愛する夫を殺され、娘を奪われた女性は、長身の狙撃銃を手に取り復讐を誓う―。
影待蛍太さんの漫画「GROUNDLESS(グランドレス)」。
一人の女性の復讐劇を起点に、架空の国家における激烈な内乱と、そこで戦う兵士たちの過酷な戦いを描く、本格ミリタリー漫画です。
「GROUNDLESS」はもともとはWeb発の作品。作者サイトに記載の「架空世界の戦場群像劇」という言葉が、作品の本質を良くあらわしています。
2020年10月現在、9巻まで刊行。以下続刊です。
「GROUNDLESS」感想
あらすじ
疫病の流行により、総人口の1/6が死亡した島国アリストリア。母体である大陸政府から封国処置を受け、慢性的な物資不足と経済恐慌に。
市民は暴徒化し、さらに書籍『大陸統治論』の流行から、民兵組織「アリストリア開放市民軍」へ発展、暴動や略奪により不安定な情勢に陥っている。
そのアリストリアにおいて、武器産業により独自の自治を確立している街・ダシア。
在住の武器商・ウォルドロンは、島軍の将校より大口の武器調達依頼を受けるが、裏切りにあい死亡。巻き添えを食った妻・ソフィアも、左眼と幼い娘を奪われる。
復讐を誓うソフィアは、夫の遺した狙撃銃を手にダシア自警団に志願。しかし彼女の狙撃の精度は低く、戦力としてみなされない始末。
そんな折、解放軍と島軍の一部が蜂起を予定し、ダシア自警団も参加を促される。
参戦の空気が流れる中、ひとり解放軍への参加に異を唱えるソフィア。その意見を汲んで街を守ることを選択した自警団は、解放軍と交戦状態に。
そこで後方での「支援」狙撃を任されたソフィアは、復讐と娘の奪還を目指し、仇である将校の姿を探すが…?
隻眼のスナイパー
ちょっと前置きが長くなりましたが、以上が「GROUNDLESS(グランドレス)」1巻の、3分の2ぐらいまでのストーリー。
悲劇の女性スナイパー・ソフィアの復讐劇が描かれます。
実は、超正確な狙撃の腕を持つソフィア。敵を油断させるため、味方まであざむいて隠した実力を、自警団と開放軍の戦いで解禁。次々とヘッドショットを決め、一気に戦場の主役へと躍り出ます。
※ネタバレごめん。ただこれを書かないと以降の説明ができないのでご了承を。
「GROUNDLESS」の世界観は、実際の歴史に例えると、第一次世界大戦ぐらいというイメージでしょうか。
戦車や航空機も存在しますが、登場する兵器・戦術に関しては、小銃を携行した歩兵が戦闘の中心。
その中で味方に腕のいい狙撃兵がいるかどうかは、戦局を左右する大きな要素。その役割を伏兵とも言うべきソフィアが担い、驚異的な活躍を見せていく。
「戦場における狙撃手」の存在を強烈に印象づける、1巻の大きな見どころです。
緊迫の穀物地接収作戦
なるほど「GROUNDLESS」ではソフィアが主人公なのか…
と思いきや、意外にもソフィアの復讐劇は1巻前半でひとまず終わり。1巻後半からは、ダシア自警団の戦いに物語はシフト。
市民の暴徒化に対抗し食料源を確保せんと、近隣の穀倉地を接収する自警団の作戦行動が描かれます。
武装はしていても、軍隊ではなく「自警団」である彼ら。しかし徐々に混迷に巻き込まれていく島内で、銃を手に取る他は選択肢が無いのが現状。
そのためメンバーは、軍務経験者から一般市民レベルの志願者まで様々という、烏合の衆。
そんな部隊としてはやや不安の残る彼らが、到着した穀倉地で待ち受ける開放軍の罠にかかり、絶体絶命のピンチに。
果たして彼らは生き残ることができるのか?という緊迫の戦いが、2~3巻で展開。
そこで描かれる戦術や兵士の動き、兵器の運用などミリタリー描写が、実にリアルで迫力あり。まるで自分が戦場にいるような高揚、はたまた恐ろしさを感じます。
島を舞台にした戦場群像劇
ソフィアの復讐劇、さらにダシア自警団の作戦行動を描いた「GROUNDLESS」は、巻を重ねるにつれ「戦場群像劇」へと変容。
ダシアのみならず、開放軍や島軍の兵士たちの思惑・心情にもスポットが当たるように。
仲間と故郷の弟のために、自らの体を武器に島軍戦車隊で地位を築いていく戦車長・レジーナ。
穀倉地帯で恋人をソフィアに射殺され、復讐を誓う解放軍兵士・マリカ。
驚異的な戦闘能力でダシア自警団を苦しめる天才狙撃兵・リドリー。
『大陸統治論』を著したがために担ぎ上げられ、混乱の元凶となったことに恐れを抱く反体制派の盟主・リビンダ…。
それぞれが、それぞれの事情・立場でアリストリア島内の戦闘に参加し、そしてすでに個人の力ではどうしようもなくなった過酷な「戦争」の、一つの歯車となっていく。
これら多様・複雑な登場人物の一人ひとりにそれぞれの戦場があり、それを戦史の中にきっちりとまとめ上げているのが、「GROUNDLESS」の面白み、大きな魅力となっています。
主体はあくまでもダシア自警団ですが、「正義VS悪」という単純な図式に留まらない、広い視点での戦場が、物語全体で描かれていきます。
隻眼の狙撃兵が行き着く場所は…?
「架空世界の戦場群像劇」として描かれる「GROUNDLESS(グランドレス)」。その中でも目を離せないのは、やはり物語の発端となった凄腕の女性狙撃手・ソフィア。
復讐を果たし一度は戦列を離れるも、取り戻した娘を夫の親族に取り上げられ、再び自警団に復帰。驚異的な狙撃能力で、ダシア自警団の要となっていく彼女。
しかし街のため、仲間のために引き金を引けば引くほど血塗られていく、その手。
相棒である観測手・モンドに支えられながらも、相手兵士たちから恐れられ憎まれていき、その精神は徐々に張り詰めていく。
そして戦いが終焉を迎える時、彼女はどのような人間になっているのか?どのような気持ちで娘を抱くのか?
戦争という抗えない渦に巻き込まれた人間が、辿り着く場所。過酷な戦場で生死を賭けた戦いを繰り返すソフィアたち兵士の行く末は、果たして…?
まとめ
以上、影待蛍太さんの漫画「GROUNDLESS」感想でした。
読み始めると一気読み必至のミリタリー・ドラマ。1巻の復讐劇はもちろん、2・3巻で描かれる穀倉地の戦いは圧巻。特に2巻終盤は震える展開で、忘れられないインパクトがあります。
まずはぜひ1巻を。そして2~3巻と続けて読むと、もうこのおもしろさからは引き返せない!
2020年刊行の最新9巻に至り、ますます盛り上がってきた「GROUNDLESS」の世界に、どっぷりハマってみてください。オススメです。
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