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漫画『たそがれたかこ』―素敵な痛々しさが駆け抜ける物語

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45歳・バツイチ・子持ちの中年女性の、ささやかにして大胆な冒険。

2017年に完結した入江喜和さんの漫画「たそがれたかこ」を読みました。単行本は講談社BE・LOVEコミックスより全10巻が刊行されています。

「たそがれたかこ」レビュー

あらすじ・概要

アパートの大家である母と二人暮らしでパート勤務。コミュニケーションは少し苦手。バツイチで、中学生の一人娘・一花(いちか)は父親の元で暮らす。最近、夜はなぜか涙が出る―。

主人公はそんな独身女性・片岡たかこ45歳。一般的、とは言えないまでも、近年は特に珍しくもないステータス。趣味なし・特技なし・生活には困っていないけど、自分に自信がなく、生きがいもない―

そんな「ないないづくし」の女性がバンド「ナスティインコ」との出会いをきっかけに、少しずつ変わり、その世界を広げていく、というのが「たそがれたかこ」の大まかなあらすじです。

たそがれたかこ(1) (BE・LOVEコミックス)入江喜和:講談社

たかこの「出会い」

偶然知り合いになった居酒屋店主・美馬やその甥・公平らと、徐々に交流を深めていくたかこ。そしてある日偶然聞いたラジオから流れる、駆け出しバンド「ナスティインコ」のボーカル・谷在家光一のトークに心をわしづかみに。

ラジオの向こうの青年に文字通り「恋をした」たかこ。そのせいか、その言動や行動が少しずつ変化。以前よりは明るくなり、誰かと話すことも。そして思い切って髪を黒から明るいカラーして「イメチェン」。アパートの住人でナスティ好きの中学生男子・碧海(オーミ)とも仲良くなる。

このたかこの「変化」。読んでいて気恥ずかしさもありながら、なぜか感じる心地よさ。どんな物語もそうですが、誰かの世界が開けていく様を見ると、読み手も心が軽くなるような、そんな爽快さを感じます。

ライブバージンを打ち破る

個人的な前半のハイライトは、たかこがナスティインコのライブに一人で初参戦するところ。

今までライブというものに行ったことがない、ライブバージンなたかこ。美馬の店の常連などから親身なアドバイスを受け、いざライブ会場へ。

若者だらけの雰囲気にのまれつつも、いざライブが始まり憧れの谷在家の歌声を聞くと、たかこの姿は学生時分のものに(イメージ)。

ライブを聴きながら、これまでの人生を走馬灯のように振り返る。気付くと顔は涙でいっぱい、そして無性に拍手をしているたかこ。

人生下り坂の人間が、「生きてる」ことを実感するシーン。胸を打つものが。いくつになっても新しいことに出会いチャレンジするのは素敵なことだ、と感じさせてくれます。

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不登校になった娘との向き合い

そんなたかこ個人の成長と並行して、一人娘・一花の不登校問題が「たそがれたかこ」で描かれます。

元夫(再婚済み・妻は妊娠中)の下で暮らす一花は、時折たかこと祖母のところへ遊びに来る生活。しかし不登校となり、たかこのところへ身を寄せるように。

不登校となった理由は不明なのですが、拒食症となり徐々にやせほそっていく一花。この様子が実に痛々しい…!見ていて息をのむ辛さ。

一向に改善の兆しが見えない拒食症。自身も不登校となった経験のあるたかこはしかし、娘に何も聞くことはなく、ただ寄り添うように努めます。

このたかこの姿勢がすごく印象的。中学三年生という進級に大事な時期に、身の施し方を迫る夫に対し、娘のためになることを模索する母

本作ではたまたまそうなだけで、決して父=悪・母=善という構図ではありませんが、私も親なので、たかこの気持ちを想像するとなぜか涙が…。

賛否両論のラスト

そんな漫画「たそがれたかこ」。最終10巻では「痛い」展開が。ネタバレなしブログなので詳細は避けますが、とにかくたかこの行動がイタイ

その行動をした方が良いか、しない方が良いか、ということであればしない方が良くって、かつ45歳だったらなおさらしないであろう、ということをしてしまう彼女。

このたかこの行動には賛否両論あるようです。

個人的にもたかこの行動については「無いなー」という感想ですが、しかしおそらく、作者の入江喜和さんは、それでも、この展開を書きたかったのではないだろうか、と想像します。書かない方がキレイにおさまるであろうことを、あえて書く。

徐々に自身の世界を広げてきた主人公・たかこ。そのたかこが、最終局面を迎えてその選択肢を取らないはずがないだろう!それが痛いものだったとしても、それこそが人生が変わったたかこの「ゴール」である。そんなメッセージを感じました。

いろんな意味で衝撃を受けた、しかし心に何か残るものがあるラストです。

まとめ

以上、入江喜和をさんの漫画「たそがれたかこ」全10巻のレビューでした。中年女性をひたすら描いた全10巻。いろんな意味で稀有な漫画と言えるでしょう。

1巻前半は正直、どんよ~りとしていて「大丈夫か、この漫画…?」と少し心配になったりもしましたが(笑)、2・3巻と巻を重ねていくにつれてグイグイと読み手を引っ張ってくれる物語。惹きつけられました。

たそがれ風味で階段を登るたかこと、ギターを持って満面の笑顔を見せるたかこ。1巻と最終10巻の表紙が、たかこに起こった人生の変化を物語っているようです。

入江喜和さんの既刊はこちら
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