士郎正宗氏原作のSF漫画「攻殻機動隊」。押井守監督によってアニメ映画化されたのが1995年。
「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX」「攻殻機動隊ARISE」などのアニメをはさみ、20年以上の歳月を経てスカーレット・ヨハンソン主演でハリウッド映画化。
さらに新作アニメーションの制作が発表されるなど、今も世界に多大な影響を与え、根強い人気を誇る作品です。
単行本発売は1991年(!)。連載はヤングマガジン海賊版でした(今はもうないのかな?)。
本誌の増刊的な扱いとはいえ、どちらかと言えば硬派な作品が多いヤンマガ。あの「アップルシード」の士郎正宗が、しかも連載(3ヶ月に1回)を持つなんて…。
と、当時おどろいたのを覚えています。
印象的なシーン
そんな攻殻機動隊。劇中では大多数の人間が「電脳化」をしています。
簡単に言うと、脳をネットに直接つなげることができる。それによって人間の情報処理能力が飛躍的に上がった、ということ。
また主人公・草薙素子(少佐)はじめ多くの登場人物は、全身または体の一部を「義体」に置き換えています。
そのようなサイボーグ化技術が普及して当たり前の21世紀、という世界観。当時、漫画を読んでいて「おぉっ」と感じた描写がありました。
草薙が光学迷彩で闇夜に消えるところ?
あれはインパクトありましたね。でも違います。
同じく草薙が人形使いにダイブする描写?
あれも衝撃的な描写。でも違う。
私が1番衝撃的だった描写は、ウィリスという初老のドクターが、人形使いを調査するために9課のラボを訪れた時のシーンです(電子版P247)。
電脳化の闇
ドクターウィリスは自身の義体化した両手を展開(10本の指がさらに細かく分かれる)し、端末を高速で操作します。なぜ彼は脳をネットにつながず、アナログな方法を取るのか?その時の注釈がこちら。
この物語世界で彼の様な世代は自分の子どもぐらいの電脳医師に脳をいじられたくないという理由で、電脳直結化していない事が多い。
ただそれでは世の中渡って行けないので、サイボーグ化によってギャップを埋めるべく努力している。
彼はその一例。
地味~な描写をチョイスしてごめんなさい(笑)。でもこのシーン、今でも印象的なんです。「攻殻機動隊」の世界観を作り上げている小さな1ピースのような感じがして。
義体化が当たり前の世界ですが、脳をいじられることに信頼がおけない、と考える人間も当然いる。
「電脳化」「義体化」とSF世界では簡単に言いますが、考えたら怖くないですか?
仮に自分の脳をまるまる義体に移植して、目覚めたとする。その時、「自分が自分である証明」ができるのか?
そんな懸念も、ちゃんと本編「メイキング・オブ・サイボーグ」の草薙のセリフで表現されています。
私時々「自分はもう死んじゃってて今の私は義体と電脳で構成された模擬人格なんじゃないか?」って思う事あるわ
「メイキング~」はサブの話なので、ここでは笑い話としてサラッと扱われています。が、決して不自然な考え方じゃない。
脳とネットが直結できる世界。「脳をハッキングされて嘘記憶を埋め込まれた。回復の見込みはほぼ無し」なんて描写もあって、そりゃ脳を人にさわられたくないのもさもありなん、です。
原作の魅力
今なお広がりを見せる「攻殻機動隊」ですが、話題を聞くたびに上記のシーンを思い出します。こういう細かい描写が積み重なって、リアルな世界観を作り上げているんですね。
ブログに書くにあたって漫画を見直しましたが、リアルな描写と映像作品にはないユーモアが混ざりあって、いかにも士郎正宗作品らしい楽しさがあります。
電脳化がもたらした知覚の飛躍的な発達。その先にあるのはユートピアか、それとも?「THE GHOST IN THE SHELL」というサブタイトルと合わせて、SF的想像を掻き立てられます。
発表年を見るとあの「エヴァンゲリオン」よりも前である「攻殻」。しかし未だに古さを感じさせない良作SFコミックです。
原作を読んだことがないという方は、一度ご覧になると、攻殻機動隊の世界をより深く理解できるのでは。
「攻殻機動隊2」では、その後の草薙素子の活躍が描かれます。今となっては映像とは別次元のお話ですね。。
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