幼い頃から“お隣のお姉さん”を慕い続けてきた青年。しかし彼女は自分を恋愛対象としては見てくれなくてー。
河内遙さんの『ムサシノ輪舞曲(ロンド)』。お隣さん同士の年の差男女を中心に、その周辺に集う人々の恋模様を描く恋愛群像劇です。
連載は祥伝社の漫画雑誌「FELL YOUNG」。2023年11月現在、単行本1~3巻が刊行中。以下『ムサシノ輪舞曲』が気になる方向けに、主なあらすじや見どころなどを基本ネタバレなしでご紹介します。
『ムサシノ輪舞曲』あらすじ
蕎麦屋の息子・龍平(25)は、お隣のバレエ講師・環(たまき)に、幼少の頃から恋心を抱く。
しかし10も歳の離れた彼女は彼を恋愛対象としては見てくれず、成長の節目節目で告白するも玉砕。現在は良い関係を壊したくない、と適度なご近所付き合い。
そこに家を出ていた環の弟・文太が、同僚の衣笠を伴って帰還。それを見た龍平、衣笠が惚れっぽい環の”どストライク”であることを瞬時に悟り、胸のモヤモヤを掻き立てられる…。
…以上が漫画「ムサシノ輪舞曲」の導入部。以降、龍平・環・文太・衣笠や環の友人でバツイチ子持ちの毬奈も交えた恋愛模様が、群像劇風に展開されていきます。
『ムサシノ輪舞曲』レビュー
せつない恋心がざわつく時
両親に不幸のあった環と、深い家族関係を築いてきた龍平の家。
しかしその「家族同然」という縛り、そして10歳の差がマイナスに作用。恋愛対象として認められないがために、「安穏ご近所生活」に甘んじてきた龍平。
そして彼女が自分より年上の男性たちと恋仲に落ちていくのを、間近で指を加えて眺めてきた人生…。
その「どうしようもなく埋められない溝」ゆえに漂わせる憂いの表情。うん、報われない恋ってあるよね。せつないわ…。
しかしその諦めも含んだ平穏な心が、衣笠の出現により一気にざわつく!
しかもなまじ近くに居すぎたために、環が相手に惚れそうなのが手に取るようにわかってしまう龍平。この「近すぎて遠い関係」に、気の毒さとおかしみを感じます。
年の差男女の距離感が変化?
一方の環。「バレエのせんせい」として幼い頃から龍平と関わり、そして彼をずっと袖にしてきたわけですが、決して感じが悪い女性ではない。むしろ逆。ちょっといたずらっぽい表情とフワッとした雰囲気を併せ持つ、とても魅力的な人物。
その彼女が好みの男性・衣笠に出会い、心を揺り動かされていくことに。が、さらに!(笑)この衣笠も、ちょっと特殊な背景を持つ人物だったりして…。
そんな恋愛模様をサラッと包み込むように描く物語。物凄く「大人の雰囲気」があって、とても良い。河内遙さんの真骨頂です。
しかし新しい出会いと同時に、衣笠の存在に焦りを感じる龍平にもモーションをかけられ、さてどうする環!
この環と龍平、二人の絶妙な関係と距離感がどのように変化していのか?が物語の大きな見どころ。
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「大人の恋愛空間」が心地よい
そんな龍平と環の関係を中心に、文太、毬奈、衣笠ら周辺の人物の心情も交えて、文字通り「輪舞曲」のように紡がれていく『ムサシノ輪舞曲』の世界。そこで形成される「大人の恋愛空間」が、実に魅力的。
ちょっとアダルティックな空気を匂わせながらも、ドロドロし過ぎない独特の空気は、多くの恋愛作品を手がけてきた作者・河内遙さんならでは。ページをめくるたびに物語に引き込まれ、各人物の心情を知るたびにその胸の内に同調してしまいます。
またシンプルな線で描かれているのに、不思議と感じるキャラクターたちの色香も、大人恋愛を演出。今作は作者の漫画の中でも登場人物たちの年齢層高めなのですが、そこに感じる「大人の落ち着き」が心地よい。ドップリ浸かれる恋愛漫画です。
レビューまとめ
以上、河内遙さんの漫画『ムサシノ輪舞曲』のネタバレなしレビューでした。
本作は作者のデビュー20年目の作品。あとがきによると「フィール・ヤング誌の中でも一番地味な連載」とのこと。
ですが読んでいて感じるのは、むしろ20年という年月を経たからこそ生み出される、落ち着いたドラマ感。大人の恋愛模様に思わず引きずり込まれてしまう、魅力的な恋愛漫画です。
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