「国境のエミーリャ」―東西に分断された仮想日本を生きる『笑わない女』

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大戦後、東西に分割占領された日本。東から西への逃亡を手助けするのは、「絶対に笑わない女」。

池田邦彦さんの「国境のエミーリャ」1巻。大戦後に分割統治された日本を舞台に、「脱出請負人」として生きる少女を描く「仮想戦後活劇」です。

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「国境のエミーリャ」レビュー

あらすじ

日本のポツダム宣言拒絶後、日ソ不可侵条約を破棄したソ連が東日本へ侵攻。それに呼応し英米豪各軍も西日本に上陸、壮絶な地上戦を展開。1946年1月の本土決戦後に降伏した日本は、ソ連と米英により分割統治されることになる。

やがて東と西それぞれが「日本人民共和国(東日本国)」「日本国」として独立。ソ連の実効支配下にある東日本は国境を封鎖し、境界に高い壁と厳重な監視体制を敷く。

そして1962年、西側への脱出者が絶たない東側の東京。人々を統治する人民警察は逃亡請負人と目される少女・エミーリャに接触する―。

国境のエミーリャ(1) (ゲッサン少年サンデーコミックス)池田邦彦,津久田重吾:小学館

東西に分断された「仮想日本」

東西ドイツや朝鮮半島など歴史的な経緯から分断され、東西に分割統治された国家が存在します(※ここでの「東西」は、ソ連を中心とした共産主義陣営と、アメリカ・西ヨーロッパを中心とした自由主義陣営を指します)。

日本は第二次世界大戦の敗戦後、分割統治されることはありませんでしたが、もし東側陣営と西側陣営によって分断されていたら、こんな世界になっていたかもしれない。そんな雰囲気を「国境のエミーリャ」は味あわせてくれます。

自由な西側に較べ、社会主義・共産主義のもと平等(形ばかりでも)である反面、人民への締め付けが厳しい東側。食料や物資も満足に手に入らない、しかし不満の声をあげることもできない、苦しい生活が描かれます。

自由な世界への脱出ドラマ

そんな東側で当然起こるのは、自由(と思われる)西側への逃亡。しかしそれを阻むのは、東と西をくっきりと分ける高い壁。それを越えようとする者に待ち受けるのは、死。

そこで秘密裏に西側への逃亡を手助けするのが、主人公・エミーリャ。人民食堂で働き、母親と二人で質素に暮らす19歳。西側の情報機関とパイプを持ち、秘密のルートを用いて脱出を請け負う彼女は、頑なに表情を崩さない通称「笑わない女」。

そのエミーリャのもとで繰り広げられるドラマの数々が、「国境のエミーリャ」の見どころ。脱出希望者の抱える事情、そしてエミーリャの正体を突き止めたい人民警察との駆け引きなどが、「東側」の独特な空気の中で展開されていきます。

特におもしろかったのは、第二話「執念深い敵」。西側での自由な研究を希望する数学者のために、「素数」をキーワードにして展開される脱出劇。練り込まれたストーリーと、「活劇」らしいドキドキに惹きつけられます。

東側の空気感

そんな脱出劇を形作るのは、「国境のエミーリャ」全体に漂う、東側の空気感。

ソ連の影響を色濃く受ける1960年代の日本人民共和国。「十月革命駅」と呼称される上野駅、ボルシチなどロシア料理中心の人民食堂、エミーリャと敵対する高圧的な民警(ミリツィヤ)、全体的に地味でレトロな風景など…。

現実の日本が通ってきた昭和とは異なる仮想の戦後と、そこで生きる人々の生活感。これが作者である池田邦彦さんの朴訥な絵柄と相まって、ものすごく良い雰囲気。この世界観をバックに、果たしてエミーリャが笑顔になる日は訪れるのか?気になるところです。

まとめ

以上、池田邦彦さんの「国境のエミーリャ」1巻のレビューでした。全体から感じる不思議なリアルが素晴らしい作品。また終始暗めの雰囲気ながらも、エミーリャの活動的な様子から受ける活劇感も、漫画として読み応えがあります。

巻末の予告ではさらなる脱出ドラマが展開されるようで、楽しみ。そしていずれはエミーリャの生きる東京で、高い壁が崩れる日の様子を見てみたいものです。

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