魔物を倒し、トラップを避け、迷宮の奥深くへと進むパーティ。そこで必要になる食料を、「倒したモンスターを調理」してまかなってしまえ!
そんな「ありそうでなかった冒険」を描く新感覚ファンタジー漫画、九井諒子さんの『ダンジョン飯』感想・レビューです。
連載はKADOKAWAエンターブレインの漫画雑誌『ハルタ』で、全14巻完結済み。以下『ダンジョン飯』がの主なあらすじや見どころなどをご紹介します。
『ダンジョン飯』あらすじ
かつて栄華を誇った黄金の国。地下深くでその国を囚え続ける「狂乱の魔術師」を倒せば、そのすべてを得ることができる。
…という噂で、攻略者の絶えない危険なダンジョン。そこで冒険者・ライオス率いるパーティは、レッドドラゴン(炎竜)に遭遇、全滅の危機に。
妹・ファリンの魔法で地上に帰還するも、彼女はレッドドラゴンの胃の中に。ダンジョン下層に取り残された彼女を救うべく、ライオスたちは再び深部を目指すことを決意する。
しかし多くの装備を失い、先立つ物の無い彼ら。そこで取るべき道はひとつ!それは迷宮内に生息するモンスターを倒し、調理し、食べて奥へ進むという「ダンジョン内での自給自足」。
果たして彼らはファリンを救うことができるのか?そしてそもそも、モンスターはウマイのか…?
『ダンジョン飯』のココが面白い!
グルメ漫画風?ファンタジー漫画
ライオス(トールマン)・マルシル(エルフ)・チルチャック(ハーフフット)の三人に、途中で「モンスター料理に異様に詳しい」センシ(ドワーフ)を加え、パーティはいざ迷宮へ!
その過程で描かれる、モンスターとの迫真のバトル!…はファンタジー漫画なので当たり前。その後に倒したモンスターを調理して食う「ダンジョン飯」が待っているのが、本作ならではの醍醐味。
例えば第一話で披露される料理『大サソリと歩き茸の水炊き』。
- 材料 3~4人分
- 大サソリ…1匹
- 歩き茸…1匹
- 茸足…2本
- 藻(花苔・イシクラゲ)…適量
- サカサイモ…中5本程度
- 干しスライム…お好みで
- 水…適量
といった現実世界では全く役に立たないレシピをグルメ漫画よろしく、詳細な調理過程とともに掲載。「ただ単に取って食う」だけではない、リアルかつパロディ風味が、シュールな笑いを誘います。
さて『大サソリと歩き茸の水炊き』は果たしてうまかったのか…?
必然的な「リアル」が面白い!
そんな『ダンジョン飯』。コメディ要素も多くつい笑ってしまうのですが、決して適当なファンタジーではなく、むしろ逆。世にあふれるファンタジー漫画の中でも、群を抜いて本格的。
なぜなら、作品の中心に「食べる」という行為が存在しているから。
ドラゴン、スライム、バジリスク、ウンディーネなど、おなじみのモンスターたち。冒険のためには、栄養バランスや食欲がわく見た目も考えた、「ダンジョン攻略のための体づくり」を目指した食事をするべきだ!(とセンシは主張。)
そこに説得力を持たせるため、「どの部位が食えるのか」「どうやったら美味しく調理できるのか」から、モンスターの生態、食物連鎖も関わる迷宮の構造まで踏み込んでいく。
必然的に周辺の描写がリアルになるのですが、この「リアル加減」が他のファンタジー漫画には無い、『ダンジョン飯』の絶妙な面白さを演出。コミカルな冒険に笑いながらも、魅力ある世界観の中に引き込まれていきます。
ちなみに主人公ライオス、見た目はまともですが、かねてより魔物食いに興味津々の変わり者(愛読書は「迷宮グルメガイド」)。迷宮内における自給自足のエキスパート・センシと共に、率先して魔物を食べようとします。
それに対して、魔物食に抵抗のあるマルシルが激しく抵抗!…するんだけれど結局食う(食うんかい)、というのがお約束の笑いどころ。
ファリンを救出!するも…新たな展開へ
つい「モンスター調理」に目が行きがちな物語ですが、そもそも『ダンジョン飯』の目的は、ドラゴンに食われた仲間・ファリンの救出。
ちょっとネタバレ気味ですみませんが、その目的は4巻で達成。レッドドラゴンの胃の中で消化された彼女を、マルシルの魔法で蘇生することに成功します。
が、レッドドラゴンが迷宮を支配する「狂乱の魔術師」の創造物であったこと、そして蘇生の方法に問題があったことが事態をややこしく…。ライオス一行はファリンを迷宮の支配者「狂乱の魔術師」に奪われ、さらに彼女は異形の姿に…。
大きなダメージを負い、迷宮からの一時撤退を余儀なくされるライオスたち。しかし「迷宮の謎」に深く関わり過ぎてしまったために、迷宮の内外を巻き込んだ緊迫の展開へ突入!
ファリンを救って大団円と思いきや、5巻から予想していなかったさらなる深みへと進む『ダンジョン飯』。緊迫感あふれる新たな冒険が始まります。
迷宮を支配するのは誰だ…!
そして人々の欲望を吸って大きくなった「迷宮」は、次の支配者を探して暴走。そこにライオスたちのかつての仲間や、パーティを危険な存在と認識する冒険者・カブルーが参加。
さらに迷宮を管理する強力なエルフ軍団も介入し、迷宮、ひいては世界の存続にも危機が…?この緊迫感ある展開が、予想以上に面白い!読み応えのあるストーリーに、ドキドキが止まりません。
もちろん迷宮の暴走は、パーティにも多大な影響が。特に(モンスター食に対して)欲求の強いライオスは支配者候補の対象となり、さて世界を手にするのは誰なのか…?
…という中でも「本分」を失わないのが『ダンジョン飯』。これ以上無い危機の最中でもしっかりメシを食う!(笑)ここに本作ならではの、唯一無二の面白さがあります。
本作は作者・九井諒子さん初の長編漫画ですが、とても「初」とは思えない完成度。卓越したコメディ・センス、練り込まれた設定、そしてテンポの良い物語運びで、一度読むとその世界観に惹き込まれること請け合いのファンタジー漫画です。
感想・レビューまとめ
以上、九井諒子さんの漫画『ダンジョン飯』の感想・レビューでした。
本格ファンタジーの「亜流」的な設定ながら、予想外のシリアス展開を見せてくれた『ダンジョン飯』。「大団円」と評するにふさわしいラストも、非常に満足度の高いもの。
また物語を支える「卓越し過ぎている画力」にも注目。ビジュアル・ストーリーともにクオリティの高いファンタジーを楽しませてくれる、全14巻です。
コメント