ドラマ・恋愛ミステリー・サスペンス漫画漫画感想・レビュー

漫画『国境のエミーリャ』感想―脱出請負人「笑わない女」描く仮想戦後活劇

[ページ内に広告が表示されます]

大戦後、東西に分割占領された日本。自由を求める人々を東から西へ脱出させるのは、「絶対に笑わない女」。

池田邦彦さんの漫画『国境のエミーリャ』(監修協力・津久田重吾さん)。大戦後に分割統治された日本を舞台に、「脱出請負人」として生きる少女を描く「仮想戦後活劇」です。

国境のエミーリャ(1) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

連載は小学館の漫画雑誌「ゲッサン」で、2023年12月現在、コミックス1~10巻が刊行中。

『国境のエミーリャ』感想・レビュー

あらすじ

日本のポツダム宣言拒絶後、日ソ不可侵条約を破棄したソ連が東日本へ侵攻。それに呼応し英米豪各軍も西日本に上陸、壮絶な地上戦が展開される。

そして1946年1月の本土決戦後、降伏した日本はソ連と米英により分割統治されることに。

国境のエミーリャ(2) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

やがて日本の東部と西部それぞれが、「日本人民共和国(東日本国)」「日本国」として独立。ソ連の実効支配下にある東日本は国境を封鎖し、境界に高い壁と厳重な監視体制を敷く。

時は経ち1962年。厳しい社会主義体制下で、西側への脱出者が後を絶たない東側の東京。その手助けをするのは、人民食堂の従業員・エミーリャ

「絶対に笑わない女」と評される彼女は、厳しい人民警察の目をかいくぐりながら、今日も逃亡請負人として危険な任務に就く―。

70%OFF+おまけ(50%・20%OFF)
クーポン
』で漫画がお得!
ブックライブ新規限定クーポン

東西に分断された「仮想日本」

東西ドイツや朝鮮半島など、歴史的な経緯から分断され、東西に分割統治された国家が存在します。

(※ここでの「東西」は旧ソ連を中心とした共産主義陣営と、アメリカ・西ヨーロッパを中心とした自由主義陣営を指します。)

日本は第二次世界大戦敗戦後、分割統治されることはありませんでした。が、もし東側陣営と西側陣営によって分断されていたら、こんな世界になっていたかもしれない。そんな雰囲気を持つのが、『国境のエミーリャ』。

国境のエミーリャ(3) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

自由な西側に較べ、社会主義・共産主義のもと平等(形ばかりでも)である反面、人民への締め付けが厳しい東側。そこでは食料や物資も満足に手に入らない、しかし不満の声をあげることもできない、苦しい生活が…。

ミステリアスな脱出請負人

そんな東側で当然起こるのは、西側への逃亡。しかしそれを東と西をくっきりと分ける高い壁が阻み、越えようとする者には「死」が待ち受けます。

そこで秘密裏に西側への逃亡を手助けするのが、主人公・杉浦エミーリャ

国境のエミーリャ(4) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

十月革命駅(旧上野駅)の人民食堂で、「アビェト(昼食)は売り切れよ!」と声を上げる姿がコミカルな彼女。

しかしその裏の姿は、西側の情報機関とパイプを持ち、秘密のルートを用いて西への逃亡を幇助する「脱出請負人」。頑なに表情を崩さないその姿勢から、ついたあだ名は「笑わない女」

普段は母親と二人で質素に暮らす19歳ですが、家庭環境はやや複雑。物語の進行とともに、そのミステリアスな背景も徐々に明らかに…?

自由な世界への脱出ドラマが面白い!

そんなエミーリャのもとに集う人々と、脱出劇に絡んで繰り広げられるドラマの数々が、『国境のエミーリャ』の大きな見どころ。

国境のエミーリャ(5) (ゲッサン少年サンデーコミックス)
  • 西側での自由な研究を希望する数学者。その脱出のタイミングを測る重要なキーワードは、「素数」。…『執念深い敵』(1巻収録)
  • 芸術を愛する人民警察の警部。「君の正体を知っている」とエミーリャを脅迫する彼の目的は?…『地下水道の花』(2巻収録)
  • 新たな亡命希望者は、かつて「スターリンの影武者」を務めていた男。しかし彼をスターリン体制の復活を目論む組織が狙い…『スターリンの亡霊』(5巻収録)

…といった、脱出希望者の抱えるバックグラウンドと絡んだヒューマン・ドラマや、「東側」独特の要素を取り入れたストーリーが展開。

時に温かく、時に物悲しさをおぼえるバラエティ豊かな物語が、心に残ります。

「仮想日本」の世界観が印象的

そしてその脱出劇の数々を陰ながら演出するのが、劇中に漂う「1960年代の日本人民共和国」の空気感

国境のエミーリャ(6) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

「十月革命駅」と呼称される上野駅、ボルシチなどロシア料理中心の人民食堂、エミーリャと敵対する高圧的な民警(ミリツィヤ)、全体的に地味でレトロな風景など。

現実の日本とは異なり、ソ連の影響を色濃く受ける「仮想の戦後」の世界観が、作者・池田邦彦さんの朴訥な絵柄と相まって非常に印象的。

ひょっとすると自分もこの世界線に生きていたかも?と読者に思わせるリアリティは、まるでエミーリャと同じ世界線で自分も冒険しているような、そんな没入感を感じさせてくれます。

『国境のエミーリャ』まとめ

以上、池田邦彦さんの『国境のエミーリャ』の感想・レビューでした。

基本的には暗めの雰囲気ながらも、多彩なアクション・表情を見せるエミーリャの「活劇感」が魅力の漫画。時折挟まれるユーモラスな表現にも面白みがあります。

そして巻を重ね、東西陣営それぞれの思惑が絡まり、深みを見せていく物語。果たして東京の高い壁が崩れ、エミーリャが笑顔になる日は訪れるのか?

ラストで彼女がどんな表情を見せるのか、楽しみです。

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。