魔物を倒し、トラップを避け、迷宮の奥深くへと進むパーティ。
そこで必要になる食料を「現地調達したモンスターを調理して食べる」ことでまかなってしまえ!
そんな「ありそうでなかった冒険」を描く新感覚ファンタジー漫画が、『ダンジョン飯』です。
作者は本作が初の長編となる、九井諒子さん。連載はKADOKAWAエンターブレイン『ハルタ』誌。単行本は2023年4月現在、12巻まで刊行中です。
『ダンジョン飯』感想・レビュー
あらすじ
かつて栄華を誇った黄金の国。地下深くでその国を囚え続ける「狂乱の魔術師」を倒せば、そのすべてを得ることができる。
…という噂で、攻略者の絶えない危険なダンジョン。そこで冒険者・ライオス率いるパーティは、レッドドラゴン(炎竜)に遭遇、全滅の危機に。
妹・ファリンの魔法で地上に帰還するも、彼女はレッドドラゴンの胃の中に。
ダンジョン下層に取り残された彼女を救うべく、ライオスたちは再び深部を目指すことを決意する。
しかし多くの装備を失い、先立つ物の無い彼ら。そこで取るべき道はひとつ!
それは迷宮内に生息するモンスターを倒し、調理し、食べて奥へ進むという「ダンジョン内での自給自足」。
果たして彼らはファリンを救うことができるのか?そしてそもそも、モンスターはウマイのか…?
グルメ漫画風?ファンタジー漫画
ライオス(トールマン=人間)・マルシル(エルフ)・チルチャック(ハーフフット)の三人パーティ。
そこに途中で、モンスター料理に異様に詳しいセンシ(ドワーフ)を加え、いざ迷宮へ!
その過程で描かれる、モンスターとの迫真のバトル!…はファンタジー漫画なので当たり前。
その後に倒したモンスターを調理して食う「ダンジョン飯」が待っているのが、本作ならではの醍醐味。
例えば第一話で披露される料理『大サソリと歩き茸の水炊き』。
- 材料 3~4人分
- 大サソリ…1匹
- 歩き茸…1匹
- 茸足…2本
- 藻(花苔・イシクラゲ)…適量
- サカサイモ…中5本程度
- 干しスライム…お好みで
- 水…適量
といった現実世界では全く役に立たないレシピをグルメ漫画よろしく、詳細な調理過程とともに掲載。
「ただ単に取って食う」だけではない、リアルかつパロディ風味が、シュールな笑いを誘います。
さて『大サソリと歩き茸の水炊き』は果たしてうまかったのか…?
必然的な「リアル」が面白い!
コメディ要素も多く、ついつい笑ってしまう『ダンジョン飯』。
しかし適当なファンタジーかと言うとそうではなく、むしろ逆。世にあふれるファンタジー漫画の中でも、群を抜いて本格的。
なぜなら、作品の中心に「食べる」という行為が存在しているから。
ドラゴンほか、スライム、バジリスク、ウンディーネなど、ファンタジーものでおなじみのモンスターたち。それらを単に「食べるだけ」では無い。
食べるからには、栄養バランスや食欲がわく見た目も考えた、「ダンジョン攻略のための体づくり」を目指した食事をするべきだ!
そこに説得力を持たせるため、「どの部位が食えるのか」「どうやったら美味しく調理できるのか」から、モンスターの生態、食物連鎖も関わる迷宮の構造まで踏み込んでいく。
必然的に周辺の描写がリアルになるのですが、この「リアル加減」が他のファンタジー漫画には無い、『ダンジョン飯』の絶妙な面白さを演出。
コミカルな冒険に笑いながらも、魅力ある世界観の中に引き込まれていきます。
ちなみに主人公ライオス、見た目はまともですが、かねてより魔物食いに興味津々の変わり者(愛読書は「迷宮グルメガイド」)。
迷宮内における自給自足のエキスパートであるセンシと共に、率先して魔物を食べようとします。
それに対して、魔物食に抵抗のあるマルシルが激しく抵抗!…するんだけれど結局食う(食うんかい)、というのがお約束の笑いどころです。
【マンガ多すぎ!コミックシーモア】
ファリンを救出!するも…新たな展開へ
そんな「モンスター調理」に目が行きがちな物語ですが、そもそも『ダンジョン飯』の目的は、ドラゴンに食われた仲間・ファリンの救出。
ちょっとネタバレ気味ですみませんが、その目的は4巻で達成。レッドドラゴンの胃の中で消化された彼女を、マルシルの魔法で蘇生することに成功します。
が、レッドドラゴンが迷宮を支配する「狂乱の魔術師」の創造物であったこと、そして蘇生の方法に問題があったことが、事態をややこしくすることに。
詳しいことは本編でお楽しみいただきたいのですが、ライオス一行はファリンを迷宮の支配者「狂乱の魔術師」に奪われ、さらに彼女は異形の姿に…。
大きなダメージを負い、迷宮からの一時撤退を余儀なくされるライオスたち。
しかし「迷宮の謎」に深く関わり過ぎてしまったために、迷宮の内外を巻き込んだ緊迫の展開へ突入!
ファリンを救って大団円と思いきや、5巻から予想していなかったさらなる深みへと進む『ダンジョン飯』。緊迫感あふれる新たな冒険が始まります。
ライオスたちのかつての仲間や、ライオス一行を(いろいろ行き違いもあって)危険な存在と認識する冒険者・カブルーも登場。
そして迷宮を管理する強力なエルフ軍団も介入し、迷宮自体の存続にも危機が…?
この緊迫感ある展開が、予想以上に面白い!シンプルに読み応えのあるストーリーに、ドキドキが止まりません。
しかし肝心のライオス一行は、自分たちを取り巻く環境などつゆ知らず、しっかりメシを食って相変わらず「ダンジョン飯」していたり(笑)。
二桁巻数を超えてなお、安定感のあるコメディ・ファンタジーです。
『ダンジョン飯』まとめ
以上、九井諒子さんの漫画『ダンジョン飯』の感想・レビューでした。
クオリティの高いファンタジー漫画と言えば、『ベルセルク』のようなハードな作品が思い浮かびます。
ですがまったく対象的なテイストながら、それに負けじ劣らじ、唯一無二の面白さが『ダンジョン飯』にはあります。
作者の九井諒子さんは『竜のかわいい七つの子』『ひきだしにテラリウム』など、ユーモアあふれる短編を生み出してきた漫画家さん。
その面白さが、長編である本作でもその才能が如何なく発揮されています。そのスゴさをぜひ体感してみてください。
追記:ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル
『ダンジョン飯』10巻の刊行と同時に、ファン待望の副読本『ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル』が発売されました!
総ページ数50Pの描き下ろし漫画や新規イラスト、細かすぎる人物紹介など、本編の内容をより深く掘り下げるキャラクターブック。めちゃくちゃクオリティ高い!です。
10巻までの内容を含むので、『ダンジョン飯』1~10巻を読んだあとで楽しむのがオススメ。
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