「特蝶 死局特殊蝶犯罪対策室」―「バタフライ・ストレージ」の過去世界描くSFアクション

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「人の死後、その魂が蝶となる世界」という独特な世界観を持つSF漫画「バタフライ・ストレージ」全4巻。その続編かつ前日譚に位置づけられるのが、「特蝶 死局特殊蝶犯罪対策室」。2020年9月刊行の2巻で完結となりました。

作者は安堂維子里さんで、連載は少年画報社YOUNG KING アワーズ。前作「バタフライ・ストレージ」と世界観を共有する、ハードなアクションが魅力のSF漫画です。

「特蝶 死局特殊蝶犯罪対策室」感想

「特蝶」の世界観

前作「バタフライ・ストレージ」は、掲載誌COMICリュウ(徳間書店)のWEB移行などにより、全4巻でひとまず完結。本作「特蝶 死局特殊蝶犯罪対策室」はその設定を受け継ぐ「続編」ですが、時系列的には「バタフライ・ストレージ」の過去(数十年前?)となり、「前日譚」と言える物語です。

「人が死ぬとその肉体は瞬時に朽ち果て、その魂は”蝶”となって残る」世界。一度絶滅しかけた人類は、人々の記憶を宿した蝶たちを「バタフライサーバ」に保存し、ビッグデータとして活用している、というのがシリーズ共通の世界観。

その中で物語のキーとなる「蝶」を管理・保存するのが、国家機関「死局」。「バタフライ・ストレージ」では主人公・百士が所属する死局の一部隊「特殊補蝶班」が主体でしたが、「特蝶」でのそれは特殊補蝶班の前身である「死局特殊蝶犯罪対策室(仮)」、通称「特蝶」。「死ぬな、殺すな」をモットーに、違法所持や密売など蝶にまつわる犯罪に向き合います。

特蝶 死局特殊蝶犯罪対策室(1) (ヤングキングコミックス)安堂維子里:少年画報社

主人公はメガネ美女(※やや変態)

特蝶統括・荒井(※「バタフライ・ストレージ」の特殊補蝶班長・荒井美仁の夫)の下、蝶絡みの事案に対応する特蝶メンバー。その中核となるのは、前作にも登場した田中さん。特殊補蝶班メンバーとして圧倒的な存在感を誇っていた人物です。

そのヤング田中とコンビを組むのが、新主人公・平井蝶羽(あげは)。長身のメガネ美女。黒いスーツに身を包み、刀(電磁警棒)で敵を討つその姿。カッコいい!…のですが、ちょっと変態なのが玉に瑕

しかし蝶羽は、なぜか田中さんに毛嫌いされている。その理由は蝶羽の「顔」にあり。田中さんは元妻と非常に険悪な関係なのですが、実は蝶羽の顔は元妻と瓜二つ。彼女の顔を見るだけでも、精神的に大きな負担が。

蝶羽にとっては理不尽とも言える理由でギクシャクする二人ですが、さて、同じチームの一員として活動できるのか…?ちなみに田中さんとトラブった蝶羽が彼にかけた言葉は、

「私の顔が嫌いでも おっぱいとお尻は嫌いにならないでください!」

特殊部隊の活躍と影

そんな「特蝶」が追うのは、ダークネット上で蝶のオークションを行う謎の組織。「蝶の消滅=人の死」に美を感じ、鑑賞することを目的とするが、その正体は謎。蝶の管理を一元に行うことを目的とする死局としては、決して見過ごせない存在。

さらに死局の大きな敵となるのは、組織の首魁と取引をする「謎の兄弟」。彼らは「バタフライ・ストレージ」で見かけたような気もするのですが、その正体は…?蝶をめぐって展開される、謎の組織 VS 不殺の特殊部隊のアクション。前作以上にハードな戦いに、グッと引き込まれます。

だがしかし!単純に「正義の味方」を描かないのが、安堂維子里作品の奥深いところ。「バタフライ・ストレージ」を既読の方はご存知かと思いますが、田中さんはいろいろとその周辺に「いわくあり」な人物。「特蝶」でもその一端が窺えます。

新主人公・蝶羽もまた、その心に「影」を持つ人物。特蝶に配属され死局の一員となった彼女自身は、その使命に燃える人間。ですが幼き頃に蝶絡みで父親の死を目の当たりにし、その心には傷が。

その他の特蝶メンバーにものっぴきならない事情があり、また死局自身のきな臭い部分も露呈。これら「影」の歪さに影響され、蝶羽や田中たちはどこへ行き着くのか?が大きな見どころとなっています。

濃厚なSF世界

キャラクターと同時に注目なのは、「バタフライ・ストレージ」を引き継ぐ世界観の掘り下げ。前作では「蝶のいる世界」の全貌が徐々に明らかになっていきましたが、「特蝶」ではそれを補完するような描写が随所に。

蝶を保管するバタフライ・サーバの世界における位置づけ、蝶がバタフライ・サーバに格納されるまでの処理、一般人が蝶や死局に対してどのような思いを抱いているか、などの興味深い内容が描かれます。この独特のSF描写が、「バタフライ・ストレージ」から続く世界の魅力。より深みを増して、読者を蝶のいる世界に引き込んでいきます。

そして完結巻となる2巻では、「バタフライ・ストレージ」「特蝶」世界の根幹を為す「真実」が顕に。これがまたスケールの大きい内容で驚きの連続、SF好きにはたまらない内容となっています。「特蝶」を読んでから改めて「バタフライ・ストレージ」に戻ると、また新しい発見・感覚があるのでは。

まとめ

以上、安堂維子里さんの漫画「特蝶 死局特殊蝶犯罪対策室」の感想でした。「バタフライ・ストレージ」の世界観を受け継いだ「特蝶」。オリジナルのSF観、迫力のあるアクションとともに、全体的に影のある雰囲気が魅力のSF作品です。

とは言え、振り返ってみると色々と不運に見舞われた漫画でした。「バタフライ・ストレージ」は掲載誌の休刊でやむなく終了。そして本作「特蝶」では、なんと連載中に安堂維子里さんがくも膜下出血で入院!という事態に。

#闘病記 くも膜下出血で入院した話(84頁) - 鼻チュー(安堂維子里)のマンガ - pixiv
2019年の秋、くも膜下出血で入院しました。この闘病記を描こうと思ったのは、入院中ネットで情報収集していた夫が「あんたのように全く後遺症のない人の話が少ない」と言っていたことからです。自分自身も病気の

物語は完結しましたが、このような展開が無ければ現在も「蝶のいる世界」が続いていたかも?と思わずにはいられません。

なお安堂維子里さんはその後、無事に回復。現在は少年画報社アワーズにて新作「GOATHEAD」を連載されています。

複雑なSF観と派手なアクションが描ける作家さんは、現在の漫画業界では稀有な存在。独特の感性から生み出される漫画にますます期待!です。

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