「私はヒグマを撃ちたくて撃ちたくて たまらないんです」
「日本最強生物エゾヒグマ」を単独で狙う、北海道の女性ハンター。過酷な「冒険」の果てに彼女が見るものはー?
ド直球でシンプルなタイトルの『クマ撃ちの女』。リアル過ぎる内容がバツグンに面白い!緊迫感あふれる狩猟漫画です。
作者は安島薮太さんで、新潮社のWebメディア「くらげバンチ」にて連載中。2023年2月現在、単行本が10巻まで刊行中。
『クマ撃ちの女』感想・レビュー
『クマ撃ちの女』あらすじ
「単独でエゾヒグマを狙う『若き女性ハンター』」というレアな存在を取材し、実績を作りたいフリーライター・伊藤カズキ。
クマ撃ちの同行取材を兼業猟師・小坂チアキに依頼。交渉の末、猟への同道を許される。
いざ、北海道の大自然へクマ撃ちへ!だがそれは一歩間違えれば「確実な死」が待っている、野生の肉食動物との過酷な戦いだった…!
そんな危険なエゾヒグマ猟に、チアキはなぜ挑むのか?カズキは取材を続けながら、やがて彼女の複雑な胸の内に迫っていく…。
リアル過ぎる!狩猟知識がスゴイ
この『クマ撃ちの女』、まず綿密な取材に基づいた狩猟知識・描写がスゴイ。
単純に猟銃で獲物をバン!ではなく、
- ライフルの取り扱い・調整方法
- 山の歩き方・獲物との距離感
- エゾヒグマほか野生動物の生態
- 獲物の解体・調理方法
など「猟に関する本格的な知識」が随所に織り込まれ、物語のリアリティ・臨場感を高めています。
その中でも注目は、実在の猟銃専門店の監修も入ったライフルに関する情報。
銃の構え方・撃ち方や調整方法はもちろん、
- 獲物を目視で撃てる状況以外は弾を装填してはいけない
- 銃を担ぐ時、上り・下りで銃口の向きを変える(マズルコントロール)
といった一般人では触れにくいネタをわかりやすく描写。
他の漫画とは一線を画す「リアル過ぎる狩猟知識」が、物語に確かな説得感を与えています。
エゾヒグマ猟という「現代の冒険」
そんな狩猟描写を背景に展開される『クマ撃ちの女』。主人公・チアキは、「~ですぅ」とやや語尾を伸ばした喋り方が特徴の、ちょっと愉快なお姉さん(31)。
ですが「女性で」「単独で」「エゾヒグマ猟を行う」という非常に珍しい存在で、ひとたび獲物に向き合えば、一気にハンターの眼差しになる「狩りバカ」。
そのチアキを、ライターのカズキは「ウケそうな題材」として捉え、エゾヒグマ猟もよくある職業・趣味の一つであると見なしていたのですが、しかし
「私はヒグマを撃ちたくて撃ちたくて たまらないんです」
と語る彼女の尋常ではない情熱に、自分の取材が「数少ない 現代における冒険のルポルタージュ」であることに気づいていきます。
そしてカズキと同じ目線でチアキを追っていると、読者もこの物語が「死と隣り合わせの現代の冒険」であると、徐々に理解するように。
エゾヒグマと正面から向き合う、女性ハンターのひりつくような冒険から、目が離せなくなっていきます。
チアキがクマ撃ちにこだわる理由とは…?
しかしそもそも、チアキはなぜクマ撃ちにこだわるのか?
それを紐解くのが2~3巻で描かれる、雪山でのシカ狩り。若かりし頃のチアキと姉は、そこでヒグマが絡んだ恐怖の体験を…。
これがなかなかガクブルの内容なのですが、それが原因で彼女はエゾヒグマに対し、異様な執着を見せていくように。
が、そこで見せる執着はあくまでも表面的なもの。物語が進むにつれ明らかになる「チアキがヒグマを撃つ真の理由」。
詳しくはネタバレになるので割愛しますが、そこから垣間見える彼女のユニークな人間性が、実に面白い!
そして自身の尊厳を賭け大自然に挑んでいく彼女は、過酷なクマ撃ちの向こうに何を見るのか…?巻を重ね高まっていく緊張感に震えます。
まとめ:ノンフィクション感覚が面白いリアルな狩猟漫画
以上、安島薮太さんの『クマ撃ちの女』の感想・レビューでした。
リアルなハンティング描写と丁寧な物語運びで、限りなくノンフィクションに近い感覚を味あわせてくれる迫真の狩猟漫画。ちょっとクセのある絵柄も、魅力のひとつです。
そして7~8巻ではいよいよ、「『熊』というワードからは避けられない恐ろしい展開」が…!
「日本最強生物エゾヒグマとの闘い」、その結末が気になるところです。オススメ。
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