水上悟志短編集「放浪世界」―SF「虚無をゆく」他、水上漫画の魅力が詰まった全5編

「惑星のさみだれ」「スピリットサークル」など、魅力的な漫画を輩出し続ける漫画家・水上悟志さん

2017年末に発表されたSF短編「虚無をゆく」が話題となりましたが、同作を収録した短編集「放浪世界」がリリースされました。

SF作品「虚無をゆく」に加え、現代劇・時代劇風など、バラエティ豊かな短編全5編を収録した「放浪世界」。

水上悟志さんらしさ、そしてその引き出しの多さを、存分に堪能できる漫画作品です。

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水上悟志短編集「放浪世界」各話レビュー

水上悟志短編集「放浪世界」 (コミックガーデン)著者:水上悟志出版社:マッグガーデン発行日:2018-01-10

「放浪世界」に収録されている全5編のレビューです。順番は掲載順です。

竹屋敷姉妹、みやぶられる

双子であることを楽しむ、「双子が趣味」の双子姉妹。究極の目的は、入れ替わりがわからないくらい「同一人物化」すること。

しかし彼女たちを見分ける男子があらわれて…?というお話。


[水上悟志 著 マッグガーデン「水上悟志短編集『放浪世界』」より引用]

双子が主人公の話は、似ているがゆえにそのアイデンティティーの確立に苦心する、というパターンが多いもの。

ですが逆に、「とことん似せよう」とする発想がユニーク。

そして「同一人物化」に一石を投じる存在があらわれて、双子の世界に少しさざなみが立っていく、のがおもしろい。

読んでいるとなぜか頬がゆるんでくる、ほんわか現代劇。

まつりコネクション

人間の頭の上を住処とする「小さな宇宙人(ドワーフ)」たちと、その存在がなぜか視える女性のお話。

特に大きな事件は起こらない、不思議な日常を描いた作品。

実は私たちのまわりにも、不思議なものが存在しているのかもしれない。気づかないだけで。

そんな想像をほんわかと掻き立ててくれる、ファンタジックなSF。水上悟志さんの奥さんがデザインしたという、ドワーフたちがカワイイ。

今更ファンタジー

老婆からもらった不思議なランプ。そこから出てきたのは、お約束のランプの精。お金系・恋愛系以外なら、3つまで願いを叶えると言う。

「子どもの頃の夢」の実現を願ったサラリーマンは、勇者となってラスボスと戦うことに?というコミカルなファンタジー

勇者となった主人公の姿が、「ぼくのかんがえたさいきょうのゆうしゃ」だったり。

パートナーとなるべく出現した女の子が、萌えとツンデレとクールなお姉さま風の全部乗せだったり。

10代の頃の妄想を「全部乗せ」したらこうなる、という、ファンタジーのパロディ的な展開がおもしろい。

そして「世界を救う選ばれし者になる」という夢を叶えるために、ラスボスと戦う主人公。

しかし迎える展開が斜め上で笑ってしまったw。オチも良い。「虚無をゆく」と同じくらい好きな作品。

エニグマバイキング

バケモノを食う商売「闇食い」の男と、彼に毒味役として買われた少女

二人が金持ちのお家騒動に巻き込まれ、命を狙われるが…、というお話。


[水上悟志 著 マッグガーデン「水上悟志短編集『放浪世界』」より引用]

タイトルは横文字だけど時代劇。プラス、ファンタジーでもあり、さらにグルメ(?)漫画。手慣れた時代描写は、いろんな作品を描いている水上悟志さんならでは。流石。

ストーリーもおもしろいのですが、多くのシーンで何かを食べているのが印象的。1ページ全部を使ってひたすら、少女・みやこが肉を食っているシーンは必見。

ところで16Pという決して多くはないページ数で、オリジナルの世界観を構築して物語を成立させているの、スゴすぎる。

虚無をゆく

家族や友人に囲まれて笑顔の絶えない少年・ユウ。彼の住む団地の外には虚無が広がり、年に1・2回「怪魚」が襲来する。彼が暮らす世界は実は…というSF。

団地の平和な描写に少しずつ違和感を混ぜ、そこで現れる怪魚は、インパクト大。


[水上悟志 著 マッグガーデン「水上悟志短編集『放浪世界』」より引用]

全74ページという、短編としては多めのボリューム。しかしながら間延びすることなく詰まったその内容、実に読み応えあり。

いろんなSF要素をうまく組み合わせて、それでいて他にはない独特の世界が練り上げられています。

団地の外に広がる虚無と、主人公の内面に生じる虚無。ユーモアを混じえながら描かれるその壮絶な人生。そして虚無を抱えた物語はどこへ行き着くのか?

短編とは思えない存在感を放つ作品。文句なしのおもしろさです。

全体感想

以上、水上悟志短編集「放浪世界」の各話レビューでした。それを受けて全体的な感想など。

「惑星のさみだれ」「スピリットサークル」「戦国妖狐」など、数々の長期連載漫画を描かれてきた水上悟志さん。「放浪世界」は4冊目の短編集とのこと。

各話を読んで、その作風の多彩さを見せつけられました。現代劇、ファンタジー、時代物、そしてSF。本書には、水上さんがこれまでに積み上げてきたものがふんだんに詰まっている、という印象。

そして各話とも短編ながら、すぐにでも長編のベースや第一話となりそうなポテンシャルを持っています。

特に「エニグマバイキング」は短編で物語が完結しながらも、まだまだその世界の続きを読んでみたい!という魅力があります。

そして注目の「虚無をゆく」。じっくり読み込めるSF作品を最後にもってくる構成がニクイ。短編集ながら、読み終わると思わずフーッと長い息が出る、そんな読後感です。

水上悟志さんのファンはもちろん、水上さんの漫画を読んだことの無い方にオススメの短編集。その冒険世界を放浪してみてください。

水上悟志短編集「放浪世界」 (コミックガーデン)著者:水上悟志出版社:マッグガーデン発行日:2018-01-10

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