丸い円盤に魅せられて積み重ねた「好き」の気持ちが、やわらかく読み手に伝播していく。そんな「レコード愛」あふれる全2巻。
「レコードのジャケット感」ある判型が特徴的な、音楽ドラマ・ストーリー。毛塚了一郎さんの『音街レコード』(A面+B面)のネタバレなしレビューです。
『音街レコード』概要
作者の毛塚了一郎さんは、KADOKAWAのコミック誌「青騎士」で、レコードにまつわる「音楽のあるドラマ」をオムニバス的に描く『音盤紀行』を連載中。
その作者の同人作品『てれぴんレコーズ』を改題出版したのが、本作『音街レコード』全2巻(A面・B面)。
中古レコード店でアルバイトをする、芸術系の女子大生・実梨(みのり)を主人公に、「レコードのある日常」的な物語が優しいタッチで綴られていきます。
『音街レコード』のココが面白い!
レコードへの「好き」があふれるストーリー
販売用レコードの紹介文に悩んだり、店の裏手のベンチでポータブルプレーヤーに聞き入ったり、怪しげなレコード店に迷い込んだり…。
CDも聞くけれど、何より「音楽とレコード」が大好きな女子大生・実梨。そんな彼女が時に友人・礼子を巻き込みながら過ごす、レコード・ライフ。
緻密な描き込みによって作り上げられる「街のレコード店」の風景とともに、マイペースでレコードに関わっていく実梨たちの様子に、思わずほっこり。スローな雰囲気に漂う「好き」の気持ちに引き込まれていきます。
心地よい「レコードのある風景」
デジタル全盛の昨今において、音楽を楽しむにはやや手間がかかり、見方によっては「マニアックな趣味」という側面も持つレコード。
ですがことさら蘊蓄などマニアックさを前面に押し出すことなく、また他メディアと比較するでもなく、実梨たちの柔らかな愛情によって紡がれていく「レコードのある風景」。
その風景を眺めているうちに、レコードに針を落とした瞬間に訪れる、アナログ感あふれる音楽の世界に浸りたくなる…。独特の空気感がなんとも魅力的で、心地良さを感じます。
ホラー仕立てのエピソードも
そんな感じで、穏やか~に、のんびり~と物語が展開されていく『音街レコード』ですが、中にはやや毛色の異なるエピソードも。それがB面収録の『音霊ドライブ』。
怪我をした店長の代わりに、郊外のレコード・ストアに出張買取に向かう、実梨+臨時アルバイトの礼子。ロング・ドライブの末に、巨大な倉庫のような店舗に到着するが、そこで恐怖の体験を…?
前・中・後編という長めのボリュームで、『音街レコード』では異色なホラー仕立てのストーリー。音楽・レコードもちゃんと絡みながら、しかし予想外に本格的な怖さ、そして読後の余韻が面白い!
『音霊ドライブ(Ghostly Drive)』というタイトルに違わない、不思議なドライブ。アナログかつレトロなレコードだからこそ味わえる物語を、楽しんでみてください。
感想・レビューまとめ
以上、毛塚了一郎さんの漫画『音街レコード』感想・レビューでした。
レコードジャケット風の四角い判型、A面・B面というナンバリングなど、随所に工夫を凝らした本作。ちょっと懐かしさを感じる絵柄とも相まって、漫画でありながら「レコード感」を存分に感じます。
またレコードストアの店内など、作中の随所で描かれる「レコードのある風景」にも注目。緻密で丁寧な描写が、読み手をレコード愛あふれる世界へ誘ってくれるでしょう。
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