久さんの漫画『狼の口』感想・レビューです。
本作は2010~2016年刊行『狼の口 ヴォルフスムント』全8巻(KADOKAWA)の新装版。カバー絵を新たに描き下ろし、『狼の口 revised edition』全4巻として再刊行したものです。
以下『狼の口』の主なあらすじや見どころなどをご紹介します。
『狼の口』あらすじ
13世紀のアルプス地方。自治領シュヴァイツ・ウンターヴァルデン・ウーリの「森林同盟三邦」は、過酷な工事の末に「ザンクト・ゴットハルト峠」を開通させる。
ドイツ・イタリア間の交通の要となった峠だったが、のちに森林同盟三邦はオーストリア公ハプスブルク家によって占領。14世紀初頭には、峠にも関所が設けられてしまう。
その関所「狼の口=ヴォルフスムント」を守るのは、関所破りをする人間たちを残忍な方法で処刑する、悪名高き代官・ヴォルフラム。
オーストリアの圧政に苦しむ人々は要所を取り戻すべく、「狼の口」に戦いを挑むが、悪魔的な手腕を発揮するヴォルフラムの前に苦戦を―?
『狼の口』のココが面白い!
悪魔的な代官・ヴォルフラムに「ぐぬぬ…」!
『狼の口』では圧政に抗う様々な人物が登場する…のですが、その前に何を置いても重要な人物が存在。それが「狼の口」を守る代官・ヴォルフラム。
1巻カバー絵で、「狼の口」に腰掛けているのがヴォルフラムその人。一見、優しそうな微笑みを浮かべる優男ですが、その内面は非常に残虐。
関所破りをする人々、特に「森林同盟三邦」の連絡役を見逃さないよう、異常な観察眼で通行人を検閲。
国家に仇をなす人間だと分かれば、容赦ない拷問の末に、「仕置き執行」の声がけで首をはね、または吊るし首にし、晒し者にする…。
もちろん彼からすれば、オーストリアの役人として当たり前のことをしているだけ。ですが巧みな話術と策略で人々を追い込んでいく、その「悪魔的」とも言える手腕に、読みながら「ぐぬぬ…」と唸らずにはいられない!
「狼の口」へ挑むウィリアム・テルの息子
一方そのヴォルフラムに対抗し、「狼の口」を陥落せんとする森林同盟三邦。数多くの勇者が連絡役となり、関所を突破しようとしますが、ことごとくヴォルフラムの返り討ちに…。
…ホントにビックリするぐらい、主役級・準主役級の人間が散っていくんですよ、この漫画。それも残虐な仕打ちを受けて…。
そこで白羽の矢が立ったのが、ヴィルヘルム・テル(ウィリアム・テル)とその息子・ヴァルター。得意のクライミング技術を活かして、常人では突破不可能なルートから「狼の口」を超えていく!
そして信頼できる多くの仲間を失い、傷つきながらも、一人の「戦士」として認められていくヴァルターは、やがて同盟の中心人物に。
さて彼は、ヴォルフラムを討ち倒すことができるのか…?というのが、物語のひとつの見どころとなっていきます。
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「狼の口」攻略へ!圧巻の攻防戦
ヴァルターの活躍もあり、徐々に結束をしていく同盟。そして圧政に怒りをたぎらせる民衆たちは「狼の口」を攻略、ヴォルフラムを倒さんと、遂に蜂起!
物語中盤からは関所を巡る攻防戦へと突入。が、そこではさらに、苛烈にして凄惨な戦いの描写が…。
そもそもが武装に違いのある守備隊と同盟軍。それに加え、要塞的である関所を「守る側」と「攻める側」では、圧倒的な有利不利がある。そこでは目を覆いたくなるほど残酷な戦いが展開されます。
しかしその描写が容赦なく描かれるからこそ、それを乗り越え「自由」を勝ち取ろうとする人々の姿に、読み手の心もシンクロ。気持ちが熱く昂ぶっていく!
そして翻って現代、すでに「平和」を享受して生きている我々がもし苦境に陥ったら、果たしてヴァルターたちのように戦うことができるのか…?そんなことを考えずにはいられない「リアル」が、読み手の心に強く突き刺さります。
感想・レビューまとめ
以上、久慈光久さんの漫画『狼の口』の感想・レビューでした。
作者の流麗にして力強い線から生み出される、迫真の歴史アクション。文中でも触れましたが、「痛い描写」もあり、決して万人にオススメとは言えない漫画です。
ですがその描写があるからこそ、人々の苦しみと怒りが伝わり、気持ちが物語と同調。一度読むと忘れられないインパクトが残ります。悪代官に立ち向かう民衆の熱き戦いに、拳を握りながら浸ってみてください。
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