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漫画『かの人や月』感想―7人と2匹の織りなすほっこりホームドラマ

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テレビドラマ「あなたのことはそれほど」で、漫画を読まない層にも飛躍的に知名度の上がったいくえみ綾さん。

ドラマがきっかけで「あなた~」を手に取られた方も多いと思いますが、そうなると他のいくえみ作品も読みたくなってくるのでは。

それでは次の一作として「かの人や月」などはいかがでしょうか。

写真は集英社文庫版、全2巻です。

概要

漫画「かの人や月」は、7人と犬猫が属する「羽上家」とそこに関わる人々を各話の主人公に据えた、連作短編集。

長男・顕(あき・22歳会社員)、長女・ひろの(18歳大学生)、次女・ほのか(16歳高校生)の三人と、彼らの周囲の人々を中心に、ユーモラスで心温まる話が展開されます。

電子書籍で読めるマーガレットコミックス版は全3巻、紙書籍で読める集英社文庫版は全2巻が刊行中。

「かの人や月」感想・レビュー

大家族メインの連作ホームドラマ

羽上家は祖父母と両親、そして顕・ひろの・ほのかの三兄妹、プラス犬のコマルと猫のポセイドンという大家族。

各話の主な主人公は顕たちなのですが、時にひろのやほのかの交際相手だったり、顕の同僚女性だったり。

ある話の脇役が、次の話で主役になったりする連作短編。

読めば読むほど、「かの人や月」の世界に奥行きが生まれていく構成です。

物語のトップバッターは長女・ひろのと、彼女に気のある同級生・深町くんのお話。

ひとづきあいの苦手なひろのに惹かれた深町くん(いいやつ)。

一人暮らしをする長男・顕の部屋に出る幽霊を見に行こう、というところから、二人の距離がちょっとずつ縮まっていく。

しかしその「幽霊」は、実は顕の会社の同僚にも関係があって…という感じで主体が変わり、羽上家の面々の人となりが丁寧に描かれていきます。

決して物語の展開を急がない「ゆったり感」がいいですね。

一通り読み終わったあとも、各話の主役がその時どんな気持ちをしていたか、を類推したくなる余韻があります。

丁寧に描かれる人間模様

本作で好きなシーンはいくつもあるのですが、その一つはひろのが深町くんを初めて男性として意識する描写。

その理由が「彼のことを好きな女の子がいたから」。

それまで人との接触を避けがちだった彼女。

それはある意味、自分を中心としてしか世界を見れていないとも言えます。

そんな彼女が他人との関係性を意識した瞬間。読んでいて「ハッ」とします。

そして終盤で描かれる長男・顕の恋模様。

仕事もそれ以外もそつなくこなす彼に、思いがけない出会いがあって…?

愛猫・ポセイドンも絡んだやり取りが微笑ましく、見ているこちらも頬が緩みます。

ラスト近辺、いくえみ綾さんの人物描写の妙がこれでもか!と滲み出ている感じ。

描かれる表情の豊かさ、何度見ても飽きない魅力があります。

まとめ

というわけで漫画「かの人や月」。羽上ファミリーを中心としたほのぼの心温まる面白い作品です。ちなみに文庫版のカバー。

写真ではちょっとわかりにくいのですが、家の枠の部分(クレヨン調の黒い部分)、少し盛り上がった加工がされています。

読んでいる時にこの部分が指に当たるのですが、読みながら自然と「家」が意識されます。

装幀の巧みさを感じる素晴らしい仕上がり。電子書籍もいいですが、紙の本ならではの楽しみがありますね。

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