時代劇・歴史ものの良いところ。それはいつの時代に読んでも、色あせないおもしろさがあること。というわけで今回ご紹介するのは、岩明均さんの漫画単行本「雪の峠・剣の舞」。
岩明均さんと言えば「寄生獣」「ヒストリエ」「七夕の国」と、数多くの長編漫画をヒットさせている漫画家さん。全1巻の漫画としては「ヘウレーカ」が有名ですが、この「雪の峠・剣の舞」も見逃せない名作。岩明均さんらしさが詰まっています。
「雪の峠・剣の舞」レビュー
概要
単行本「「雪の峠・剣の舞」」は一つの長編ではなく、「雪の峠」と「剣の舞」という中編作品を2編、収録。いずれも実在した人物を主要キャラクターに据えています。
全4話からなる「雪の峠」の舞台は、関ヶ原の戦いののちの、徳川家康の時代。西軍についたために出羽に追いやられた佐竹家において、築城をめぐる老臣たちと近習・渋江内膳との静かな戦いを描きます。
全5話からなる「剣の舞」の主人公は、剣豪・疋田文五郎のもとを訪れた男装の少女・ハルナ。家族の仇討ちのため、剣の修行を志願する彼女に対し、文五郎は師・上泉伊勢守の考案した撓(しない・竹刀)を使って稽古をつける。果たして復讐の顛末はーというお話。
なお渋江内膳は渋江政光、疋田文五郎は疋田景忠・疋田豊五郎とも呼ばれます。
動乱後の「武士の戦い」
時代劇の魅力を形作るのは、やはり荒々しい武士の生き方。しかし「雪の峠」では刀を置いた武士たちの、静かな戦いが描かれます。
家康が世を統べる江戸時代初期、何をするにも中央の許可がいる時代。西軍についたことにより立場を悪くする佐竹藩の内部で、築城をめぐって静かに火花を散らす主君+若手家臣VS古参家老たち。
新しい時代を見据える人間と、老兵との対立。これってまんま現代の組織にも当てはまったりして、既視感を感じる方もいるかもしれません。「老害」なんて言葉がぴったりの古参家老たち。
しかしかつて命を賭けて戦場をかけまわった彼ら。古参家老たちにも言い分、譲れない挟持が。一方、若手家臣は「戦い方」を知らない、いやむしろ今が「戦い」そのものであることを認識できていない。
これもまた戦いなのだ―。
主人公・内膳がそれに気づいた時、物語が大きく動きます。知恵者である内膳の戦(いくさ)が、実に面白い。考えると、実は問題は老害なのではなく、戦う術を持たない・知らない若者なのかもしれません、なんてことを考えたり。
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少女の復讐と「竹刀」の誕生
もう一作、「剣の舞」も珠玉の出来。
心身ともに傷を負い復讐を誓う少女と、ひょうひょうとした性格ながら凄腕の剣豪のつかの間の交流を、竹刀の誕生を絡めながら描いた作品。ハルナは敵討ちを遂げることができるのか。そして文五郎は戦いに何を見出すのか。
「雪の峠」とは一変、合戦の様子も描かれより時代劇らしいおもしろさを持つ、見応えのある作品です。
まとめ
岩明均さんの「雪の峠・剣の舞」。「ヘウレーカ」などの作品同様、岩明均さんらしい独特の視点から描かれた時代劇漫画集です。知らない人は損してるなー、と個人的に思う作品の一つ。面白いのでぜひ手にとってみてください。
なお「雪の峠・剣の舞」は、残念ながら現在は電子書籍化されていません。単行本はKCデラックス アフタヌーン版と講談社漫画文庫版の二種類が刊行されていますので、お好みの方をどうぞ。
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