トラップの危険を排除しながら魔物を倒し、迷宮の奥深くへ進むパーティ。しかし冒険には「食料」が不可欠。
その食料を「現地調達したモンスターをその場で調理する」ことでまかなう、というありそでなかった冒険を描く新感覚ファンタジー漫画が、「ダンジョン飯」です。
作者の九井諒子さんは数多くの短編を輩出していますが、本作が初の長編。単行本は2021年2月現在、10巻まで刊行。KADOKAWAエンターブレイン「ハルタ」誌で絶賛連載中です。
「ダンジョン飯」感想
あらすじ
かつて栄華を誇り、そして滅びた黄金の国。地下深くでその国を囚え続ける「狂乱の魔術師」を倒せば、そのすべてを得ることができる。
…という噂で攻略者の絶えない危険なダンジョンで、冒険者・ライオス率いるパーティはレッドドラゴン(炎竜)に遭遇し全滅の危機に。
妹・ファリンの魔法で地上に帰還するも、彼女はレッドドラゴンの胃の中に。ダンジョン下層に取り残された彼女を救うべく、ライオスたちは再び深部を目指すことを決意する。
しかし多くの装備を失い、先立つ物の無い彼ら。迷宮内に生息するモンスターを倒し、調理し、食べて、奥へ進むという「ダンジョン内での自給自足の道」を選ぶことに。
果たして彼らはファリンを救うことができるのか?そしてそもそも、モンスターはウマイのか…?
グルメ漫画風味ファンタジー
…ってな感じで開幕の「ダンジョン飯」。ライオス(トールマン=人間)・マルシル(エルフ)・チルチャック(ハーフフット)というパーティに、モンスター料理に異様に詳しいドワーフのセンシが加わり、ファリンの救出に向かいます。
その過程ではファンタジー漫画のお約束、迷宮内に巣食うモンスターとの迫真のバトル!…があるのは当たり前。その後に倒したモンスターを調理して食う「ダンジョン飯」が待っているのが、本作ならではの醍醐味です。
しかしこれが、ただ単に取って食う、だけではありません。例えば第一話で披露される料理「大サソリと歩き茸の水炊き」。
- 材料 3~4人分
- 大サソリ…1匹
- 歩き茸…1匹
- 茸足…2本
- 藻(花苔・イシクラゲ)…適量
- サカサイモ…中5本程度
- 干しスライム…お好みで
- 水…適量
のように、現実世界では全く役に立たないレシピをグルメ漫画よろしく、詳細な調理過程とともに掲載。パロディ風味がシュールな笑いを誘います。さて、「大サソリと歩き茸の水炊き」は果たしてうまかったのか…?
必然的にリアルなファンタジー描写
コメディ要素の多い「ダンジョン飯」ですが、しかし適当なファンタジーかと言うと、そうではない。むしろ、世にあふれるファンタジー漫画の中でも、群を抜いて本格的。
なぜなら、作品の中心に「食べる」という行為が存在しているから。
ドラゴンほか、スライム、バジリスク、ウンディーネなど、おなじみのモンスターたちが多数登場する世界観。それを「倒して終わり」ではなく、「調理して食う」までを描く物語。
そのため、どの部位が食えるのか、どうやったら美味しく食えるのか、が非常に重要になり、必然的に描写がリアルに。この「リアル加減」が、絶妙に面白い。
ただ肉を焼いて食えば良い、野菜を取れば良い、という訳ではなく、栄養バランスや見た目も考えた「ダンジョン攻略のための体づくり」を目指した食事。それがファンタジーの世界で行われている、というシュールさに笑わずにはいられません。
ちなみに主人公ライオス、見た目はまともですが、かねてより魔物食いに興味津々の変わり者(愛読書は「迷宮グルメガイド」)。
迷宮内における自給自足のエキスパートであるセンシと共に、率先して魔物を食べようとするのですが、それに対して魔物食に抵抗のあるマルシルが激しく抵抗する、するんだけれど結局食う(食うんかい)、というのがお約束の笑いどころです。
ファリンを救出するも…
モンスター調理についつい話題がいきがちですが、そもそも「ダンジョン飯」の目的はドラゴンに食われたファリンの救出。
ちょっとネタバレ気味ですみませんが、その目的は4巻で達成。救出、というか、すでに消化されてしまった彼女を、魔法で蘇生することに成功します。
が、レッドドラゴンが迷宮を支配する「狂乱の魔術師」の創造物であったこと、そして蘇生の方法に問題があったことが、事態をややこしくすることに。
詳しいことは本編でお楽しみいただきたいので割愛しますが、ライオス一行はファリン救出に失敗。さらに狂乱の魔術師の支配下となった彼女は異形の姿に…。
新たな展開へ
すったもんだの挙げ句、ファリンを助けて大団円かな、と個人的には思っていたのですが、「ダンジョン飯」の物語は予想していなかったさらなる深みへと進みます。
大きなダメージを追ったライオスたち。一時撤退を余儀なくされるのですが、「迷宮の謎」に深く関わり過ぎてしまったために、迷宮の内外を巻き込んだ緊迫の展開へ突入します。
ライオス一行を(いろいろ行き違いもあって)危険な存在と認識、敵意を向ける冒険者・カブルーや、迷宮の異変を察知した長命種族の軍団が介入。迷宮事態の存続にも危機が…?
この緊迫感ある展開が、予想外に面白い!読んでいてドキドキするのですが、しかし肝心のライオス一行は自分たちを取り巻く環境などつゆ知らず、しっかりメシを食って相変わらず「ダンジョン飯」していたり(笑)。二桁巻数を超えてなお、安定感のあるコメディ・ファンタジーです。
「ダンジョン飯」まとめ
以上、九井諒子さんの「ダンジョン飯」感想でした。クオリティの高いファンタジー漫画と言えば、「ベルセルク」のようなハードな作品が注目されがち。ですがまったく対象的なテイストながら、それに負けじ劣らじ、唯一無二の面白さがある漫画です。
作者の九井諒子さんは「竜のかわいい七つの子」「ひきだしにテラリウム」など、ユーモアあふれる短編を多彩なタッチで描いてきた漫画家さん。長編である本作でもその才能を如何なく発揮されています。スゴさ・面白さをぜひ体感してみてください。オススメです。
追記:ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル
「ダンジョン飯」10巻の刊行と同時に、ファン待望の副読本「ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル」が発売されました!
総ページ数50Pの描き下ろし漫画や新規イラスト、細かすぎる人物紹介など、本編の内容をより深く掘り下げるキャラクターブック。めちゃくちゃクオリティ高い!です。10巻までの内容を含むので、「ダンジョン飯」1~10巻を読んだあとで楽しむのがオススメ。
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