少数民族の少年は迫害により父母を失い、さらに最愛の姉を奪われんとする。その時!神は彼に「紙幣を生み出す能力」を与えた!
しかしその紙幣にはある問題がー?
尽きることのない人間の欲望を、訳のわからない迫力とちょっとの性癖(笑)を絡めて描く、異色の経済バトル・ファンタジー(?)。住吉九さんの漫画『ハイパーインフレーション』感想・レビューです。
連載は集英社の漫画アプリ「ジャンプ+(ジャンプラ)」で、全6巻完結。以下『ハイパーインフレーション』の主なあらすじや見どころなどをご紹介します。
『ハイパーインフレーション』あらすじ
ヴィクトニア帝国の奴隷狩りにより両親を失った、ガブール人の少年ルーク。
見殺しにした「神」に反発、民族の宝から低純度の金貨=贋金を作成し、村の振興を目論む。
しかしそこに、奴隷貿易を目論む大奴隷商人グレシャムが襲来!ルークは巫女である姉・ハルと奪われ、自身も殴られ気を失ってしまう…。
その時!彼の意識に「ガブール神」が降臨!「お前に力を与えにやってきた…」
その問いかけに「カネが欲しいッ!!世界を買えるカネをよこせッ!!」と強く願うルーク。
生殖能力と引き換えに、ヴィクトニアの紙幣「一万ベルク札」を体から無限に生み出す力を得る!
だがその金にはなんと、「通し番号がすべて同じ」という問題が…!
ルークは「贋札」の力で姉を救い、さらに野望を成し遂げることができるのか…?
『ハイパーインフレーション』感想・レビュー
「無限の贋札」による駆け引きが熱い!
かくして生殖能力と引き換えに、神から「無限の贋札」を作る力を与えられたルーク。
知恵を使って有象無象と渡り合っていく様が、『ハイパーインフレーション』で描かれていきます。
普通は「贋札」では何にも出来ないのでは?と思うところですが、贋札には贋札の「使い方」がある!
複数使わなければバレない!と賄賂に使ったり、通し番号を見られない工夫をしたり。
まがい物だが、アイデアによっては「本物以上の価値」を生み出す贋札を、知恵と度胸によって有効に使っていくという駆け引き・ギミックが、非常にユニーク。
ちなみに瞬間的に大量に出して、物理攻撃に対する防御に使ったりも。そんなんアリかい(笑)。
アクの強すぎるキャラクター
しかし金のパワーは、あらゆる力を吸い寄せる!
『ハイパーインフレーション』ではルークの能力を巡り、アクの強すぎる奴らが登場。
その行動原理は「カネを得ること」だけ。奇怪な風貌をした「大きな赤ちゃん」こと奴隷商人・グレシャム。
その忠実にして有能な部下で、ルークとは意外な友情を育んでいくフラペコ。
そしてガブール人でありながら帝国側につき、高い知能と驚異的な行動力でルークを苦しめる超人・レジャット。
彼らが神から与えられた特殊能力を使うルークと、時に敵対、時に協力関係を築きながら、肉体的バトル&頭脳バトルを繰り広げる様が面白い!
バイオレンスでありながらどこかコミカル、奇妙な迫力を持つ展開に、知らず識らずの内に引き込まれていきます。
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予想不能な個性と個性の衝突!
そんな『ハイパーインフレーション』。その面白さの源は、各キャラクターの行動原理と、そこから生まれる駆け引きと裏切りの応酬。
ルークは連れ去られた姉を取り戻し、ガブール人を救うために帝国と対等に渡り合いたい。
グレシャムはとにかくカネ!「いくら儲かるか?」でその進むべき道を決めていく。
そしてレジャットは「全ての人間は世界をより良くする義務を負っている!だがそれを行うのは高い能力を持っている俺だ!俺が世界を守る!」という唯我独尊男。
それぞれが持つ妥協できない信念・欲望と、そこから生み出される駆け引きと裏切りの応酬は、予想のつかない面白さ。
またそれらが、物語のベースにある「経済的価値観」と絡み合っていく様も、大きな見どころです。
さてルークの「無限の贋札」を生み出す能力、それがもたらすものは幸福か、それとも世界の破滅か…?
そして強すぎる個性と欲望が衝突、頭脳と暴力が支配するバトルに勝利するのは誰だ…!
レビューまとめ
以上、住吉九さんの漫画『ハイパーインフレーション』感想・レビューでした。
ややフェティッシュな表現、変態的なキャラクター、まあまあ過激なバイオレンスを含みながらも、ド直球なタイトルに違わぬ「経済的要素」が物語の根底に鎮座。
それら各要素が奇跡的に融合、不思議な魅力を生み出すとともに、最後まで濃い密度を保ったまま駆け抜ける!全6巻。
ちょっと、いやかなりクセが強いのですが、一度読み始めると止まらない面白さがあります。その独特過ぎる世界観を味わってみてください。
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