タイトルが「ほんとしんで」に見えるとは、作者・本田さんの自虐的な弁。
正しくは「ほしとんで」。
芸術学部の俳句ゼミに集った、ちょっと癖のある学生たちと、結構癖のある先生。彼らが繰り広げる、俳句コメディです。
これが予想外に本格的な内容で、面白い…!
作者の本田さんは、「ガイコツ書店員 本田さん」の本田さん。以下、「ほしとんで」1巻のレビューです。
あらすじ
戦後ながらく有名人および変人を排出し続ける、国内屈指の名(迷?)学部「八島大学芸術学部」。通称「やし芸」。
文章表現が趣味、一切の覇気から解きはなたれている新入生・尾崎流星は、ゼミの割当で俳句ゼミに所属することに。
そこには講師の坂本はじめ、チェコと日本のハーフ女性、漫画家志望のオタク、小説好きのこじらせ女子、赤ちゃん連れのお母さん学生など、個性豊かな面々が集う。
ほとんどが俳句初心者のゼミ。毎回の授業で自己表現と批評の目にさらされながら、流星たちは徐々に、俳句の奥深さに触れて―?
濃いメンツの俳句ゼミ
漫画「ほしとんで」1巻。少し変わった俳句ゼミに入った主人公が、濃いゼミ仲間とともに俳句の世界に入門。文系芸術学科の独特な文化を混じえながら、生徒たちを通して俳句の魅力が語られていきます。
といっても堅苦しいものではなく、基本的にはゆるい笑い、文化系コメディ感のある漫画です。
私は「俳句」と言えば、国語の授業で習った程度の知識しか持ち合わせていない人間。五・七・五の定形や、季語を入れなければいけない、ぐらいのルールしか知りません。
が、「ほしとんで」を読んで、俳句の世界にグッと興味が湧きました。講師・坂本先生の俳句授業が実に興味深く、面白い!
魅力的な俳句の授業
序盤の授業で、坂本先生から提示された2つの季語。
- 山笑ふ
- 猫の恋
さて、これはいつの季節の言葉で、どんな状態を言っているのか?
恥ずかしながら、私はわかりませんでした。が、先生の説明を聞いて納得(詳しくは本文で)。
「夏」や「雪」は、季節をあらわす語としてわかりやすい。ですがこのような「擬人化された言葉」が季語にあたるとは知らず、軽い衝撃が。この授業で俳句の世界にグッと引き込まれました。面白いなぁ。
ちなみにこういった季語は、「歳時記」に収録されているとのこと。これは素直に教養として読んでみたい。
また別の授業では、「や」「かな」「けり」(「切字」と言う)と初夏の季語を使った俳句を作る、という課題が。
その中で、生徒の一人が作ってきた俳句の一つがこちら。
「母の日や 揃いのメガネケースかな」
素人目には洗練さはなくとも、まあまあの俳句かな、と思います。が、俳句の流れを切る役割をもつ切字が重複するのは、あまり好ましくないそう。
なるほどね~。如何に自分が俳句というものを知らないか、をひしひしと感じました。
そして生徒が作ってきた俳句の問題点を、坂本先生が指摘。より良い俳句にブラッシュアップしていくのですが、その内容が的確過ぎて、まるで自分が授業を受けているかのようなヴァーチャル感。
そこで描かれる生徒の感動が、イコール読者の感動に直結。読んでいて素直におもしろく、と同時に俳句に興味が湧いてきます。漫画と俳句、2つのおもしろさを同時に受け取り、新鮮な読後感がありました。
文化系芸術学科のおもしろみ
そんな俳句の授業の中で浮き彫りになってくる、文系芸術学科の生徒ならではの性質にもまた、おかしみが。
それぞれ創作に関わる身ながら、内面を表に出すことで受けるダメージを恐れている彼ら。そんな「ちょっとこじらせた気難しさ」が笑いを生み出します。
また坂本先生はじめ癖のある教授たちなど、高校とも一般社会とも異なる、大学ならではの独特な空気。読みながら大学に通っているかのような、「学び舎の雰囲気」にどっぷりと浸ることができます。
そして1巻で感銘を受けたのは、坂本先生のこの言葉。
「知ると結構楽しいよ」
そう、知ると楽しいのです。本田さんの「ほしとんで」1巻。まさに知る楽しみを教えてくれた漫画でした。いや~、教養って大事やね…。
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