ある日突然、一つ屋根の下に住むことになった35歳の小説家と15歳の姪。二人はお互いの距離を不器用に測りつつ、その世界を少しずつ変えていく―。
ヤマシタトモコさんの漫画『違国日記(いこくにっき)』。『異国日記』ではなく『違国日記』。不慮の出来事により同居する二人の女性。その日常と成長を、丁寧な筆致で描きあげるドラマ作品です。
連載は祥伝社FELL YOUNG(フィール・ヤング)誌で、全11巻完結。以下『違国日記』が気になる方向けに、主なあらすじや見どころなどを基本ネタバレなしでご紹介します。
『違国日記』あらすじ
少女小説家・高代槙生(こうだい・まきお)は、折り合いの悪かった姉・実里(みのり)が、夫婦で交通事故死したことを知る。
その後、姉の娘・田汲朝(たくみ・あさ)と久方ぶりの再会を果たすが、葬儀の席ではお約束のように、彼女の処遇をめぐる「たらい回し」が…。
そんな親族たち業を煮やした槙生は、朝に向かって毅然と告げる。
「あなたを愛せるかどうかはわからないが、わたしはあなたを決して踏みにじらない。それでもよければずっとうちに帰ってきなさい」
その槙生の言葉を受け、朝は彼女と暮らすことを選択。叔母と姪の共同生活が始まることに。しかし実は慎生は、極度の人見知りで…?
『違国日記』レビュー
二人の不思議な同居生活
これまでほぼ接点の無かった「叔母と姪」が、成り行きから共同生活を送ることになる『違国日記』。とりあえず生活が回りだすも、その根底には密やかな齟齬が…。
端的に言うと、人付き合いがやや苦手な槙生。「15歳の姪」という「未知の人種」に対して意思疎通を測りかねる部分があり、戸惑いを感じます。
また朝は「確執のあった姉の娘」。最大限の配慮を持って接するのですが、ふとした言動などから姉を想起し、心にさざ波が立つことも…。
一方、ごく普通の15歳だったはずが、ある日突然「両親のいない人」になり、さらに「へんな人(※朝の視点で)」と暮らすことになった朝。平静を装いながらも、状況への精神的な適応が追いつかない。
また母親の面影もありながら、思春期の少女にとってはやや辛辣な態度も見せる、理解し難い存在=慎生に対し、徐々に不満が蓄積…?
ちょっと変わった「叔母」と、人生が変わり過ぎた「15歳」。そんな二人の不思議で緊張感のある暮らしぶりに、思わず引き込まれていきます。
槙生と朝がたどる「3年間」
そんな『違国日記』、物語の始まりは少し面白い構造。「槙生と朝の出会い」が描かれるのは、実は第2話から。
第1話では出会いから3年後、高校3年生となった朝と槙生が、ごく自然に共同生活を送っている様子が見られます。
朝の格好や雰囲気・言動、槙生への態度からうかがえるのは、生活の落ち着き・充足ぶり。槙生のアドバイスで付け始めた日記が、ノートからスマホになっている、といった変化も。
槙生は3年前と変わらず、小説家として仕事机に。その彼女を横目に朝は二人分の食事を作り、仕事をする槙生の傍らで眠りに付く…。
果たして二人は、どのような三年間を経てそこに辿り着いたのか?
終盤では「伏線の回収」もあり、何とも味わい深いものが。第1話の雰囲気を頭の片隅に入れながら読むと、物語の面白み、そして余韻を、より感じられるでしょう。
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Journal with witch
さてそんな『違国日記』、英題は『Journal with witch』。「何とかdiary」とかじゃなくって『Journal with witch』。
意訳すれば「魔女と過ごした日々(の日記)」てな感じでしょうか。オリジナルタイトルは「違国」なのに、あえて「with witch」としているのがポイント。
日記を書くのはもちろん朝であり、魔女は慎生なわけですが、その比喩は序盤ではピンとこないかもしれません。
ですが巻を重ねるにつれ、次第に「タイトルの意味」が染みるように伝わってくるのが、本作の醍醐味。
出会った頃はまるで他人だった慎生と朝。不慮の出来事が無ければきっと交わらなかったであろう二人の人生が、一つ屋根の下で時を重ね、やがて…。
練り込まれたセリフと微細なの積み重ねで、丁寧に形作られる「違国」。しっとりした世界観が魅力の人間ドラマです。
レビューまとめ
以上、ヤマシタトモコさんの漫画『違国日記』のネタバレなしレビューでした。
全11巻を持って完結した本作。朝と慎生の周囲も含めて、これでもか!というぐらい丁寧に描かれる人間関係や心理描写が魅力の作品。
特に全部を読み終わってからもう一度、第一話を読み返すと、また違った感覚・感情が生まれてくるでしょう。「朝と慎生の3年間」に触れてみてください。
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