母を亡くした日本人少年は、見知らぬ叔母を頼って1万km以上離れたスペインへ。そこで彼を待ち受けるものは―。
福浪優子さんの漫画『あかねさす柘榴(ざくろ)の都』。少年が異国・スペインの地で送る新生活を訥々と描く、作者の初コミックです。
連載はKADOKAWAの漫画雑誌『ハルタ』で、全3巻完結。以下『あかねさす柘榴の都』が気になる方向けに、主なあらすじや見どころなどを基本ネタバレなしでご紹介します。
『あかねさす柘榴の都』あらすじ
スペイン人の母を亡くした14歳の少年・夏樹は、1万1千km離れた母の故郷・グラナダへ。
そこで彼を待っていたは、長身で少し無愛想な母の妹・アルバ。彼女と共にピソ(シェアハウス)で暮らすことになった夏樹は、異国の地で新たな一歩を踏み出していく―。
…以上が漫画『あかねさす柘榴の都』の導入部。以降、夏樹がアルバと暮らしながら、見知らぬ土地で徐々に自分の居場所を見つけていく姿が描かれていきます。
ちなみに”グラナダ”はスペイン語で「柘榴」の意を持つそう。
『あかねさす柘榴の都』レビュー
14歳、異国での新生活
身寄りを亡くし、足もとのおぼつかない状態の夏樹。スペイン語は話せるけど、ともに暮らすのはほぼ面識の無い叔母・アルバや、ピソの面々。
異国の地でのワクワクするような!…とは程遠い、14歳の手探りの新生活が始まります。
ドラマティックというよりは、夏樹の目を通して描かれるグラナダの風情、といったテイストの強い『あかねさす柘榴の都』。
青年誌にありがちな、「年上の叔母とのベッタリした交流」みたいな物語を期待すると、やや肩透かしを食うやもしれません。
甥と叔母の絶妙な距離感
が、意外に図太く生きる夏樹と、ぶっきらぼうながらも、内心では彼のことを気にかけるアルバ。
「甥と叔母」の間に流れる、ちょっと突き放すぐらいのカラッとした空気感が、「日本では無いどこか」の雰囲気とマッチしていてとても心地よい!
そしてアルバはじめ、グラナダに住む人々との交流を通して、亡き母の面影をその地に見出していく夏樹。その姿や胸の内が、読むうちに心にジワジワと染み渡ってきます。
しかしどうやら日本では、「家族」の楽しい思い出が少なかった感じの夏樹。スペインで新たな”家族”を得た彼はさて、どのように成長していくのか?
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情緒あふれる風景が素晴らしい!
そんなやや複雑な背景を持った夏樹ですが、アルバとの出会いを経て、徐々にスペインでの生活を楽しんでいくように。
その過程で彼の目を通して描かれる、柘榴の町・グラナダの風景が素晴らしい!
中世の面影が残る宮殿や町の教会などの歴史的建造物。キリスト教とイスラム文化が混ざり合う街並み。そしてそこに根を下ろし息づく人々…。
夏樹がその行動範囲を広げるたびに、視界に入ってくるグラナダの生活や文化。丁寧に描かれるそれらが、物語の優しい空気と相まって心に残ります。
読んでいると、日本を忘れて遠いスペインの町を歩いているかのような。そんな不思議な感覚を味あわせてくれる、異国情緒あふれる雰囲気が素敵な漫画です。
レビューまとめ
以上、福浪優子さんの漫画『あかねさす柘榴の都』のネタバレなしレビューでした。
情熱の国・スペインの片隅で静かに紡がれる、とても落ち着いた雰囲気の物語。遠い海の向こうに思いを馳せながら、じっくり味わいたい作品です。
ところで夏樹は劇中で、アルバのことを「叔母さん」ではなく「アルバ」と名前で呼ぶのですが、こういう絶妙な距離感にグッと来る…!
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