短い巻数ながら、壮大なスケールを味あわせてくれる良作SF漫画。島田虎之介さんの『ロボ・サピエンス前史』上下巻。
『このマンガがすごい!2020』第二位、フリースタイル誌『THE BEST MANGA 2020 このマンガを読め!』上位ランクインなど、2019年に多くの漫画ファンに支持された作品です。
以下、『ロボ・サピエンス前史』の主なあらすじや見どころなどをご紹介します。
『ロボ・サピエンス前史』レビュー
富豪に依頼され、行方不明のロボットを捜索するサルベージ屋。
状況に応じてダウンロードした職能で、人間の役に立つフリードロイド。
ある目的を持って、人間にはこなせない長期任務につく3人のロボット「時間航行士(タイムノート)」…。
『ロボ・サピエンス前史』では、時に人間とロボットの、時にロボットが主体となる、1話完結の独立した物語が展開。
それらが徐々に繋がりを持ち、そしてやがて来るかもしれない「ロボットの未来」が見えてくる、というSFオムニバス・ストーリーです。
こういう商売をしていると ときには奇妙な出来事にでくわす時もある
サイモン・チャンの件もそういったことだ
とは、第一話のモノローグ。
大富豪にしてアジア有数のロボット収集家であるサイモン・チャンから、「50年前に手放したロボットを捜してくれ」と依頼されたロボット・サルベージ屋が主人公。
そのロボットとは、妻・レティシアを亡くしたサイモンが、妻そっくりに作ったロボット「レティシア」。
依頼の達成は容易かと思われたが…と、ハードボイルド調に展開されるストーリーにのせて、少し「鉄腕アトム」を想起させる世界観での、人間とロボットの関係性が綴られます。
第2話では、現実の出来事を想起させる21世紀の原発爆発が発生、核燃料の回収で倒れていくロボットたちの悲愴な姿が描かれます。
そして第3話にて、物語の核となる三体のロボット「時間航行士」が登場。
その一人である女性型ロボット・マリアは、やがて核廃棄物の貯蔵施設にて、放射能が無害化する25万年後まで施設を管理する、という人間には不可能な任務に就くことに。
しかし彼女を定期的にメンテするはずの人間は、時が経つにつれ姿を見せなくなり、やがて姿をあらわしたのは…?
そんな流れで物語が展開されていく『ロボ・サピエンス前史』。
人とロボットの関係性に始まり、長い年月を経て世界の主体となっていくロボットの姿が描かれていきます。
そこにいるロボットたちは、ホモ・サピエンスならぬ「ロボ・サピエンス」。次代を担う新しい生命体として、人間のパートナーからその立ち位置を変化させていく。
そして新たな歴史を作っていくであろうそんなロボ・サピエンスの、つまりこれは「前史」である、ということが、読みながら腑に落ちていきます。
本書を読み始める前は「『ロボ・サピエンス前史』って何だろう?」という印象だったのですが、物語が進むにつれナルホド!と思うことしきり。
全2巻というコンパクトさに反比例するかのようなスケールの大きさは、かつて手塚治虫が『火の鳥』で描いた壮大なイメージを想起させます。
しかもこれは「前史」。物語が完結したあとも、きっとロボ・サピエンスたちの新世界が拡がっていくのだろうな、と考えると、思わずワクワクするような。
そして読む者の心をはるか遠い未来に連れていってくれる、そんなSF感の詰まった漫画です。
レビューまとめ
以上、島田虎之介さんの『ロボ・サピエンス』上下巻のレビューでした。
上記で紹介したストーリーだけでなく、シンプルでクッキリした線と、スクリーントーンを使わずに白黒の陰影だけで表現されるビジュアルも、とても印象的。
ライトなんだけど深みのある、不思議なタッチです。
そんなイラストタッチな作画にのせられて読み終わったあと、思わずフーッと深い息を吐いてしまうSF。
その中でも記憶に残るのは、25万年の時を施設で過ごすマリア。果たして彼女はどのような運命をたどったのか?ワクワクしながらページをめくってみてください。
コメント