ちょっとマイナーな作品多め、読んで面白かった短編漫画集のまとめ。マニアックだけどピリリと来る短編漫画が楽しめます。
短編漫画集リスト
回游の森
灰原薬さんの『回游の森』。
幼き従姉妹に秘密を知られた男。真夜中に穴を掘る女。爬虫類を愛でるエリート会社員…。心の中に闇ならぬ「森」を持つ、様々な年代の男女を描いた連作短編全7編。
暗めの作画と相まって、独特の凄みを感じる漫画。少しずつ暗い森の中に引きずり込まれるような重苦しさを感じます。
渚 ~河野別荘地短編集~(1)
河野別荘地さんの『渚 ~河野別荘地短編集~(1)』。
短編3編のほか、人魚が「足」を手に入れるためにIT系のバイトに励む連作『渚』を収録。その中でも注目の一編が『旬』。
書道教室の女性講師・バイトの男子大学生・新入会した女子高生が、ねちっこい愛憎劇を繰り広げるのですが、「おいおい、どうみてもこれだけ他の漫画と毛色が違うだろw」というテイストが妙に面白い。一度読むと忘れられないインパクト。
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珈琲時間
豊田徹也さんの『珈琲時間』。
シリアスなドラマ、笑える話、そして人生の不思議さ・悲哀を感じさせる話。全17話の物語のそれぞれに、コーヒーが小道具として登場する短編集。
女性チェリストと怪しいイタリア人の交流を、軽快に描く連作が面白い。深みのあるストーリーと、それを引き立てる激ウマなビジュアルにも注目。
制服ぬすまれた
SNSでバズった表題作含む5編を収録した短編集、衿沢世衣子さんの『制服ぬすまれた』。
育休中の婦人警察官が偶然関わった、女子高生の制服盗難事件。その捜査は彼女の忘れていた記憶を呼び戻し…?
ライトでポップな作風が特徴の作者の描く、既存作と大きく異なる大人向けのストーリー、読ませる短編集となっています。
その中にも『ハンドスピナーさとる』のような笑える一編を混ぜ込んでいるのが作者らしい。
こうふく画報
長田佳奈さんの『こうふく画報』。
大正時代の日本を舞台に、当時の日本の食べ物を絡めて、市井の人々の日常を温かく描き出す全12編。
美麗な作画で描かれる物語にほっこり。読み終える頃にはちょっとお腹がすいてくる、優しい漫画。こういう作品をじっくり、ゆっくり読むのも悪くない。
辺境で 伊図透作品集
伊図透さんの『辺境で 伊図透作品集』。
過酷な辺境の地で、鉄道敷設に従事する訳あり労働者たち。その心の矜持を描く表題作『辺境で』。底辺に生きる男たちのささやかなプライド、そして静かにふつふつとたぎる情熱が伝わります。
その他、微妙な年頃の少年少女たちの交流や、内面の葛藤を鉄を使った課題制作に打ちつける女子美大生など、人間味のある物語が詰まった伊図透漫画の源泉とも言える作品集。
真夏のデルタ
綿貫芳子さんの『真夏のデルタ』。
歯並びの悪さを気にする女子、その歯に触りたい美術系男子、イケメン・スポーツ万能な女子の彼氏。そんな高校生三人の胸の内を描く連作短編集。
生き生きと青春を謳歌している彼らの、しかし内面に抱えた昏さ。それらがぶつかりあった時に発露する瑞々しさが眩しい!
「顔はカワイイが歯並びが悪いヒロイン」の描写、雰囲気を醸し出す陰影の付け方、手抜きのない背景描写など、めちゃくちゃ上手い作画も見どころ。
はなちゃんと、世界のかたち
植田りょうたろうさんの初短編集『はなちゃんと、世界のかたち』。
少し昔の日本で、はなちゃんとうたちゃんの二人が繰り広げる不思議な冒険、全6編を収録。
漫画だけど、アニメのような、絵本のような、絵画のような、一度見たら忘れられないコマの数々が印象的。
「子どもの感じる世界」をそのまま漫画家したような独特の世界観と、躍動感あふれるキャラクターたちが楽しい、ファンタジックな短編集です。
このかけがえのない地獄
oimoさんの別名義「アッチあい」による短編漫画集『このかけがえのない地獄』。全5編を収録。
ラブコメ漫画の中に紛れ込んだ戦争漫画の新キャラが、その価値観の違いから3番目のヒロインの心にさざなみを起こしていく、という漫画をメタった漫画『4番目のヒロイン』が特にオススメ。
読後、喉に刺さった小骨のように何かが引っかかる。そんなちょっとクセのある後味を持つ短編集です。
ききみみ図鑑
宮田紘次さんの『ききみみ図鑑』。
音楽がイメージとして見える男子と軽音楽部の先輩女子の交流を描く『視える音』、楽器をエキゾチックな美女になぞらえて描く『奪われた歌』など、青春もの・SF・時代劇ほか様々なシチュエーションを「音楽」を絡めて描く全8編。
ファンタジックな世界観と、宮田紘次さんが生み出す笑顔が素敵なキャラクターが魅力です。
さらば、やさしいゆうづる
有永イネさんの『さらば、やさしいゆうづる』。
家庭環境により常識が欠如した女子大生と、お隣のロ◯コン青年の交流を描く表題作『さらば、やさしいゆうづる』。
顔の痣がコンプレックスの少女が、双子の弟とのやり取りを通して成長する『なき顔の君へ』。
などなど、人間ドラマやオカルト・コメディなど、バラエティに富んだ全4編を収録。人間の心情が有永イネさんの流麗な線で、じっくり丁寧に描かれます。
名前をつけて保存しますか?
雁須磨子さんの『名前をつけて保存しますか?』。
両親の離婚で揺れる姉。その心を結婚や妹との微妙な関係を絡めて描く表題作ほか、全5編を収録。
作中で描かれるのは、形は違えどいずれも「家族」の在りよう。作者・雁須磨子さんの巧みな会話の描き方で、思わず登場人物たちに感情移入してしまい、不思議な満足感を感じる短編集です。
瓜子姫の夜・シンデレラの朝
諸星大二郎さんの『瓜子姫の夜・シンデレラの朝』。
農民が美しい女房の秘密に触れる『見るなの座敷』、少女が地獄の釜を垣間見る『悪魔の煤(すす)けた相棒』、そして中華な雰囲気たっぷりの『竹青』など。
和物・洋物・中華物を取り混ぜた昔話に諸星氏が独自のアレンジを加えた作品集。独特な絵柄と相まった、不可思議な物語が堪能できます。
ミッドナイトブルー
全編が青味がかったインクで描かれる、須藤佑実さんの『ミッドナイトブルー』。
交通事故で死んだ同級生の少女。幽霊となった彼女と、かつて彼女を想っていた男性との、2年に一度の交流を描く表題作『ミッドナイトブルー』。
夜中にひっそりと読みたい、せつなさの募る短編です。ほか、男女の機微をしっとりと描く全7編収録。
このたびは
えすとえむさんの『このたびは』。
超めんくいな女性が、顔面偏差値トリプルAの男性をお見合い写真で見つけ、そして結婚に至るまでの顛末を描いた『ふつつかものですが』など、冠婚葬祭にまつわる6編を収録した短編集。
えすとえむさんらしい美麗な線と、人の心の機微を描くストーリー。落ち着いて読める大人の短編集です。
春の一重
切畑水葉さんの『春の一重』。
人間とキツネの不思議なやり取りをファンタジックに描く、連作『春の一重』~『冬の集い』など、ふんわり柔らかな雰囲気に包まれた物語にほっこり…
と思いきや、6話『鵯(ひよどり)の裁判』で雰囲気が一変。仕事帰りに動物世界に迷い込んだ会社員を、昏く恐ろしく描く様にゾクリ。
幻想的&ダーク寄りのファンタジーに引き込まれます。
にわにはににん
スクリーントーンを幾重にもかさねて漫画を描く、という独特な描画方法を用いる中野シズカさんの『にわにはににん』。
プロローグ・エピローグ含む全7編、その全てで「庭」が絡んだ物語が展開されます。端正な描写力で紡がれる、ファンタジックで深みのあるストーリーが面白い。
読みながらその世界に取り込まれてしまうような、不思議な力を持っています。モノクロだけど、読むと不思議といろいろな「庭の色」が浮かび上がってくるような。
【漫画全巻ドットコム】
彼女は宇宙一
イラストレーターでもある谷口菜津子さんの初ストーリー漫画集『彼女は宇宙一』。
巨大ヒーローになる女の子をコミカルに描く『カロリーファイターあいちゃん!』や、思春期女子たちの複雑な感情をお弁当事情に絡めて描く『ランチの憂鬱』など、6つの短編を収録。
谷口菜津子さんの描く線は、一見複雑なようでいて実はとても読みやすい、という不思議な感覚。独特のポップさとユニークで笑えるストーリーも魅力的です。
ブラックマジック
『ブラックマジック』全1巻。金星を統治する巨大コンピュータの末娘であり、強大な力を持つ魔法使いデュナ・テュフォンの戦いを描いた、士郎正宗さんの初期作品です。
注目は、士郎正宗氏自身が監督をしたアニメ作品『ブラックマジック M-66』の原型である『ブービートラップ』。オフィスビルという閉鎖空間で、暴走する人型機動兵器「マリオ」を特殊部隊は止めることができるのか?という短編。
SF要素とミリタリー描写が融合、士郎正宗作品らしい緻密なSFアクションが楽しめる作品です。
なおアニメ『ブラックマジック M-66』は、動画サイトで視聴可能。士郎正宗氏が動きにこだわったために作画枚数が増えに増え、発売も延期に延期を重ねたという伝説的な作品。1987年制作ですが、今見ても面白いです。
笠辺哲 短編マンガ集 バニーズ
イラストタッチな描画で描かれる、笠辺哲さんの『短編マンガ集 バニーズ』。
未来予知が可能な「精神波検出装置」の被験体となった男。彼が実験の末に見た「バニーズ」とは?(『バニーズ』)
寒冷化した世界。タイムトンネルとなったロッカーを通して、寒冷化前の世界と「貿易」をする科学者。時空を超えた取引の結末は―(『ロッカー貿易』)
など、ゆる~いSF中心、シニカルなセンスが光る9編を収録。ちょっと間の抜けた感じを持つ、不思議な作風のコメディSFです。
新装版 天帝少年 中村朝短編集
中村朝さんの『新装版 天帝少年 中村朝短編集』。この短編集自体はホラー専門ではないのですが、収録の一編『白件』が秀逸なホラー短編。
廃村の旧家で死んだ4人の男子高校生。部屋の襖に残されていたのは「指紋の無い小さな白い手形」。刑事たちは「家の中にオカイコさまと呼ばれる白い女の人がいた」との証言を得るが、その正体は果して…?という民俗学ホラー。
物語の運び方、雰囲気の作り方、そして上手い伏線の使い方でゾクゾクする仕上がり。怖いです。
東京膜
渡辺ペコさんの『東京膜』。『東京砂漠』じゃなくて『東京膜』。
住まいを絡めた表題3部作他、全6編を収録。姉弟が登山をしながら、家の階段を山登りになぞらえた幼少時の思い出を語り合う、『東京膜#3 かぶと山トレッキング』が良い読後感。
あとがきで作者自身が書かれているように、やや地味な漫画なんですが、サラッと読めて良いほっこり感が残る短編集です。
まとめ
以上、「マイナーだけど面白い!マニアックな短編漫画集まとめ。」でした。新しい短編漫画を発見したら随時追記します。
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