今も根強い人気を持つ映画『機動戦士ガンダムF91』。
クロスボーン・バンガードと地球連邦軍間における「コスモ・バビロニア建国戦争」と、その闘いに巻き込まれていく少年少女たちが描かれました。
その「コスモ・バビロニア建国戦争」の開戦前、F91世界の各所で起こった出来事を綴っていくのが、おおのじゅんじさんの『機動戦士ガンダムF91プリクエル』。
これが非常にクオリティの高いガンダム漫画。いや、ガンダム漫画の枠に留まらない魅力的なSF作品となっています。2022年3月現在、単行本が3巻まで刊行中。
『機動戦士ガンダムF91プリクエル』感想・レビュー
あらすじ・概要
『機動戦士ガンダムF91プリクエル』は、映画『機動戦士ガンダムF91』の前日譚を描くガンダム漫画。
監督・富野由悠季さんの小説『機動戦士ガンダムF91 クロスボーン・バンガード』をベースに、
- F91の開発風景
- クロスボーン・バンガードの成り立ち
- 舞台となるフロンティアⅣの様子
など『F91』の世界が、独自解釈・再構成を加えて展開されていきます。もちろん主人公である、シーブック・アノーやセシリー・フェアチャイルドたちも登場。
なおタイトルにある「プリクエル(PREQUEL)」は、「前日譚」の意です。
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ガンダムF91開発秘話
宇宙世紀0123年が舞台の映画『機動戦士ガンダムF91』では、
- アムロとシャア以後のガンダム世界
- アナハイム・エレクトロニクスからサナリィへ
- MSの小型化
- ジオンでは無い新勢力「クロスボーン・バンガード」の登場
など、世界観をアップデート。新たなガンダム世界の転換点となりました。
本作『機動戦士ガンダムF91プリクエル』では映画『F91』に関連し、のちに「コスモ・バビロニア建国戦争」と称される戦いに至るまでの周辺を掘り下げる、様々なエピソードが展開されます。
その1巻冒頭で描かれるのは、シーブックの母・モニカを中心とした、F91開発現場の様子。
改造されたザクを追いかける、「SA-01」「SA-02」とナンバリングされた2機の真っ白なF91(F91ヴァイタル)。しかしどうにも出力が安定しない。
さらに軍上層部の意向もあり、開発中止の危機に…?
もちろんその後、F91が連邦軍に正式採用されるのは周知の事実ですが、さて、そこに至るまでにはどのような変遷があったのか?
そんな映画『F91』につながる興味深いパーツが、じっくりと描かれていきます。
ちなみに劇中で動き回るF91、えげつないぐらいカッコいい!
F91の世界観を広げるエピソード群
一方、連邦と対になるように描かれるのが、クロスボーン・バンガード(CV)。
「コスモ貴族主義」を掲げるその思想の根源とは?如何にして連邦に宣戦布告できるまでの力を付けていったのか?といった組織の成り立ち・変遷が綴られていきます。
- 小説版F91を元にした鉄仮面の迫力ある演説
- ザビーネ・シャルやドレル・ロナによるMSの訓練風景
- ザムス・ガルを始めとした巨大戦艦の建造~航行テスト
など、『THE ORIGIN』に見られた「一年戦争開戦以前のジオン」を彷彿させる描写の数々が、映画で語られなかったクロスボーン・バンガードという組織の根幹を、より深く補完していきます。
なお劇中の随所で黒の部隊仕様のベルガ・ギロスが登場するのですが、これが渋すぎて震える…!
フィン・ノズルではなくベルガ系のシェルフ・ノズルを搭載した、プロトタイプ?のビギナ・ギナも登場。CV系のMSが好きな人は必見です。
圧倒的にクオリティが高い!安彦良和タッチ
そんな『機動戦士ガンダムF91プリクエル』の作者・おおのじゅんじさんは、「徹底された安彦良和タッチ」がその作風の特徴。
安彦タッチを駆使するイタコ漫画家さん(笑)は他にも居ますが、その中でもトップクラスの実力。
過去にも『機動戦士ガンダム外伝 ミッシングリンク』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島』といったガンダム漫画を全編、安彦良和テイストで描ききっています。
このタッチが『機動戦士ガンダムF91』の世界観と相性が良すぎてビックリ!
映画F91のキャラクターデザインは安彦御大によるもので当然と言えば当然なのですが、コミカライズによる違和感をまったく感じさせないのは流石。
もちろん単純に似ているというだけでなく、漫画としてクオリティが高いのは、言わずもがな。
SFとしての大きな魅力を持つ漫画
ガンダム漫画として高いレベルにある『機動戦士ガンダムF91プリクエル』。
読んでいて感じるのは「ガンダム漫画」という括りに留まらない、宇宙が舞台のフィクション「SF漫画」としての魅力。
ガンダム世界では宇宙に暮らす人々の多くは、巨大人工建築物「スペースコロニー」の中で生活しています。
シーブックやセシリーの住むフロンティアⅣもその一つであるのですが、劇中の随所で見られる「円筒形の外観」、そしてその「中」の様子が、非常にリアルで興味深いもの。
コロニー内部のふとした風景にさりげなく描かれる「天井」、すなわち別の「大地」や、ところどころで描かれる街の中のアール・曲線。
それがそこに暮らす人々がコロニーで生まれ、成長し、そして死んでいくという、機動戦士ガンダムの根底にあるSF世界観を、否が応でも想起させます。
またMSや戦艦の描写に見られる「巨大感」にも、強いインパクトあり。
静寂・漆黒の宇宙空間に浮かぶ、全長15m程度のクロスボーン・バンガードMS。
微妙にアオリを加えて巨大さを演出されるそれらが、しかしさらに破格の大きさを持つ宇宙戦艦と並び、対比されることで、SF作品ならではの巨大なスケールを演出。この表現力は感動モノ。
『機動戦士ガンダム』は「SFもの」としてよりは、「巨大ロボットもの」として認識している人が多いのではないでしょうか。
しかし『機動戦士ガンダムF91プリクエル』は、やはりガンダムも原点は「本格SF」である、ということを再認識させてくれます。
まあこの辺は文章で説明するのは限界があるので(笑)、ぜひ本編で本作ならではのSFテイストを感じてみてください。
『機動戦士ガンダムF91プリクエル』まとめ
以上、おおのじゅんじさんの漫画『機動戦士ガンダムF91プリクエル』の感想・レビューでした。
ガンダム漫画を多数手がけている作者ならではの巧みな表現と、ガンダム漫画の枠を超えたSF感が魅力の作品です。
また安彦良和タッチとF91世界の再現力から、このままF91本編に突入しても違和感の無い内容。
前日譚と言わずに、本編もコミカライズしてくれないかな…?と期待。
おおのじゅんじさんの既刊はこちら
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なお本作はあくまでも「前日譚」なので、読むにあたってはやはり、映画『機動戦士ガンダムF91』を先に見ておいた方が良いでしょう。
未見の方は映画からご覧になることをオススメします。
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