あの『寄生獣』が20年以上の時を経て、公式スピンオフ『寄生獣リバーシ』として復活！これまでもオマージュ的な短編は発表されていましたが、長編としては初登場です。
作者は女子格闘技漫画『鉄風』の太田モアレさんで、オリジナルの作者・岩明均さんは原作者としてクレジット。全8巻完結済み。
以下『寄生獣リバーシ』が気になる方向けに、主なあらすじや見どころなどを基本ネタバレなしでご紹介します。（原作『寄生獣』のネタバレを多少含みますのでご注意を）。
『寄生獣リバーシ』あらすじ・概要
オリジナル『寄生獣』全10巻は、講談社アフタヌーン誌に1988年より連載された漫画。作者・岩明均さんの名前を一躍有名にした出世作で、実写映画・アニメなど映像化もされました。
高校生・泉新一とその右腕に寄生したミギーが、人間の頭部と同化し人を捕食する寄生生物たちと戦う、というストーリー。ヒューマン・ドラマ的要素も持つホラー漫画として、今なお根強い人気を誇ります。
そのスピンオフが『寄生獣リバーシ』。作者の太田モアレさんは『寄生獣』のトリビュート・コミック『ネオ寄生獣』で、『今夜もEat it』を描いた漫画家さん。
随所にオリジナルの絵柄そっくりのパロディを仕込んだ、「人間として一生を送ったとあるパラサイト」を描く内容。コメディながら、本家『寄生獣』と較べても違和感の無い出来を持つ短編です。
その作画力をもって描かれるのが、本作『寄生獣リバーシ』。東福山署管内で発生した寄生生物による「ミンチ殺人」。事件現場にいた少年タツキと、事件を担当する刑事・深見を中心に、『寄生獣』の裏側が展開されます。
世界観はオリジナル『寄生獣』と同一で、本家でおなじみのキャラクターも登場。そして主人公の少年・タツキは、あの「市長・広川」の息子です。
なお『寄生獣リバーシ』序盤では、広川はまだ市長ではなく「市議」。なので時間的には、『寄生獣』4巻～ぐらいの物語と思われます。
『寄生獣リバーシ』レビュー
広川の息子・タツキの「正義」
『寄生獣リバーシ』のスタートは、寄生生物による殺戮現場に佇むタツキというショッキングなシーンから。
警察の取り調べを受けたタツキは、署を出たのちに担当刑事・深見とともに、寄生生物に襲われる！
辛くも窮地を脱したふたり。深見が「君が見たのはあのバケモノなのか？」と問うと、
「僕が見たのはあんな化け物よりもおぞましい、悪だ」
ミギーの細胞と一体化した後の新一を彷彿とさせるような、独特の落ち着きを見せるタツキ。事件以降は深見と協力関係を築きながらも、行動原理や目的は序盤ではまだ不明。
父親である広川とは、微妙な距離感のある彼。その行動は己の中の「正義」によって決定されているようですが、果たして彼の言う「悪」とは何なのか…？
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『寄生獣』の「リバーシ」たる物語
一方、本編と同じく寄生生物側の視点からも物語は展開。すでに寄生生物たちとの接触を果たしている広川の側には、協力者である「田宮良子」の姿が（まだ「田村玲子」とは名乗っていない）。
卓越した頭脳と冷静な判断力で、「仲間」たちの未来を画策する彼女。「後藤」を「作り上げた」ことを匂わせていましたが、本作ではその「実験」の断片が描かれます。
そしてやがて起こる、市役所を舞台にした人間 VS 寄生生物の「決戦」。そこに至るまでに田宮良子ら寄生生物が、どのように思考し、行動していったのか？原作のシーンを絡めながら、不気味に展開されていきます。
なお『寄生獣リバーシ』での初登場時は「本来とは違う姿」で現れる彼女、その容姿に思わずニヤリ。
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『寄生獣』の「リバーシ」たる物語
そして1巻の中盤～終盤からは、『寄生獣リバーシ』のキーを握る、とある人物が登場。不審な行動を取る彼が、果たしてタツキの指す「悪」なのか？「アイツを絶対に許さない」と息巻くタツキが立ち向かう相手なのか？
巻を重ねて徐々に顕になるその正体は、左手に寄生生物「スレドニ・ヴァシュタール」を宿す男「海老沢」。
泉新一＋ミギーと似通った存在・シルエットながら、しかし真逆の行動を取る彼らは、まさに『寄生獣リバーシ』の象徴とも言えるもの。その存在に、タツキや深見はどう相対していくのか…？
新一らが自身の生存をかけて悩み、苦しみ、そして生き抜いていく『寄生獣』本編の、まさに表と裏、リバーシ（オセロ）のような物語である『寄生獣リバーシ』。物語が進むにつれ本編とのリンクも深まり、盛り上がる展開を見せていきます。
全8巻感想（ネタバレ無し）
そんな『寄生獣リバーシ』は、『寄生獣』後半で大きな山場となる「決戦」へ。タツキは、深見は、己の正義を貫き通すことができるのか？…という物語。全8巻で完結となりました。
全体的な感想としては、序盤から終盤までサスペンス感・緊張感を保ったまま、上手く着地しているな、という印象。
『寄生獣』の登場人物と『リバーシ』の登場人物の絡み（または絡まない）具合も絶妙で、市役所攻防戦の裏側でこんなことが起こっていたかもしれない、と思わせる「裏・寄生獣」とも言うべき説得力がありました。
中盤からはオリジナルからの引用シーンが若干増えて、もう少しコンパクトに出来たのでは？とも思いますが、全8巻での完結というのは、まずまずのバランスなのでは。
何より『寄生獣』というベースのイメージを損なわず、かつ主人公・タツキや深見刑事など本作独自のキャラクターを確立させた物語の展開は、太田モアレさんの手腕に拠るところなのでしょう。良いスピンオフだと感じる全8巻でした。
レビューまとめ
以上、太田モアレさんの漫画『寄生獣リバーシ』のネタバレなしレビューでした。
岩明均氏以外による作画ながら、本作で描かれている内容・雰囲気は、完全に『寄生獣』のそれ。原作のイメージを損なわずに魅力的な世界観が作り上げられてる、と言える出来です。
また物語が進むに連れ、徐々に『寄生獣』本編の人物たちが登場するのも、『リバーシ』の面白み。
警察側の人間として欠かせない平間警部補から、ちょっとした「小ネタ」レベルまで、「お！」と思わせるキャラクターが出演。オリジナル『寄生獣』のファンならば、楽しめること請け合いの長編スピンオフです。
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