「メタモルフォーゼの縁側」1巻―BL漫画で繋がった交流を通して描かれる「好き」

don’t like this」がとても良かったので、その流れで読んだ鶴谷香央理さんの「メタモルフォーゼの縁側」。BL漫画を通じて交流する、女子高生と老女のお話です。

これもまた「don’t like this」に負けず劣らず、人物描写と作中に流れる空気が絶妙な、読ませる漫画でした。

あらすじ

夫に先立たれ、書道教室を営みながら一人暮らしをする老女・市野井雪。立ち寄った書店で、表紙に惹かれてBL(ボーイズ・ラブ)漫画「君のことだけみていたい」を、それと知らずに購入。その物語にハマってしまう。

その雪の買い物をレジ応対した、書店バイトの佐山うらら。「君のことだけ~」を始め、BL漫画を愛する女子高生。大きな悩みは無いが、人付き合いがうまく出来ないことを少し気にしている。

二人は書店でのやり取りを通じ、やがてプライベートでもBL漫画について語る仲に。年齢差のある「友人」同士の交流が、やさしく、丁寧な筆致で描かれます。

メタモルフォーゼの縁側(1) (カドカワデジタルコミックス)鶴谷 香央理:KADOKAWA / 角川書店
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BLにハマる75歳

第一話で「きれいな絵」という理由だけで、何気なしにBL漫画を買う雪。

鶴谷香央理「メタモルフォーゼの縁側」1巻
[鶴谷香央理 著 KADOKAWA/角川書店「メタモルフォーゼの縁側」1巻より引用]

夜、寝床でパラパラめくると、男の子同士のキスシーンが出てきて頬を赤らめる。しかしその漫画の虜になり、続きが気になって仕方がなくなる様子。

この、人が「何か」に出会い、そしてそれをとてつもなく好ましく思うようになる瞬間。

わかりみある。

年齢とか、対象とか関係なく、偶然の出会いからハマっていく様子。特に漫画好きならば、ものすごく共感できるものがあるのでは。

「好き」を共有したい女子高生

一方、もともとBL漫画好きな書店バイトの女子高生・うらら。幼馴染の男子・紡とは普通に会話できるけど、学校では人見知りがち。

友達同士が共通の「好き」で盛り上がる光景を見て、「私もあんなふうに好きなものの話で盛り上がったりしたい」と思うが、踏み出せない。

鶴谷香央理「メタモルフォーゼの縁側」1巻
[鶴谷香央理 著 KADOKAWA/角川書店「メタモルフォーゼの縁側」1巻より引用]

わかりみある。

両親は別居しているけど、特に大きな悩みはない。ただ、好きを共有できている同級生たちが、少しまぶしく見える。やや内向的な彼女が抱えている内面のモヤモヤが、コマから滲み出てきます。

「好き」の描き方が絶妙

そんな雪とうらら。書店で「君のことだけみていたい」に関するやり取りをするうちに、お茶をして、漫画のことを語る仲になっていきます。

祖母と孫くらい年は離れているけれど、同じ趣味について熱く語れる、友だちのような、同士のような。同じBL漫画が好き、という以外は何の縛りもない、少し不思議だけど素敵な関係に。

鶴谷香央理「メタモルフォーゼの縁側」1巻
[鶴谷香央理 著 KADOKAWA/角川書店「メタモルフォーゼの縁側」1巻より引用]

BL漫画の展開について、マジメに語る二人。登場人物を「おじいさんと同じタイプ」なんていうのが75歳らしいのですが(笑)、そこにはただ「好き」があるだけ。

「メタモルフォーゼの縁側」では、そんな「好き」を持つ二人の繋がりが、ゆったりと描かれていきます。

「don’t like this」でも感じたのですが、作者の鶴谷香央理さんは「好き」、そしてその「好き」の先に広がっていくものを描くのが、絶妙にウマイ。

亡くなった夫のことを毎日思いつつも、新しい「好き」を楽しむ雪。

自分の中に溜め込んでいた「好き」を、少しずつ開放していくうらら。

始まったばかりの二人の交流。ややぎこちなさを漂わせつつも、目が離せない微笑ましさが。そしてそんな二人を見ていると、自分の中にある「好き」をくすぐられて、何だか不思議な心地よさを感じます。

うららの世界の広がり

「メタモルフォーゼの縁側」1巻。人物の表情や雰囲気・距離感、「間」の描き方がものすごく味わい深く、繰り返し読み込める魅力のある漫画でした。

題材の一つであるBL漫画については、苦手な人もいるかもしれません。私もそれほど得意な分野ではないのですが、ライトに描かれているので苦手な人でも大丈夫でしょう。

むしろそれを気にして読まないのは損!と言い切れるクオリティ。特に内向的な主人公・うららの世界が少しずつ広がっていく様、柱の影からそっと見守りたくなるような気持ちになります。

2巻では「君のことだけみていたい」の作者・コメダ優も登場、さらに気になる展開も。オススメの一作です。

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