北海道に住む兼業猟師・小坂チアキ。「~ですぅ」とやや語尾を伸ばした喋り方が特徴の、ちょっと愉快なお姉さん(31)。
一見、猟師っぽくは無い彼女だが、実は「日本最強生物エゾヒグマ」を単独で狙う、女性ハンター。
「私はヒグマを撃ちたくて撃ちたくて たまらないんです」と、クマ撃ちに対して尋常ではない情熱を周囲に放つ、生粋の「狩りバカ」。
そのチアキを「女性で・単独で・エゾヒグマ猟を行う、ウケそうな題材」と捉え、エゾヒグマ猟も「よくある職業・趣味の一つ」であると見なす、フリーライター・伊藤カズキ。
しかし同行取材で共に大自然を歩くうちに、一歩間違えれば「確実な死」が待つエゾヒグマ猟の危険性と、彼女の「クマ撃ちに対する執着」を理解。
やがて自分の取材が、「現代における数少ない冒険のルポルタージュ」であることに気づいていく…。
そんな二人を通して、大自然を舞台にしたエゾヒグマ猟の様子が、リアルな知識と綿密な取材をベースに描かれていくのが、安島薮太さんの漫画『クマ撃ちの女』。
ド直球でシンプルなタイトルに違わない、緊迫感あふれる狩猟漫画です。
『クマ撃ちの女』の世界観を支えるのが、綿密な取材に基づいた狩猟知識・描写。
- ライフルの取り扱い・調整方法
- 山の歩き方・獲物との距離感
- エゾヒグマほか野生動物の生態
- 獲物の解体・調理方法
など「猟に関する本格的な知識」が随所に織り込まれ、リアリティ・臨場感が半端ない!
例えば、実在の猟銃専門店の監修も入ったライフル情報。
銃の構え方・撃ち方や調整方法など、一般人では触れにくいネタをわかりやすく描写。「リアル過ぎる狩猟知識」が、物語に確かな説得力と面白みを与えています。
そんな狩猟知識を反映したチアキのハンティング風景がまた、興味深くも面白いもの。
- 獲物を目視で撃てる状況以外は弾を装填せず
- 銃を担ぐ時、上り・下りで銃口の向きを変える(マズルコントロール)
といった、銃の取り扱いに関する細かい描写を交えながら、フンや食べ残しなどの痕跡をたどり、山の奥深くに分け入りクマに迫っていく…。
リアルが生み出すバーチャル感に、思わずドキドキ。
ちなみに劇中では、ハンターが遵守すべき「銃や狩猟に関する法律」がつぶさに描かれるのですが、同時に「ハンターが法律を破る様子」も描かれます。
なぜそのような法律があるのか?逆に(一部の)ハンターがそれを破る理由は?などがチアキの行動などに織り込まれ、それもまた物語の面白さの一つとなっています。
しかし!チアキの相手となるのは、鹿や兎などではなく、時に予想を超える行動も取る「野生の肉食動物」エゾヒグマ。
先に発見すれば、ライフルを持っている人間が有利。だがいつも良いポジションを取れるとは限らない。
パワー・スピードとも、人間のそれを圧倒的に上回るそれ。至近距離で不意に出会えば、まず助からない…!
持てる技術と知識を総動員し、何よりメンタルを保って相対しなければならない「最強の肉食獣」。
その相手に一人立ち向かっていくチアキが行うのは、まさに「現代の冒険」。危険と隣り合わせのエゾヒグマ猟から、ひりつくような緊迫感が伝わってきます。
そんな、狩猟漫画としてシンプルに面白い『クマ撃ちの女』。気になるのは「チアキはなぜクマ撃ちにこだわるのか?」。
それを紐解くのが2~3巻で描かれる、雪山でのシカ狩り。若かりし頃のチアキと姉は、そこでヒグマが絡んだ恐怖の体験を…。
これがなかなかガクブルの内容なのですが、それが原因で彼女はエゾヒグマに対し、異様な執着を見せていくように。
が、そこで見せる執着はあくまでも表面的なもの。物語が進むにつれ明らかになる「チアキがヒグマを撃つ真の理由」。
詳しくはネタバレになるので割愛しますが、そこから垣間見える彼女のユニークな人間性が、実に面白い!
さらに7~8巻ではいよいよ、「『熊』というワードからは避けられない恐ろしい展開」も…!
自身の尊厳を賭け大自然に挑んでいく彼女は、過酷なクマ撃ちの向こうに何を見るのか…?
以上、安島薮太さんの漫画『クマ撃ちの女』感想・レビューでした。
リアルなハンティング描写と丁寧な物語運びで、限りなくノンフィクションに近い感覚を味あわせてくれる、迫真の狩猟漫画。
「日本最強生物エゾヒグマとの闘い」、巻を重ね高まっていくその緊張感に震える!
『クマ撃ちの女』は新潮社のWebメディア「くらげバンチ」にて連載中。2025年7月現在、単行本1~15巻が刊行中です。






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