アニメ『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザインほか、制作にも大きく関わった安彦良和さん。その安彦良和氏自身によるファーストガンダムのコミカライズが、漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN(ジ・オリジン)』です。
単なるアニメのコミカライズではなく、オリジナルの構成を大きく変更した本作。ドラマ性の高いガンダム漫画となっています。全24巻完結済み。
「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」感想・レビュー
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』概要
漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は、KADOKAWAのガンダム専門誌「ガンダムエース」に2001年より10年に渡り連載された作品(※ガンダムエースはそもそも『THE ORIGIN』連載のために創刊された雑誌)。
テレビアニメ『機動戦士ガンダム』終了から20年後のコミカライズということで、アニメ版の制作にも関与した安彦良和氏が、設定やストーリー展開を再検証。基本的な物語はアニメに準拠しながらも、SF的表現や解釈・ミリタリー設定を変更し、それに伴って構成が大きくアップデートされているのが特徴です。
またオリジナルと特に異なるのが、『シャア・セイラ編』など一年戦争以前のエピソードの追加。それにより深みが増した物語、『THE ORIGIN』でありながら「21世紀版のファーストガンダム」と言える内容となっています。
なお安彦良和さんの『機動戦士ガンダム』との関わりや、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』執筆の裏話については、安彦良和さんの全仕事ロングインタビューをまとめた『安彦良和 マイ・バック・ページズ』に詳しく記載されています。
ガンダム初心者にオススメ
新旧問わずに『ガンダム』という作品に興味を持った方の中には、「一番最初のガンダムを見たい」と思われる方も多いでしょう。
厳密な「初めのガンダム」はTVアニメ版『機動戦士ガンダム』ですが、全43話を見るのはややハードルが高いかもしれません。そんなガンダム初心者の方にオススメなのは、劇場版三部作またはこの漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』。
特に漫画『THE ORIGIN』は、作者・安彦良和氏が連載にあたり物語を再構築したというだけあって、非常にわかりやすい作り。本作を読み終える頃には、「ガンダムの世界」への理解が充分に完了しているはず。
もちろんガンダム玄人が読んでも面白い
じゃあ『機動戦士ガンダム』に詳しい人は読まなくてもいいの?というと、そんなことは無い!(断言)むしろガンダム玄人が読んでも面白いのが『THE ORIGIN』。
先述の通り、コミカライズにあたり設定や構成を大きく見直した本作。一例ですが、オリジナルとは
- 冒頭、デザインの異なるガンダム1号機が登場
- シャアとセイラが再会するのはサイド7では無くルナツー
- スレッガーやセイラがGMにも搭乗する
- ギャンとガンダムは戦わない
- ブラウ・ブロとの戦闘シチュエーションが変更
などの違いが。他にもオデッサ作戦・ベルファスト・ジャブローの物語進行が前後したり、それらをつなぐエピソードが追加されたりと、アニメでは(連邦の作戦として)不自然と思われたストーリー進行が修正・整理されています。
またガンダムやホワイトベースほか、メカニックのデザインも大幅にリファインされたり、物語を補完する新キャラ(サブキャラクター)も登場したり。アニメとは風味の異なるファーストガンダムが、新鮮な感覚で楽しめます。
『シャア・セイラ編』など注目の追加エピソード
そんな『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』、最大の特徴はアニメ本編では描かれなかった、「一年戦争以前」の過去エピソードが追加されていること。
- シャア・セイラ編(9~10巻)
- 開戦編(11~12巻)
- ルウム編(13~14巻)
上記のように全24巻の実に1/4を使って、
- キャスバル・アルテイシアはどのようにしてシャア・セイラとなったか
- ザビ家がジオンの実験を握るまで
- シャアとガルマの士官候補生時代
- MS(モビルスーツ)の開発、そして実戦配備へ
- シャアとララァの出会い
といったファーストガンダムのミッシングリンクを埋めるピースと、一年戦争開戦までの流れが描かれます。
そのどれもが興味深いエピソードなのですが、その中でも注目なのが、ダイクンの遺児である「キャスバルとアルテイシア」が、「シャアとセイラ」となるまでを描く『シャア・セイラ編』。
若き日のランバ・ラルやクラウレ・ハモン、ヤング・ザビ兄弟も絡めながら展開される、「如何にしてシャア、セイラの『人格』が形成されていったか」という物語。『安彦良和 マイ・バック・ページズ』にも解説がありますが、ファーストガンダム・ファンならば「なるほど…」と思わず唸ってしまう、面白い内容となっています。
安彦良和氏の圧倒的漫画力がスゴイ
そしてこれら『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』をまとめ上げているのが、作者・安彦良和氏の圧倒的漫画力。
安彦良和さんはアニメーターから監督までの幅広いアニメ業務と、『アリオン』『クルドの星』『ヴイナス戦記』などの漫画作品を経て、専業となった漫画家さん。現在も講談社アフタヌーン誌にて『乾と巽 -ザバイカル戦記-』を連載中です。
作品に触れてみるとわかりますが(というか数々のイラストやカバー絵からも伝わってきますが)、キャラ・メカ・風景問わず美麗にして繊細、さらに迫力も併せ持つという、天才的な漫画力が大きな特徴。
その安彦良和さんが、自身もアニメーションディレクターとして関わっていたTVアニメ『機動戦士ガンダム』に、新たな解釈・視点を加味して描きあげた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』。「ガンダムのコミカライズ」という枠にとどまらない、実にドラマティックな漫画となっています。
漫画としても『機動戦士ガンダム』としても面白い『THE ORIGIN』。宇宙世紀ガンダムの「新たな原点」となった作品を楽しんでみてください。
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まとめ
以上、安彦良和さんの漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』感想・レビューでした。全24巻というボリュームながら、巧みな構成でグイグイ前のめりになって読んでしまう作品。ガンダム初心者はもちろん、ガンダム再履修のファンにもオススメです。
なお『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』には、これまでご紹介した以外にも、大きな魅力があります。それは美麗なセイラさんを存分に堪能できること(笑)。
いや、読んでいて随所で「作者、セイラさん好きだよな…」と感じます。ある意味、主役であるアムロよりも目立っているジオンのお姫様。終盤ではアニメとは異なる展開もあり必見。彼女の活躍にも注目して読んでみてください。
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は、2022年1月より安彦良和さんが完全監修した【フルカラー版】の刊行が開始されています。
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