「過剰な経済格差を是正せよ!」
トップと末端社員の給与格差が大きい企業に向けて、過激なテロが実行される。事件を追う刑事は捜査の過程で、かつて父親を殺した男を発見するがー。
朱戸アオさんの漫画『ダーウィンクラブ』全6巻。世界的な経済問題をバックに描く、社会派の本格クライム・サスペンスです。以下『ダーウィンクラブ』が気になる方向けに、主なあらすじや見どころなどを基本ネタバレなしでご紹介します。
『ダーウィンクラブ』あらすじ
経済格差が日々拡大する世界。『CEOと一般従業員の年収格差が1000倍以上』に当てはまる世界的企業100社に向けて、謎の脅迫が送りつけられる。
「3年以内に給与格差を200倍未満にしろ。さもなくば消滅させる」
それから3年。警告を受けながら無視を続けていた企業に対し、ついに実行される過激なテロ!
手始めに標的となったのは、フロリダの民間による有人宇宙飛行の発射場と、連動する東京のイベント会場。
居合わせた人々は、ライフルを持ったテロリストたちにより、為す術もなく蹂躙されていく。
その凄惨な光景を、中継で見ていた刑事・大良(たいら)。そこにかつて父親を殺した男がいることに気づくー。
『ダーウィンクラブ』レビュー
リアルな社会派クライム・サスペンス
「世界で裕福な1%の人間が持つ富の合計は、その他約70億人が持つ富の合計の2倍以上」
GAFAに代表される超巨大企業。その経営陣たちの報酬は、「高額」という言葉すら当てはまらない桁違いなもので、末端の従業員との給与差は開くばかり。
そんな現実的な「経済格差問題」を背景に、「正体不明の組織」とそれを追う刑事の姿が描かれていきます。
作者の朱戸アオさんは『インハンド』『リウーを待ちながら』など、医療系のサスペンス・ミステリーに定評のある漫画家さん。
綿密な取材と緻密な構成力で練り上げられる「リアル」が魅力なのですが、本作『ダーウィンクラブ』でもそのリアルは健在。本格的な社会派クライム・サスペンスが描かれていきます。
主人公の「特殊能力」と「凄惨な過去」
主人公・石井大良(たいら)は、「一度見た顔と名前は忘れない」という記憶能力と、幼少時に「自転車屋を営む父親を、謎の二人組に殺された」という凄惨な過去を持つ平刑事。
当時目撃した「犯人の顔」「手首の奇妙なタトゥー」を、テロ事件の現場で見かけ、独自に捜査を開始していく。父の仇を討つために…!
しかしテロ組織の手は警察内部にも。そして事件を調査していた、大良の後輩刑事に危険が…?
この「誰が味方で誰が敵かわからない」緊張感のあるサスペンス展開が、実にスリリング!物語の面白みとなっています。
しかし気になるのは、なぜ「ただの自転車屋であった父」が「のちに国際的なテロ事件に関わる男」に殺されたのか…?
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謎多き「奇妙な」テロ組織
一方、テロ現場で大良が目撃した人物・佐藤(仮名)。
物語冒頭で「ヒトの進化の停滞」を憂い、大企業に警告を発した彼。大良の父を殺害したと思しき人間なのですが、その背後には
「以前パタゴニアに行きましてね」「グアナコはご覧になりましたか?」
と「奇妙な合言葉」を交わす、「ダーウィン」に関わりのある組織が見え隠れ。
その組織は、大企業をターゲットにする割には、どこか優雅で裕福なイメージ。反面、目的のためには殺人も躊躇なく行ったり。
そして共通する「手首のタトゥー」以外は、全くもって正体不明。
そもそも「目的」も表面上は「経済格差への反発」なのですが、本当にそれが最終目標なのか…?
「ダーウィンクラブ」に潜入した大良が見るものは…?
その後いろいろあり(ネタバレになるので割愛)、世界的なテロと関わりの見える組織=「ダーウィンクラブ」の内部へと、大良は潜入していくことに。
そこで明らかになっていく、クラブの構成と思想。それは「ダーウィン」をキーに、独自の理論で世の中を「より良い方向」へ導こうとするものですが、その行動様式はある意味論理的、かつ非常にユニーク。
が、「目的のためには殺人も辞さない」姿勢は、やはり異様。大良が内部へと迫っていくほどに、底の見えない沼にはまっていくような感覚があり、なんとも不穏…!
さて大良は「父の死の謎」を解き明かし、仇を討つことができるのか…?
レビューまとめ
以上、朱戸アオさんの漫画『ダーウィンクラブ』のネタバレなしレビューでした。
進化・淘汰のキーワード「ダーウィン」と「経済格差問題」をテーマに据えた、社会派サスペンス。医療ミステリーに定評のある作者の新境地ですが、全6巻で完結となりました。
全体を通しては不気味な雰囲気、特に「クラブの得体の知れなさ」に良いサスペンス感があったのですが、「経済格差」という当初のテーマが少し薄れてしまったかな?という印象。
ただ緻密な取材と専門知識をふんだんに散りばめた内容は、朱戸アオさんならでは。楽しませてもらいました。次回作にも期待。
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