「二鳥翠」
「にとりみどり」と読みます。表題作「二鳥翠」の主人公の名前。背が高くボーイッシュな彼女の憧れは、自分と似た雰囲気を持つ喫茶店のお姉さん―。
著者・黒谷知也さんによる、文学的雰囲気を漂わせる短編を取りまとめた、その名も「二鳥翠 黒谷知也作品集」です。
「二鳥翠 黒谷知也作品集」レビュー
概要
黒谷知也さんは、短編集「幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい」や「書店員 波山個間子」など、文学感あふれる短編、文学を題材にした漫画を手がける漫画家さん。
本作「二鳥翠 黒谷知也作品集」は、作者が徳間書店COMICリュウに2009~2011年にかけて発表した短編や、氏の個人サイトに発表していた作品を取りまとめたもの。全11編を収録し、そのいずれもが筆によって描かれている、というのが大きな特徴です。
短編小説のような作品群
収録作品の系統は大きく2つ。一つは、「二鳥翠」や「盤上の往復書簡」など、現代社会のワンシーンに起こる出来事を淡々と綴るもの。
もう一つは、少しファンタジック・奇想天外な出来事が展開されるもの。花瓶を探す女性の前にいきなり花の精があらわれる、「或る若い純文学者の花瓶」などが、それにあたります。
そのいずれもが、漫画でありながらとても文学的な雰囲気。明確なオチをつけるタイプではなく、絵やセリフ、人物のモノローグで語られる物語の、「行間」を読む感じ。漫画と小説の中間にあるような、そんな印象を受けます。
そして読み終わったあと、その物語に込められたメッセージや、登場人物たちの心情を類推したくなってくる、良い読後感が。またその気持を後押しするのは、筆で描かれたビジュアル。時に繊細に、時に荒々しく塗られ、引かれる線は、不思議と脳裏に焼き付くインパクトが(タッチが気になる方は、電子書籍サイトで試し読みをどうぞ)。
個人的に気に入った短編は、長身女子高生の心情を綴る表題作「二鳥翠」ほか、
- 無口な女性(双子の一人)の存在を、双子のような一対の鉢植と絡めて描く「双樹」
- 夫が貸した本をきっかけに、その恩師と夫の思い出を語る妻を描く「象耳見聞録」
- 突如、頭頂に樹が生えた男がたどる奇妙な顛末「樹譚」
など。繰り返し、じっくりと味わいたくなる余韻があります。
まとめ
以上、黒谷知也さんの「二鳥翠 黒谷知也作品集」レビューでした。絵を見て、文を読んで、物語を感じる。独特な読後感のある短編群です。
ところで作中に登場する女性の造詣は、基本的にスレンダーでやや強気な目をしたものが多い。これって作者の好み、なんですかね。個人的には黒谷知也さん描く女性の姿に惹かれるものがあるのですが、いずれいろんなバリエーションの人物を見てみたいですね。
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