「違国日記」1巻―叔母と姪。二人の女性の手探り同居生活

期待して読んだら、期待をおそろしく超えるおもしろさでした。ヤマシタトモコさんの漫画「違国日記」第1巻。

ある日突然一つ屋根の下に住むことになった、35歳の小説家と15歳の姪。二人の女性がお互いの距離を不器用に測りつつ、その世界が変わっていく様が、丁寧な筆致で描かれます。

スポンサーリンク

「違国日記」1巻レビュー

二人の出会い

少女小説家・高代槙生(こうだい・まきお)。折り合いの悪かった姉・実里(みのり)と、その内縁の夫の交通事故死を知り、中学三年生の娘・田汲朝(たくみ・あさ)と、幼少時以来の再会を果たします。

ヤマシタトモコ「違国日記」1巻
[ヤマシタトモコ 著 祥伝社「違国日記」1巻より引用]

呆然自失で今ひとつ現実感を持てない朝。コーヒーショップで彼女に向かい合う槙生は、一つのアドバイスを送ります。

「日記を…つけはじめるといいかも知れない
この先 誰があなたに何を言って
…誰があなたに何を言わなかったか」

タイトルにも含まれている「日記」というワード。物語を形作っていく、重要なポイントです。

槙生の決意

葬儀の席で、朝の処遇を相談する親族たち。そこでお約束のように起こるたらい回し。醜悪な空気に業を煮やした槙生は、朝に向かって毅然と告げます。

「あなたを愛せるかどうかはわからないが、わたしはあなたを決して踏みにじらない。それでもよければずっとうちに帰ってきなさい」

ヤマシタトモコ「違国日記」1巻
[ヤマシタトモコ 著 祥伝社「違国日記」1巻より引用]

朝は槙生と暮らすことを選択し、かくして歳の離れた二人の共同生活が始まります。

ここで「たらい」という漢字に関するエピソードが描かれるのですが、ヤマシタトモコさんらしいユーモアがあふれていてインパクトあり。「違国日記」1巻の中でも印象的なシーン。

歳の差女性二人の同居生活

確執のあった姉の子ども、かつ、血縁で無いかもしれない(という話のある)姪を引き取った少女小説家。

多感な時期に両親を亡くし、右も左もわからぬままに、ほぼ面識の無い叔母のもとへ転がり込んだ少女。

そんな二人が成り行きからはじめた同居。ドタバタするでもなく、ことさら悲壮感を煽るでもなく、淡々と、しかし丁寧に、二人の新生活が描かれます。

書籍の帯や紹介では「女王と子犬」のような、歪な上下関係を匂わすキャッチコピーが付けられています。が、少なくとも1巻を読んだ時点ではそんな雰囲気は感じませんでした。むしろしっとりとした人間ドラマ。

お互いに距離感を測りかねている二人の女性が、ぎこちなくも少しずつその生活を形作っていく。丹念な描写の積み重ねによって、世界が構築されていく様は、読み応えがあります。

槙生の「エポック」

衝撃的な出来事から、その環境を一変させた朝。一方、彼女を引き取ることになった槙生の在り方もまた、印象的。

嫌いな姉の子どもに向かって「愛せるかわからない」と言い切ったり、しかし勢いで彼女を引き取った後に、自分が人見知りであったことを思い出したり(笑)。

掃除は苦手、料理も適当、職業柄ほとんど外出せずに家で仕事をこなす彼女。人嫌いなのか?と思わせられるも、時に朝に対する半端のない思慮深さを見せます。

食事に気を遣ったり、日記の書き方についてアドバイスしたり、自分と暮らすことによって与える影響を心配したり。

その接し方は人との距離感を測るのが苦手なゆえか、少しぎこちなさも。ですがふと見せる、朝への柔らかい眼差しが物語る、彼女の本質。そんな槙生の様子を見て、読者にもその気持ちや葛藤がズン、と心に響き、染み渡る。

ヤマシタトモコ「違国日記」1巻
[ヤマシタトモコ 著 祥伝社「違国日記」1巻より引用]

そして槙生の変化を見た友人・醍醐奈々は、この出来事は槙生にとって「エポック(起点・画期的な出来事)だ」と言います。朝と同居することによって人生が180度変わった槙生は、今後どのように変化していくのか?

槙生と朝の三年間

そんな「違国日記」、物語の始まりは少しおもしろい構造。

槙生と朝の出会いが描かれるのは、実は第2話から。第1話では高校3年生となった朝と槙生が、ごく自然に共同生活を送っている様子が描かれています。

ヤマシタトモコ「違国日記」1巻
[ヤマシタトモコ 著 祥伝社「違国日記」1巻より引用]

朝の格好や雰囲気・言動。そして槙生への態度を見ると、彼女の生活の落ち着き・充足ぶりが窺えます。彼女が日記を付けている道具がノートからスマホになっている、といった変化も。

変わらず仕事机に向かう槙生。一方、二人分の食事を作り、そして仕事をする槙生の傍らで眠りに付く朝。

どのような三年間を経て二人がそこに辿り着いたのか。1巻を読み終えたあとにまた1話を読むと、その過程に俄然興味が湧きます。

綴られる「日記」に期待

というわけで漫画「違国日記」第1巻。繰り返し読みたくなる深み、そして読むたびに新しい発見のある、読み応えのある作品。おもしろかったです。

ヤマシタトモコさんの漫画を数多く読んでいますが、その多くの根底にあるのはユーモア。シリアスな展開が続きながら、ついクスリと笑ってしまう要素が随所にあり、本作も実にヤマシタさんらしい作品です。

エポックの起こった女性と、「異国」ではなく「違国」に来た少女。二人がこれからどんな道を歩んでいくのか。そして朝が槙生に勧められて付け始めた日記。そこにはどんな出来事が綴られていくのか。「違国日記」、続きが楽しみな作品です。

違国日記(1) (FEEL COMICS swing)著者:ヤマシタトモコ出版社:祥伝社発行日:2017-11-08

コメント

タイトルとURLをコピーしました