廃部寸前の大学登山部に入部したのは、ド素人の一年女子3人!果たして先輩は彼女たちを導き、登山部を存続できるのか…?
そんな大学登山部の活動をリアル&コミカルに描くのが、空木哲生さんの漫画『山を渡る -三多摩大岳部録-』。KADOKAWAの漫画誌「ハルタ」連載で、コミックス1~7巻が刊行中(2024年11月現在)。
以下『山を渡る -三多摩大岳部録-』の主なあらすじや見どころなどを、基本ネタバレなしでご紹介します。
『山を渡る -三多摩大岳部録-』あらすじ
新入生を迎え、新歓オリエンテーション真っ盛りの三多摩大学。しかし3年男子が二人、2年女子が一人の山岳部は、廃部寸前。このままでは登山に必要な道具の数々(※高い)が使えなくなる恐れが。
その登山部に興味を持ったのは、一年生の理系女子と運動未経験女子。入部にやや消極的な彼女たちを逃すまじと、先輩三人は必死の勧誘!まずは手頃な高尾山へ、二人を体験登山へ誘う。
その道中、さらに山岳文学好きな一年女子を加え、先輩+新入生の計6人はいざ、高尾山へ!先行き不安だが、三多摩大学山岳部は新入生を迎えて存続できるのか?
『山を渡る -三多摩大岳部録-』レビュー
登山初心者の感動と成長
体験登山を皮切りに、山岳部のマジメな活動が笑いをまじえて描き出されていく『山を渡る -三多摩大岳部録-』。その物語の軸は大きく二つ。
一つは先輩たちに導かれ、徐々に登山のおもしろさ・醍醐味に触れていく、山登り初心者である新入生女子3人の成長。
運動未経験・ガチガチの理系・文学女子と、それぞれ山登りとは無縁な人生を送ってきた新入生たち、まずは標高599メートルの高尾山へチャレンジ。
先輩たちの必死の接待(笑)もあり、(ハイキング的な)登山を達成、登山部員(仮)となります。
続いて登山の「三種の神器」(雨具や靴など、登山に最低限必要とされるグッズ)を手に入れるというミッションへ。
貧乏大学生ゆえ、登山部OBたちが残したお古を修繕する彼女たち。年季の入った道具に手を入れ、少しずつ身につけて馴らし、自分のものとしていく。
小さな努力と感動を積み重ね、ちょっとずつ登山、の前の入り口に立っていく彼女たちの姿に、読み手も不思議と感じる登山部感。
先輩たちとのコミカルな掛け合いも手伝い、自身が山岳部に入部したような、不思議な感覚を覚えます。
先輩部員たちの本格登山がスゴイ
そんな初心者の様子と対照的なのが、『山を渡る -三多摩大岳部録-』のもう一つの軸である本格的な登山シーン。
三年生男子の金田と草場、現部長である二年生女子の黒木。登山経験者であり、より難易度の高い登山を求める彼女ら。
専門の装備に身を包み、雪山登山・ロッククライミングなどで難所を乗り越えていく様子がリアルに描かれ、思わず手に汗握ること必至。
その中でも特に注目が、紅一点である「女ゴリラ(※金田+草場の評)」黒木のクライミング。
人が避ける難関に敢えて挑む、「冒険的登山」を標榜する彼女。自身の肉体一つを登山道具とし、全身の筋肉を使って、少しずつ高みへと登っていく。圧巻の登山アクションを見せてくれます。
また作者・空木哲生さんの、不思議と「重力」を感じるクライミング描写が素晴らしい!
アングルやテンポなど、何度コマを見ても飽きない、リアルなスポーツの醍醐味を伝えてくれます。
【ebookjapan新規限定クーポン】
タイトル『山を渡る』の意味
そして「先輩と後輩」「経験者と初心者」の両極は、巻が進むにつれゆるやかな重なりを見せていくことに。
先輩たちに導かれ、装備の準備から基礎体力づくりを経て、本格的な山登りの道へ進まんとする後輩たち。やがて先輩と後輩の距離が近づき、活動がより充実してくる。
そんな部活動の楽しさ・おもしろさや山岳部の魅力がコマ・ページからひしひしと伝わってきて、彼女たちと一緒に山岳部をエンジョイしているような気持ちに。
学生でも社会人でも、体育会系でも文化系でも、きっと誰しもが経験したであろう、「初心者たちが物事に興味を持って、一歩ずつその階段を登っていく」様子に、半端無いヴァーチャル感・没入感があります。
ところでこの漫画のタイトルは『山を渡る』。なぜ『山を登る』ではなくて『山を渡る』なのか?
その理由が2巻、山岳部の活動の中で明らかになってくるのですが、なるほど、と感心することしきり。ぜひ劇中でその理由に触れてみてください。
レビューまとめ
以上、空木哲生さんの漫画『山を渡る -三多摩大岳部録-』のネタバレなしレビューでした。
「初心者が登山を好きになっていく様子」と「経験者による本格的なクライミング」。2つの視点から登山の魅力にアプローチする、クオリティの高い登山漫画。
と同時に、笑いが随所に詰まっていて、登山未経験者でもシンプルに楽しめる作品です。
なお作中にいくつか実際の風景写真が掲載されているのですが、それらは全て作者・空木哲生さんによるもの。
作者の日々の登山や取材内容が反映されているであろう、劇中で描かれる景色・自然の数々も見どころです。
コメント