SF漫画漫画感想・レビュー短編漫画集

漫画『放浪世界』感想―SF『虚無をゆく』ほかバラエティ豊かな短編集

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『惑星のさみだれ』『スピリットサークル』など、魅力的な漫画を輩出し続ける漫画家・水上悟志さん

2017年末に発表されたSF短編『虚無をゆく』が話題となりましたが、同作を収録した短編集『放浪世界』がリリースされました。

SF作品『虚無をゆく』に加え、現代劇・時代劇風など、バラエティ豊かな短編全5編を収録した『放浪世界』。水上悟志さんらしさ、そしてその引き出しの多さを、存分に堪能できる漫画作品です。

水上悟志短編集『放浪世界』各話レビュー

水上悟志短編集「放浪世界」 (ブレイドコミックス)水上悟志:マッグガーデン

『放浪世界』に収録されている全5編の短編漫画レビュー。順番は掲載順です。

竹屋敷姉妹、みやぶられる

双子であることを楽しむ、「双子が趣味」の双子姉妹。究極の目的は、入れ替わりがわからないくらい「同一人物化」すること。しかし彼女たちを見分ける男子があらわれて…?というお話。

双子が主人公の話は、似ているがゆえにそのアイデンティティーの確立に苦心する、というパターンが多いもの。ですが逆に、「とことん似せよう」とする発想がユニーク。

そして「同一人物化」に一石を投じる存在があらわれて、双子の世界に少しさざなみが立っていく様子が面白い。読んでいると次第に頬がゆるんでくる、ほんわか現代劇。

まつりコネクション

人間の頭の上を住処とする「小さな宇宙人(ドワーフ)」たちと、その存在がなぜか視える女性。特に大きな事件は起こらないけれど、その不思議な日常を描いた作品。

実は私たちのまわりにも気づかないだけで、「不思議なもの」が存在しているのかもしれない

そんな想像をほんわかと掻き立ててくれる、ファンタジックなSF。水上悟志さんの奥さんがデザインしたという、可愛らしいドワーフたちが魅力の短編。

今更ファンタジー

老婆からもらった不思議なランプ。そこから出てきた「ランプの精」、お金系・恋愛系以外なら3つまで願いを叶えると言う。

「子どもの頃の夢」の実現を願ったサラリーマンは、勇者となってラスボスと戦うことに?というコミカルなファンタジー

勇者となった主人公の姿が、「ぼくのかんがえたさいきょうのゆうしゃ」だったり。パートナーとなるべく出現した女の子が、萌え・ツンデレ・クールなお姉さま風の全部乗せだったり。

10代の頃の妄想を「全部乗せ」したらこうなる、というファンタジーのパロディ的な展開がユニーク。

そして「世界を救う選ばれし者になる」という夢を叶えるため、ラスボスと戦う主人公。しかし迎える展開・オチが斜め上で笑ってしまったw。『虚無をゆく』と同じくらい好きな作品。

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エニグマバイキング

バケモノを食う商売「闇食い」の男と、彼に毒味役として買われた少女。二人が金持ちのお家騒動に巻き込まれ、命を狙われるが…、という物語。

タイトルは横文字だけど時代劇。プラス、ファンタジーでもあり、さらにグルメ(?)漫画。手慣れた時代描写は、多彩な作品を描いている水上悟志さんならでは。16Pという決して多くはないページ数で、オリジナルの世界観を構築し物語を成立させているのがスゴイ。

ところでストーリーも面白いのですが、多くのシーンで何かを食べているのが印象的。少女・みやこが、1ページ全部でひたすら肉を食っているシーンは必見。

虚無をゆく

家族や友人に囲まれて笑顔の絶えない少年・ユウ。彼の住む団地の外には虚無が広がり、年に1・2回「怪魚」が襲来する。そんな彼が暮らす世界は実は…というSF短編。

団地の平和な描写に少しずつ違和感を混ぜ、そこで現れる怪魚のインパクトたるや!

全74ページという、短編としては多めのボリューム。しかしながら間延びすることなく詰まったその内容、実に読み応えあり。いろんなSF要素をうまく組み合わせて、それでいて他にはない独特の世界が練り上げられています。

団地の外に広がる虚無と、主人公の内面に生じる虚無。ユーモアを混じえながら描かれるその壮絶な人生。そして虚無を抱えた物語はどこへ行き着くのか?短編とは思えない存在感を放つ作品。文句なしのおもしろさです。

水上悟志短編集『放浪世界』全体感想・レビュー

以上、水上悟志短編集『放浪世界』の各話レビューでした。それを受けて全体的な感想など。

『惑星のさみだれ』『スピリットサークル』『戦国妖狐』など、数々の長編漫画を描いてきた水上悟志さん。短編集も複数札を刊行しており、この『放浪世界』は4冊目。各話を読んで、その作風の多彩さを見せつけられました。

現代劇、ファンタジー、時代物、そしてSFと、水上さんがこれまでに積み上げてきたものがふんだんに詰まっている本作。各話とも短編ながら、すぐにでも長編のベースや第一話となりそうなポテンシャルを持っています。

特に『エニグマバイキング』は短編で物語が完結しながらも、まだまだその世界の続きを読んでみたい!と思わせる魅力あり。注目の『虚無をゆく』もじっくり読み込めるSFで、短編集の枠を超えた読み応えを与えてくれます。

既存のファンはもちろん、水上悟志さんの漫画を読んだことが無い方は特に、その作風を存分に味わえる一冊。多彩な冒険世界を放浪してみてください。

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