漫画家・士郎正宗(しろう・まさむね)さん。アニメ・実写映画化された『攻殻機動隊』で、その名を知る方も多いでしょう。
『アップルシード(APPLE SEED)』は、それ以前に発表されたSFアクション漫画。士郎正宗の名を世に知らしめた作品です。
第1巻の刊行から30年以上(!)経ちますが、近未来を描いたその内容は、今読んでも斬新。リアリティあふれる、ミリタリー・ポリス系アクションが魅力のSF漫画です。
以下、『アップルシード』の主なあらすじや見どころなどをご紹介します。
『アップルシード』あらすじ・概要
『アップルシード』の舞台は22世紀、第5次非核大戦後の世界。
元特殊部隊の女性デュナン・ナッツと、そのパートナーであるサイボーグ・ブリアレオスが主人公。
廃墟で生活していた二人は、バイオロイド・ヒトミに誘われ、大戦後の世界を影響下に置く「オリュンポス」へ移住。
以降、ESWAT(警察+特殊部隊のようなもの)として任務につく二人が、オリュンポス内外の事件や陰謀に関わっていく―
…というのが、『アップルシード』の主なあらすじ。士郎正宗氏のメジャーデビュー作品で、青心社より単行本4巻+αが刊行されましたが、未完。
現在は、KADOKAWAより再刊行された電子版を、読むことができます。
なお『攻殻機動隊』の世界は、『アップルシード』の100年前(漫画の発表は『アップルシード』の方が先)。
同一世界観に存在する両作品ですが、それぞれの物語は独立しており、関連はありません。
『アップルシード』のココが面白い!
『アップルシード』の衝撃
青心社版第1巻『アップルシード プロメテウスの挑戦』の刊行は、1985年。
当時「作画の描き込みがスゴイ」というのが、その世界観とともに話題になっていた記憶があります。
また描き込みだけではなく、重厚にして複雑なSF世界観、専門的な知識にあふれる特殊部隊の描写、アニメ層に親和性の高いキャラクターなど、多彩な魅力を内包。
初めて『アップルシード』を読んだ時、「これは他のSF漫画とは一味違う…!」と衝撃を受けました。
なお確かにスゴイ描き込みなのですが、今読むと1~2巻では若干ゴチャつきも感じます。
しかしそれも3・4巻と巻を重ねるに連れて、より洗練されたものに。士郎正宗氏の画力が上がっていく過渡期の作品と言えるでしょう。
緻密なアクション描写
『アップルシード』が、特に他の漫画と一線を画しているのが、専門的な知識に裏打ちされたアクション描写の数々。
2巻冒頭、SWATの突入シーン。ミラーを使って死角の安全確認をするデュナンや、実際の兵士や特殊部隊の動き方が、劇中で緻密に描かれます。
3巻のメインとなる、オリュンポス特殊部隊の制圧作戦。強化外骨格を装着したデュナンらが、ターゲットのアジトへ突入。インドアで部隊がいかに動くのか?がつぶさに確認できます。
4巻、閉鎖空間で複数の敵と、ガン&ナイフで格闘するデュナン。人数的にも、体格的にも不利、しかも片目負傷というハンデも。その中で彼女が見せる、息をもつかせぬアクションが圧巻!
専門的な知識による裏打ちと、確かな画力で描かれる『アップルシード』のアクション・シーン。一度触れると、他作品の「リアル」に対する見方にも、影響を及ぼします。
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パワードスーツ「ランドメイト」の存在感
アクションとともに、『アップルシード』の世界観を形作るのが、パワードスーツ「ランドメイト(LM)」の存在。
3巻表紙で、主役二人の後ろに多数配置されている、モコモコしている人型がLMです。
強化外骨格、マニューバスレイブ、パワードトレーサーなどとも呼称される、パワードスーツの一種LM。
人間の約2倍程度の大きさで、「搭乗する」というよりは「着込む」もの。人間の動きをトレースし、力を増幅させる、というのが大きな特徴。
刊行当時、洋画やアニメ・漫画などで、パワードスーツを描く作品が多数登場していましたが、『アップルシード』での描写はデザイン含め、非常にリアリティのあるものでした。
サイボーグ犯罪や特殊任務に用いられるランドメイト。その迫力あるアクションが、『アップルシード』の世界で、大きな存在感を放っています。
SF観あふれるストーリーが面白い!
そしてリアリティのあるアクション要素に支えられた、緻密にして複雑な世界観から産み出されるSFストーリーが、『アップルシード』の真骨頂。
混沌に包まれる大戦後の世界で、理想郷にならんとするオリュンポス。そこでは様々な思惑が錯綜し、そして事件が起きます。
その中でも特にSF感を感じるエピソードが、2巻『プロメテウスの解放』。
「人間のために働く(労働の意では無い)」ことを第一義とする、人造人間・バイオロイドたち。
議会にて、「人間の平和」を維持するためには、「人間の(心の)制御が必要だ」との結論に達する。
それを知った、オリュンポスを統治する巨大コンピューター「ガイア」は、人間のために「バイオロイドの排除」を決議。
多脚砲台(カニ足を持つ巨大砲台)を独自の判断で操作、オリュンポス内のバイオロイドに攻撃を仕掛けてくる。
混乱に陥るオリュンポス。人間であるデュナンとブリアレオスは、どのような行動をし、決断を下すか?というストーリー。
バイオロイドとコンピューター「ガイア」。ともに人間のための存在でありながら、一方は人間の意思の抑制を唱え、また一方ではそれが危険であると判断する。
「人間の幸福を追求するがゆえ」に起こった騒乱、というSF感あふれる背景に、面白みがあります。
現在ではAI(人工知能)が重要な存在となり、各種判断を委ねるケースも現実的になってきましたが、現状を一歩先取りしたかのような内容。緊迫感あふれるSFストーリーが楽しめます。
感想・レビューまとめ
以上、士郎正宗さんのSFアクション漫画『アップルシード』感想・レビューでした。
魅力的なキャラクター、リアリティのあるアクション、SF心をくすぐるストーリーを持つ作品。今読んでも確実に面白い!作品です。
なお『アップルシード』は、単行本4巻とプラスアルファのストーリー(『アップルシード ハイパーノート』収録)が刊行されていますが、物語全体としては残念ながら未完。
ですが1~4巻それぞれのストーリーは、それぞれの巻で完結しているので、中途半端な印象はあまり受けないでしょう。むしろ、一巻一巻に読み応えがあって面白い。
士郎正宗作品は『攻殻機動隊』しか知らない、という方に特にオススメな『アップルシード』。読むとその世界観に打ちのめされること必至!SF作品を見る目がより広がるでしょう。
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