生命の終焉を迎えた人間。その肉体は瞬時に朽ち果て、魂は「蝶」となる世界。
テロリストに妹の蝶を奪われた青年は、それを取り戻すことができるのか―。
独特のSF設定と迫力のアクションでSFファンを虜にした、安堂維子里さんの漫画「バタフライ・ストレージ」。全4巻でひとまずの完結となりました。
「バタフライ・ストレージ」レビュー
概要
本ブログでも何度か紹介していますが、未見の方のために、バタフライ・ストレージの世界観をざっくりと。
- 人は死ぬとその肉体は瞬時に朽ち果て、魂は「蝶」となる
- 蝶は何もしなければ49日で消滅する
- その蝶を保護・管理するのが、国家機関「死局」(警察組織とは別)
- 帳は「バタフライサーバ」と呼ばれる巨大なストレージに収容され、管理
- 蝶は生前の記憶を有し、遺族との面会も可能(ただし記憶は更新されない)
- 蝶の記憶はビッグデータとして活用され、重大な意思決定「大会議」に用いられる
- そんな蝶を密売したり、また国家の占有に反対する組織が存在
というのが、物語のバックグラウンド。
物語中で主体となるのは、「死局補蝶課特殊補蝶班」に属する部隊員たち。「死ぬな・殺すな」をモットーに、蝶の回収・保護を目的として活動します。
主人公・百士の戦い
特殊補蝶班の隊員である、主人公の百士。彼と妹の千里は、14年前に起こった飛行機事故の生存者。
事故現場で蝶を捕獲する一団の中にいた、ボスらしき人物に蝶を「喰われた」千里。彼女の蝶を取り戻すために死局に入隊、顔のキズと刀を持つ男の行方を追います。
人付き合いが苦手で、仲間たちからもシスコンと勘違いされる百士。涙もろく、コミカルな一面も見せます。
が、肉体から蝶が出ても生き続ける「特殊症例」らしき妹の存在を、死局からも隠すために、孤独な戦いを続けます。
誰が味方で、誰が敵か。油断のできない環境の中で、果たして百士は妹の蝶を取り戻すことができるのか、というのが物語の中心軸。
唯一無二のSF世界観
百士はじめそれぞれ事情を抱えた特殊補蝶班メンバーの活躍など、「バタフライ・ストレージ」の見どころ・魅力は多々あります。
その中で、この漫画が唯一無二の輝きを放つ大きな要素は、その世界観。
「人間が死ぬとその魂は蝶になる」という、読み手の世界とは異なる法則が存在する世界。一見ファンタジー風味ですが、その世界が形成される過程に「人類は150年前に一度滅びかけている」という事実があります。
そこで人類滅亡を防ぐべく確立されたのが、「バタフライ・ストレージ」というシステム。
故人の知識と経験のパッケージである蝶を保管し、その連携による集合知により、新しい世界を築き上げる仕組みです。
人類を救い、より高みへと導く「蝶」。しかし蝶を守る人もいれば、その逆の立場を取る人間もいる。
百士たちの戦いと、人類全体に関わる策謀と争い。ミクロとマクロのおもしろさがあります。
迫力のアクション
その世界にがっしりと根を下ろした、特殊補蝶班の蝶を守る戦い。彼らが繰り広げる迫力のアクション・シーンも、「バタフライ・ストレージ」の大きな魅力。
長身マッチョな女性班長・荒井、格闘のエキスパートにしてドSなメガネ女子・佐川、還暦目前なのに最強に強いオッサン・田中など、ユニークなメンツが揃う特殊補蝶班。
「死ぬな・殺すな」を守り、警察とも軍隊とも異なる存在である彼ら。銃や刀、忍者が使うような装備を駆使し、スピード感あふれる戦いを展開していきます。
そして4巻で、ついに最終決戦を迎える百士と「傷の男」。無数の蝶が飛び交い、人々の思惑が錯綜する中で繰り広げられる、最後の戦い。その結末は―。
第一部・完
と、そんな独特の世界観とアクションを見せてくれる「バタフライ・ストレージ」。4巻の最後では「第一部・完」となっています。
これは決して予定されていたものではなく、掲載誌である「COMICリュウ」のWEB移行など、さまざまな事情が絡んでいるよう。
妹の蝶を取り戻す、という百士の戦いには一応のケリがついていますが、物語全体としては多くの謎や、未回収の伏線を残しています。
全4巻を通して読んだ感想としては、終盤の怒濤の展開もあり、一つの物語を読み終えたという満足感があります。
ですが、まだまだ「バタフライ・ストレージ」の深淵を覗いてみたい…!というのも正直な気持ち。
そして4巻巻末では「PART Ⅰ the END.」の文字と、見慣れない人物の背中。さらに「TO BE CONTINUED」が。
私自身は現在このバタフライの世界を拡げられる方法を模索中です。
バタフライ・ストレージ3、4巻は8月9日発売になります。
まとめて読むと結構面白いと思いますよ。— バタフライ・ストレージ(1)~(4)発売中 (@icori_a) 2018年5月18日
作者の安堂維子里さんは、「バタフライ・ストレージ」の世界を拡げる方法を模索中とのこと。それがどのような形になるかはまだわかりませんが、いちファンとして期待して待ちたいと思います。
まとめ
以上、暫定的ですが完結となったSF漫画「バタフライ・ストレージ」全4巻のレビューでした。
個人的にはアクションはもちろん、「生命が終わると肉体は朽ち、その魂は蝶となる」という独特のSF世界観を構築していることに、大きな魅力を感じています。
また新たな、「蝶のいる世界の物語」を読めることを期待して。
続編「特蝶 死局特殊蝶犯罪対策室」
2019年5月に1巻が刊行された続編「特蝶 死局特殊蝶犯罪対策室」。2020年9月刊行の2巻で完結となりました。
「バタフライ・ストレージ」でも活躍した田中さん。その過去を大きくフィーチャーした前日譚。ハードさを増したアクションと、より深く掘り下げられた「蝶のいる世界」を堪能できる全2巻です。
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