「違国日記」―小説家・35歳と姪・15歳。その突然の同居を描く濃厚なドラマ

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ヤマシタトモコさんの漫画「違国日記(いこくにっき)」。「異国日記」ではなく「違国日記」。

ある日突然、一つ屋根の下に住むことになった、35歳の小説家と15歳の姪。年の離れた二人がお互いの距離を不器用に測りつつ、その世界を変えていく様が、丁寧な筆致で描かれます。

連載は祥伝社FELL YOUNG(フィール・ヤング)誌で、単行本は2020年6月現在、5巻まで刊行、以下続刊です。

「違国日記」レビュー

あらすじ

あの日 あのひとは
群をはぐれた狼のような目で
わたしの 天涯孤独の運命を 退けた


少女小説家・高代槙生(こうだい・まきお)。折り合いの悪かった姉・実里(みのり)夫婦の交通事故死を知り、その娘である田汲朝(たくみ・あさ)と幼少時以来の再会を果たす。

呆然自失で今ひとつ現実感を持てない朝。彼女に向かって槙生は、一つのアドバイスを送る。

「日記を…つけはじめるといいかも知れない
この先 誰があなたに何を言って
…誰があなたに何を言わなかったか」

その後、葬儀の席で朝の処遇を相談する親族たち。お約束のように起こるたらい回しに業を煮やした槙生は、朝に向かって毅然と告げる。

「あなたを愛せるかどうかはわからないが、わたしはあなたを決して踏みにじらない。それでもよければずっとうちに帰ってきなさい」

かくして朝は槙生と暮らすことを選択。叔母と姪、歳の離れた二人の共同生活が始まるが、実は慎生は極度の人見知りで…?

違国日記(1) (FEEL COMICS swing)ヤマシタトモコ:祥伝社

槙生と朝の三年間

突然の出来事、そして勢いで、面識の無いまま共同生活を送ることになった二人の女性を描く「違国日記」。以降、共に暮す様子が描かれていくわけですが、物語の始まりは少しおもしろい構造。槙生と朝の出会いが描かれるのは、実は第2話から。

第1話で綴られるのは、出会いから3年後、高校3年生となった朝と槙生が、ごく自然に共同生活を送っている様子。朝の格好や雰囲気・言動、槙生への態度を見ると、彼女の生活の落ち着き・充足ぶりが窺えます。彼女が日記を付けている道具がノートからスマホになっている、といった変化も。

槙生は3年前と変わらずに小説家として仕事机に向かい、一方の朝は二人分の食事を作り、仕事をする槙生の傍らで眠りに付く、という大きな変化を。果たして二人は、どのような三年間を経てそこに辿り着いたのか?否が応でも想像を掻き立てられます。(第一話を念頭に置きながら以降を読み進めると、大変おもしろいです。)

槙生の「エポック」

衝撃的な出来事から、その環境を一変させた朝。その彼女を引き取った慎生は、朝から見ると「変わった人」。

掃除は苦手で、料理も適当。小説家という職業柄、外出はほとんどせずに、在宅で仕事をこなす。しかし人見知りゆえ、一人でいることが一切、苦ではない。また人の気持ちを慮ることが苦手な彼女。対立していた姉の子どもである朝を引き取る際も、本人に向かって直接「わたしは大体不機嫌だし あなたを愛せるかわからない」と言い切ったり。

しかしその後に続く慎生の言葉は、「わたしは決してあなたを踏みにじらない」。

自らがその性格・考え方から「普通」を求める姉と対立した経緯があるからなのか、時に見せる半端のない思慮深さに、ハッとさせられる。

そして人との距離感を測るのが苦手なゆえか、少しぎこちなさがありつつも、ふと見せる朝への柔らかい眼差しそんな槙生の変化を見た学生時代からの友人・醍醐奈々は、言います。この出来事は槙生にとって「エポック(起点・画期的な出来事)だ」と。

果たして朝と同居することによって人生が180度変わった槙生は、そのエポックによってどのように変化していくのか?「違国日記」の大きな見どころの一つです。

朝の感情をついに描く5巻

一方の朝。両親を突然亡くし、まったく異なる環境で「普通じゃない」慎生と暮らすことになった15歳。しかし高校進学という人生の節目となる時期や、親友の手助け、また本来の屈託の無さもあり、徐々に新生活に馴染んできます。

が、1~5巻を通してみると、多少の感情の起伏を見せつつも、絶対的に頼れる存在であった家族を失ったにしては、あまりにも平穏である彼女。若いから、と言えばそれまでですが、やはりその胸の内にはモヤモヤと燻るものがあるよう。

その中に母親の面影を見つつ、だが一方で思春期の少女にとっては辛辣に見える態度も取り、理解のできない存在である慎生。二人の間にすれ違いが…?

そして5巻終盤で朝が見せる心の動き。読んでいて素直に「この漫画、スゴイな!」と驚きました。じっくり、丁寧な描写を重ねてきて、ようやくこの内容をここで描くのか、と衝撃が。このある意味「感動」とも呼べる感情を、未読の方にもぜひ味わっていただきたい。

Journal with witch

さてそんな「違国日記」、英題は「Journal with witch」。「何とかdiary」とかじゃなくって「Journal with witch」。意訳すれば「魔女と過ごした日々(の日記)」てな感じでしょうか。

オリジナルタイトルは「違国」なのに、あえてそこを「with witch」としているのがポイント。その日記を書くのはもちろん朝であり、witch=魔女は慎生なわけですが、さあ図らずも魔女の国に迷い込んでしまった朝は、彼女とどんな暮らしを送っていくのか?

承知の通りその答えはすでに開示されており、それは本記事前半で紹介した「違国日記」の第一話。新刊が出るたびにこの第一話を読み返すのですが、同居するようになってから3年が経過した後の慎生と朝の姿に、各巻で起こった出来事を重ね合わせると、めちゃくちゃジワジワきます。

そして今後も綴られるであろう「魔女との生活」と、日記の終わりへの興味が、ページをめくる手を止めさせないのです。

まとめ

以上、ヤマシタトモコさんの漫画「違国日記」のレビューでした。

紹介の流れ上、上記では書かなかったのですが、慎生の元カレで現・友人である笠町くんという、物語に深みを与える魅力的なキャラクターも劇中に登場。慎生との関係性に変化が起こるや否や?というのも大きな見どころです。

そんな朝と慎生の周囲も含めて、これでもか!というぐらい丁寧に描かれる人間ドラマが魅力の作品。読めば読むほど味が出てくる、オススメの漫画です。

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