劇場版アニメ『機動戦士ガンダムF91』の世界観を受け次ぐ、正統な宇宙世紀ガンダム・ストーリー『機動戦士クロスボーン・ガンダム』。
『F91』と『機動戦士Vガンダム』(UC0153)の狭間、宇宙海賊と木星帝国の戦いで、アムロとシャアのいないガンダム世界『クロスボーン・サーガ』が描かれていきます。
作者は代表作にSF漫画『マップス』を持つ長谷川裕一さん。
アニメ版ガンダム・シリーズおよび『F91』の監督である富野由悠季さんも、本作の制作に深く関わっています。もちろんサンライズ公認。
『機動戦士クロスボーン・ガンダム』感想・レビュー
あらすじ
宇宙世紀0123年。コスモ貴族主義を掲げる「クロスボーン・バンガード」が地球連邦軍に仕掛けた、「コスモ・バビロニア建国戦争」が勃発。
スペース・コロニー「フロンティアⅣ」に住むシーブック・アノーとセシリー・フェアチャイルド(ベラ・ロナ)は、その戦いに否応なく巻き込まれていく。
時は流れてUC0133年。人類が木星にも居住空間を広げる時代。
地球からの交換留学生トビア・アロナクスの乗る船は、木星圏でドクロのマークを額と胸に抱く、ガンダム・タイプのMSに襲われる。
襲撃の最中、船に積まれた「木星帝国(ジュピター・エンパイア)」の兵器を見つけ、その目的が地球侵攻であることを知ったトビア。
「宇宙海賊クロスボーン・バンガード」と名乗り、ドクロのガンダム「クロスボーン・ガンダム」を駆る青年、キンケドゥ・ナウに問いかけられる。
「全てを忘れるか、または我らと共に真実に立ち向かうか」
そしてクロスボーン・バンガードと行動を共にすることを選んだトビアは、船内にいた謎の少女・ベルナデットと共に、木星帝国との戦いに身を投じていく…。
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宇宙海賊VS木星帝国!
アニメのガンダムは『F91』の後、時代が一気に飛んで『Vガンダム』へ。『F91』で主役だったシーブックとセシリーは以後、表舞台には登場しません。
ですが、この『クロスボーン・ガンダム』でそれぞれ「キンケドゥ・ナウ」「ベラ・ロナ」と名乗り、宇宙海賊「クロスボーン・バンガード」としての新たな姿を披露。
かつて敵だったザビーネ・シャルも加え、地球侵攻をもくろむ「木星帝国=ジュピター・エンパイア」に立ち向かっていきます。
その「木星帝国」は、総統クラックス・ドゥガチの異様な風貌や、彼を狂信する兵たち、木星圏の奇抜なデザインのMS・MAと相まり、どことなく「悪の軍団」を想起させる敵。
戦争がメインの宇宙世紀ガンダム・シリーズと較べて、「ヒーローVS悪の軍団」的な構図(※)にも見える、異質にして独特な図式が展開されていきます。
※補足:厳密に言えば木星人には木星人なりの「戦う理由」があるのですが、敵の行動・見た目から、単純化するとそう見えるという話です。
「熱さ」あふれる新世代のガンダム
その物語の中核となるのは、偶然から「宇宙海賊クロスボーン・バンガード」の見習い船員となり、のちにクロスボーン・ガンダムX3に搭乗する少年、トビア・アロナクス。
木星帝国との因果を背負ったヒロイン・ベルナデットの苦しみを、持ち前の真っ直ぐさで救っていき、やがて「真の主人公」となっていきます。
未来を見据える彼らの真っ直ぐな瞳に、「まぶしさ」を感じる『機動戦士クロスボーン・ガンダム』。
この「ガンダムっぽくない少年と少女の物語」が実に新鮮!
長谷川裕一さんの熱血漢あふれる作風、そして「悪VS正義」的な構図を見せる戦いと相まって、既存のガンダムには無い独特の魅力・爽快感があります。
映画『機動戦士ガンダムF91』の決着
一方、映画『機動戦士ガンダムF91』の主役であったシーブックとセシリー。「コスモ・バビロニア建国戦争」後の彼らについては、ややあいまいになった印象が。
ですが本作『機動戦士クロスボーン・ガンダム』は、その欲求不満を存分に解消するつくり。
木星帝国の地球侵攻を知り、出身母体からの支援を受けるため、あえて「ベラ・ロナ」を名乗るセシリー。
彼女を守るために、自身も「キンケドゥ・ナウ」と名を変え寄り添うシーブック。
それぞれ「仮の名」を名乗る二人は、戦いの果てに元の名を取り戻す=F91時代のセシリーとシーブックに戻ることができるのか?が、本作の見どころのひとつ。『F91』の決着編とも言えるラストが待っています。
ドラマティックなストーリーが面白い!
そんな『機動戦士クロスボーン・ガンダム』の根底にあるのは、トビアやシーブックら人間味あふれるキャラクターの生き様と、そこから生まれるドラマティックなストーリー。
独特の雰囲気に最初は戸惑うかもしれませんが、読むうちに熱い気持ちが胸の内に湧き上がってくるから不思議。
地球へ強力な敵意と圧倒的な力を向ける、木星帝国のドゥガチ。それに対抗する、ガンダムの主人公らしからぬ熱血さを見せるトビア+キンケドゥと、ヒーロー・メカ的な輝きを見せるクロスボーン・ガンダム。
この「ヒーローもの」的な雰囲気が、他のガンダム作品にはない「熱」を生み出し、そこに引き込まれていきます。
「ガンダム」でありながら、それ以前のどのガンダムとも似ていない、独特の世界観を築き上げた、長谷川裕一さんでなければ描けない「ガンダム」。
アムロとシャア以後のガンダム世界を見事に作り上げた、新世代のガンダム漫画と言えるでしょう。
『機動戦士クロスボーン・ガンダム』まとめ
以上、長谷川裕一さんの『機動戦士クロスボーン・ガンダム』感想・レビューでした。
ちょっとクセはあるけれど、読み始めると止まらない!そんなクロスボーン・サーガの世界へぜひ、飛び込んでみてください。
なおトビアたちとクラックス・ドゥガチの戦いは、『機動戦士クロスボーン・ガンダム』全6巻でひとまず完結しますが、クロボンの世界は以後も新たな展開を見せていきます。
- 機動戦士クロスボーン・ガンダム(全6巻)
- 機動戦士クロスボーン・ガンダム -スカルハート-(全1巻・短編集)
- 機動戦士クロスボーン・ガンダム 鋼鉄の7人(全3巻)
- 機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト(全12巻)
- 機動戦士クロスボーン・ガンダム DUST(全13巻)
以上がクロスボーン・シリーズの流れ。この中でトビアが主役を務めるのは『鋼鉄の7人』まで。以降の『ゴースト』『DUST』では主人公が代替わり、新たな物語が紡がれていきます。
そこにはファーストガンダム~Z・ZZ・逆シャアのような、初代クロスボーン・ガンダムからの歴史の積み上げから生まれる面白さが見られます。
ぜひ本作『機動戦士クロスボーン・ガンダム』から、その面白さを味わってみてください。読んだものだけが感動を味わえる!
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