浦沢直樹さんの漫画『MASTERキートン』。1988年~1994年に「ビッグコミックオリジナル」に連載され、全18巻完結済み。現在は「完全版」全12巻が刊行、電子書籍化もされています。
はじめて物語に触れた時、「あ、この面白さはホンモノだ!」と衝撃が走った漫画『MASTERキートン』。そのエピソード・ベスト10を勝手に選びました。選出基準は「エモーションを受けたかどうか」ただ一点。異論は認める。
※『MASTERキートン』オリジナル版のクレジットは「浦沢直樹・画 / 勝鹿北星・作」、完全版のクレジットは「浦沢直樹 / 脚本・勝鹿北星 長崎尚志」となっています。
漫画『MASTERキートン』とは?主なあらすじ
エピソード・ベスト10の前に、漫画『MASTERキートン』の概要・あらすじについて簡単にご紹介。
物語の主人公は、考古学研究者かつロイズ(イギリスの世界的な保険市場)のオプ(調査員)である、平賀=キートン・太一。一見物静かな風貌だが、イギリス陸軍特殊空挺部隊「SAS」の元サバイバル・マスターという異色の経歴を持つ人物。
そんな彼が、濃厚なアクション・サスペンスやヒューマン・ドラマなどの各エピソードの中で、
- 保険・軍事などの危険な案件に関わっていくオプ・SASのOB
- 調査・研究をこころざし歴史ロマンに触れていく考古学者
- 娘・百合子や父・太平らと家族の時間を過ごす一人の人間
と多彩な顔を見せながら、「人生のマスター(達人)」として成長していく姿が描かれていきます。
『MASTERキートン』エピソード・ベスト10
それでは以下、個人的『MASTERキートン』のエピソード・ベスト10です。
- 記事の性質上、若干のネタバレを含みます。
- 巻数表記・CHAPTERは「完全版・全12巻」と「オリジナル版・全18巻」のものを併記。
- 『MASTERキートン Reマスター』のエピソードは含んでいません。
第10位『薔薇色の人生』
第10位『薔薇色の人生』(完全版2巻CHAPTER2・オリジナル版2巻CHAPTER6)。
とある男が人生を賭けた小さな冒険。スイスの英雄、イタリアの貧富、ミステリー要素と、ヨーロッパの空気を感じさせるパーツが詰め込まれ、良い読後感のあるエピソード。
また終盤で描かれる、キートンの論文に感銘を受けた図書館員のセリフが印象的。オプとしてのキートンの優秀さはもちろん、学者としての顔も描かれた充実のストーリー。
第9位『家族』
第9位『家族』(完全版8巻CHAPTER4・オリジナル版11巻CHAPTER8)。
ドイツにあふれるユーゴスラビア難民。それを迫害するネオナチ。ドーピングで身を崩した旧社会主義国の英雄。20世紀末のヨーロッパの風景が詰まったエピソード。
今では各種世界大会におけるドーピングの検査は、かなりきつくなりました。が、当時はこのような「作られたヒーロー」が相当数存在していたのでしょう。そんな汚れた英雄が、自らの居場所を見つけるまで。
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第8位『緑のフーガ』
第8位『緑のフーガ』(完全版7巻CHAPTER2・オリジナル版10巻CHAPTER2)。
環境汚染の告発書類を守るために、大気汚染で悪名を馳せる自動車「トラバント」で逃亡するキートンたち、という構図が面白いエピソード。
トラバントの手動ビームや、「紙でできている」と揶揄される車体の軽さを活かした逃亡劇、手近にある道具をトラップに仕立て上げるサバイバル術など、東欧事情とキートンのサバイバル・マスターとしての能力が絡み合った良作。
第7位『小さな巨人』
第7位『小さな巨人』(完全版2巻CHAPTER6・オリジナル版3巻CHAPTER2)。
犯罪者を独自にとらえ、警察に引き渡すことで賞金を受け取る、ヨーロッパの賞金稼ぎチーム。キートンが主体ではなく、ピトック側の目線で描かれるエピソード。
プロである彼らからはキートンがアマチュアに映るが、実はキートンこそが「プロ」であることを知っている、という読者のカタルシスを、実に気持ちよく満たしてくれる一作。
第6位『貴婦人との旅』
第6位『貴婦人との旅』(完全版1巻CHAPTER9・オリジナル版2巻CHAPTER1)。
数多くの悲劇を産んだドイツの東西分断。それを「物語の真実」に練り込んだ良エピソード。前半は老婦人の態度にイライラ(笑)。しかし後半の数ページでその印象がガラリと変わる。ドラマチックな構成が実に印象深い。
それにしてもキートンはあの後、宝石をどうしたんだろう?気になる…。
第5位『屋根の下の巴里』
第5位『屋根の下の巴里』(完全版2巻CHAPTER5・オリジナル版3巻CHAPTER1)。
キートンの学問への熱き思いをひしひしと感じさせてくれる、オプとしての活躍とは対象的なエピソード。
SAS入隊以前の、学生結婚をした頃の若き姿や、百合子との静かな会話にも注目。人間はなぜ学ぶのか?という問いに対するメッセージも心に響く。MASTERキートンという物語の、根っこを形成するピースの一つであるエピソード。
第4位『死の都市の蠍』
第4位『死の都市の蠍』(完全版5巻CHAPTER12・オリジナル版8巻CHAPTER4)。
イラク戦争の片隅で起こるキートンの奮闘描く連作、その第4話。「地上最強の武器」である戦車VS生身の人間の戦いが描かれます。
熱砂の中、ジリジリとノーフォーク公を追い詰める戦車。それに対抗できるのは、キートンのサバイバル技術のみ。果たして彼らは死の砂漠を脱出できるのか…?
当時、日本人の一番身近だった戦争「イラク戦争」が舞台、というところに臨場感がありました。そして印象的なのは、ノーフォーク公の最後のセリフ。
第3位『出口なし』
第3位『出口なし』(完全版5巻CHAPTER8・オリジナル版7巻CHAPTER8)。
銃口に指を突っ込むと暴発するのか?散弾銃の弾は人の体を貫通するのか?そして銃身の曲がった銃は弾を発射できるのか?など、銃に関する様々な「思い込み」が随所に散りばめられたユニークなエピソード。
イギリスの田舎町で純朴な住民を巻き込みながら、銃トリビアを交えて淡々と繰り広げられる物語。終盤のキートンのセリフ、好きなんですよね。
第2位『砂漠のカーリマン』
第2位『砂漠のカーリマン』(完全版1巻CHAPTER6・オリジナル版1巻CHAPTER6)。
連作のクライマックスとなる3話目。地政・文化・宗教など「世界」に触れながら、キートンのサバイバル・マスターとしての本領を存分に味わえる『MASTERキートン』屈指の名エピソード。
極限状況においても生存のみならず、戦う姿勢を捨てないキートンの姿が、脳裏に焼き付いて離れない。石を舐め、木の根をかじる、キートンのサバイバル技術は覚えておこう。あと砂漠には背広で行こう!(試す機会はない)
第1位『迷宮の男』
堂々の第1位は、キートン初登場エピソードは『迷宮の男』!(完全版1巻CHAPTER1・オリジナル版1巻CHAPTER1)
今回ベスト・エピソードを選定するにあたって、全話をざっと読み直しました。記事作成前は『砂漠のカーリマン』が1位かな、と思っていたのですが、再読でこの1話の完成度の高さに驚かされ、1位に選出。
考古学者、ロイズのオプ、元SASのサバイバル・マスターであるという、キートンのバック・グラウンド。そして飄々とした風貌と性格、現地のものを利用する生き残り術など、全18巻を形作る原型が、第一話にして完璧に詰まっています。
「これは面白い漫画だ!」ということを、読者に強烈に印象づけたエピソードなのではないでしょうか。
まとめ
以上、勝手に独断で選ぶ漫画『MASTERキートン』ベストエピソード10でした。
深みのある濃厚なヒューマン・ドラマや、緊迫感あふれるスリル&サスペンスが詰まった物語は、いま読んでも間違いなく面白い!未読の方にも再読の方にも、オススメの漫画です。
なお電子版『MASTERキートン 完全版』は「1,100円(税込)✕全12巻」とややボリュームがありますが、電子書籍ストアの初回限定特典を利用するとお得に読めます。ぜひチェックしてみてください。
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