「日本最強生物エゾヒグマ」を狙う女性ハンターを、彼女を取材するライター視点でルポ風に描く漫画。その名も『クマ撃ちの女』。
ド直球でシンプルなタイトルに違わない、リアルな内容がバツグンに面白い!緊迫感あふれる狩猟漫画です。
作者は安島薮太さんで、新潮社のWebメディア「くらげバンチ」にて連載中。2022年5月現在コミックスは8巻まで刊行、以下続巻です。
『クマ撃ちの女』など【無料&110円~】!5/22まで
『クマ撃ちの女』感想・レビュー
『クマ撃ちの女』あらすじ
「単独でエゾヒグマを狙う『若き女性ハンター』」というレアな存在を取材、書籍化することで、実績を作りたいフリーライター・伊藤カズキ。
兼業猟師である女性ハンター・小坂チアキに同行取材を依頼。「山では必ず自分の言うことを聞く」「獲物を運ぶのを手伝う」という条件で、了承を取り付ける。
かくして北海道の大自然へクマ撃ちに乗り出す、カズキとチアキ!
しかし一歩間違えれば「確実な死」が待っているエゾヒグマ猟に、チアキはなぜ挑むのか?自然の中で野生の肉食動物を相手にする過酷さを体験しながら、やがてカズキはその胸の内に迫っていく…。
緊迫感あふれる野生動物との闘い
エゾヒグマを探し、猟銃をかついで北海道の森林を一人探索、発見したフンに興奮するチアキ。
さらにその痕跡を追い、やがて10メートルの至近距離で、念願のエゾヒグマに遭遇。食事に夢中な獲物に、草葉の中から狙いをつける。
「やっと…ヒグマを撃てる!」
こっそり銃に弾を込めようとする彼女。しかし脳裏に浮かぶのは「もし撃ち損じたら?」という恐怖と、その結果起こる確実な「死」。
逡巡するうちに風向きが変わり、クマに気づかれそうに!とっさに石を投げ、音で気をそらし、さらにフンを体に塗りつけて、クマをやり過ごす。
しかし結局クマを撃つことは叶わず、疲労困憊。日々の糧のために、帰途でシカに狙いを定める―。
以上は1巻冒頭で描かれる、ハンター・チアキと野生動物との、緊迫感あふれる「闘い」。ハンティングの醍醐味、そして「人間より大きな野生の肉食動物に相対する恐怖」が、リアルに描かれます。
エゾヒグマ猟という「冒険」
一方のカズキ。チアキを「ウケそうな題材」として捉え、エゾヒグマ猟もよくある職業・趣味の一つであると高をくくっていた彼ですが、
「私はヒグマを撃ちたくて撃ちたくてたまらないんです」
と語るチアキの尋常ではない情熱に、「とんでもない人に出会ってしまったかもしれない」と気づいていくことに。
同行するカズキが危険な目にあって死んだとしても、クマが撃ちたい。その思いを率直に語り、「それでも同行取材続けますか?」と問いかけるチアキ。その「本心」を知り、カズキはようやく気づきます。
「コレは数少ない 現代における冒険のルポルタージュだ」
そしてカズキと同じく、読者がこの物語が「死と隣り合わせの現代の冒険」であると理解した時!
それは漫画『クマ撃ちの女』の真の面白さに気づいた瞬間。リアルな狩猟の世界から抜け出せなくなっているでしょう。
リアルな狩猟知識も魅力
そんな『クマ撃ちの女』の世界観を支えるのが、綿密な取材に基づいた狩猟知識・描写。
- ライフルの取り扱い・調整方法
- 山の歩き方・獲物との距離感
- エゾヒグマの生態
- 獲物の解体・調理方法
などが随所に織り込まれ、物語のリアリティ・臨場感を高めています。
その中でも注目は、やはりライフルに関する描写。銃の構え方・撃ち方や調整方法はもちろん、
- 獲物を目視で撃てる状況以外は弾を装填してはいけない
- 銃を担ぐ時、上り・下りで銃口の向きを変える(マズルコントロール)
のような、普通の漫画では描かれない「法律上の様々な規定」「移動時の取り扱い」など、一般人では触れにくい情報がてんこもりで、「さりげないリアル感」を演出。
実在の猟銃専門店の監修が入り、ストーリーの随所で描かれるそれらが、実に興味深く面白い。読者に「リアルな狩猟知識」を伝えると共に、『クマ撃ちの女』という物語に確かな説得感を与えています。
チアキがクマ撃ちにこだわる理由とは…?
そして『クマ撃ちの女』のストーリーで何より気になるのが、「そもそもチアキはなぜクマ撃ちにこだわるのか?」ということ。
それを紐解くのが2~3巻で描かれる、姉と連れ立って来た雪山でのシカ狩り。そこで姉妹はヒグマが絡んだ恐怖の体験をします。
その時の出来事が原因で、チアキはエゾヒグマ猟に異様な執着を見せるのですが、その理由をさらに掘り下げていくと見えてくる「彼女の人間的な本質」がまた面白い。
普段は「~ですぅ」とやや語尾を伸ばした喋り方が特徴の、ちょっと愉快なお姉さん(31)。しかしひとたび獲物に向き合えば、その眼差しは一気にハンターのそれになるチアキ。
自身の尊厳を賭けて、大自然に挑んでいく彼女が、クマ撃ちの向こうに見るものは果たして…?
まとめ
以上、安島薮太さんの『クマ撃ちの女』の感想・レビューでした。
ビックリする程のリアルさで、限りなくノンフィクションに近い感覚を味あわせてくれる迫真の狩猟漫画。ちょっとクセのある絵柄も、魅力のひとつです。
またチアキ以外の「猟に関わる人間たち」にも大きな見どころが。特に3巻で登場する猟の師匠・光本は、アクが強すぎてインパクト大。彼を通して垣間見える、素人が決して知ることのない「猟の裏側」は、バツグンの面白さ。
さらに5巻以降にも「新展開」があり、ますます盛り上がってきた『クマ撃ちの女』。本作でしか味わえない「日本最強生物エゾヒグマとの闘い」を、ぜひ体験してみてください。
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