「怖い話」のコミカライズを手掛ける女性漫画家。連載が進むにつれ、自身の「リアル」にも不穏な空気が…?
「リアリティのある現代の怪談話」と、「そのコミカライズを描く漫画家の恐怖体験」という、2重構造が恐怖を増幅させる新感覚オカルト・ホラー。原作:梨さん+漫画:景山五月さんの『コワい話は≠くだけで。』レビューです。
連載はKADOKAWAのWeb漫画メディア「COMIC BRIDGE」で、全3巻完結。以下、『コワい話は≠くだけで。』の主なあらすじや見どころなどをご紹介します。
『コワい話は≠くだけで。』あらすじ
漫画『コワい話は≠くだけで。』の主人公は、「怪談話」のコミカライズを引き受けた女性漫画家(作者本人?)。
各話は、彼女が「編集部提供の元ネタや、自身によるインタビューを漫画化した怖い話」と、その前後に「漫画家本人の様子」が時折挿入される、という形で構成。
「ホントにあった怖い話」的エッセイコミックのテイストを持ちながら、その「作者の様子そのもの」も外環として描く、メタ的な2重構造を持つオカルト・ホラーです。
ちなみにタイトル中の「≠」は記号「ノットイコール」ですが、読み方は「キ」。通して「こわいはなしはきくだけで」と読みます。
『コワい話は≠くだけで。』のココが面白い!
バラエティ豊かなホラー・エピソードが面白い!
- 部屋の整理をしていると、子どもの字で書かれた見覚えの無い手紙を見つけた青年。その夜、きしむような物音で目覚めた彼が見たものは…(第1話『補完』)
- 夜中に家出した友人を、スマホのGPSで追っていた高校生。新興住宅地の空きスペースで動かなくなった友人と通話すると、「いま民家にいる」と言い張るが…(第3話『閑静』)
- 祖母の幼少期の話。活発だった彼女は、ある日ひとりで山奥へ。ふと遠目に「女」が立っていること、そしてそれが「人ではない」ことに気づく―(第7話『愛情』)
- 通学路にある公民館で、謎の作品「ナカノさん」が上映されているとの噂が。気になった小学生たちが公民館を覗いて見たものは―(第13話『牴牾』)
…など、「ネットやスマホが絡んだ現代的な怪談話」から、「一昔前の不思議な体験風」まで。「短編ホラー小説」的で面白い読み心地を持つ恐怖エピソードの数々を収録。
また内容が、作者・景山五月さん(ホントの作者の方)のリアリティ感じる作画とマッチ。流れるように漫画を読むうちに、「様々な人が体験した怖い話」に引き込まれていきます。
作者の周辺に不穏な空気が…?
…が、ここまではよくあるホラー・オムニバス。『コワい話は≠くだけで。』ならではの恐怖は、怪談話がやがて女性漫画家の現実にも影響しはじめること。
第1話、担当との打ち合わせで、「漫画は描くだけで深入りはしない。あんまり関わると『ほんとう』になりそうだから」と話す彼女(伏線)。
以後、各話の終わりで「怖いオチにやや驚いた顔を見せる」程度の登場だったのですが、1巻最終話『人形』でついに彼女が恐れていたことが…?
ネタバレになるので詳細は避けますが、一見無関係と思われた序盤と終盤が「不意に」繋がり、狼狽を見せる漫画家。
「怖い話」の外環に居るつもりが、実はその環の中に組み込まれているのかもしれない。その恐怖に気づいた時の彼女の表情に、思わず鳥肌が…!
やがて恐怖が読者も巻き込んでいく!
そんな『コワい話は≠くだけで。』、各オカルト・ホラーの現代的な内容と、「リアルへの侵食」を恐れる女性漫画家の様子が、相乗効果を生み出していて何とも恐ろしい。しかしその恐ろしさは劇中にとどまらず。
「いかにもありそうな」怪談話と、随所に仕込まれたヴァーチャル感のある「仕掛け」により、やがて読み手にも恐怖が伝播。話が進むうちに、気分は女性漫画家と同調。ふと漫画から視線をそらすと、その先に「何か」がいるような…!
…ホントにね、個別の怪談話だけでなく、「全体の雰囲気」が絶妙に怖いんですよ、この漫画。その雰囲気に否応なしに「引きずり込まれて」いくのですが、迎える最終3巻では「ある真実」が浮かび上がり…?
日常に居たつもりが、気づくと「日常とズレている瞬間」にいる。そんな感覚が面白くも恐ろしい!オカルト・ホラー漫画です。
感想・レビューまとめ
以上、原作:梨さん+漫画:景山五月さんの漫画『コワい話は≠くだけで。』感想・レビューでした。
全3巻というコンパクトな構成の中に、「ホラー・オムニバスとしての面白さ」と「ストーリーものとしての恐怖」が絶妙!に詰まった、新感覚オカルト・ホラー。怖い話を楽しんでいたら、いつの間にかその中心に自分がいた…!そんな恐怖体験を味あわせてくれます。
さて女性漫画家を包む不穏で不気味な空気は、果たして「ほんとう」となるのか…?
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