最前線だけが戦場じゃない。それを支える事務方「紙の兵隊」の現場でも、また戦いは起こっているのだ!
そんな軍の裏方・兵站(へいたん)部を、ロシア風の架空世界を背景にコミカルに描くのが、速水螺旋人(はやみ・らせんじん)さんの『大砲とスタンプ Guns and Stamps 』。
連載は講談社モーニング・ツーで、全9巻完結。以下『大砲とスタンプ』が気になる方向けに、主なあらすじや見どころなどを基本ネタバレなしでご紹介します。
『大砲とスタンプ』あらすじ
大公国+帝国の同盟軍と共和国が開戦して2年。
共和国の領土を占拠した戦略拠点「アゲゾコ要塞」にて、兵站軍(兵站部)管理部第二中隊に、新任少尉マルチナ・M・マヤコフスカヤが赴任するところから、『大砲とスタンプ』スタート。
陸海空軍とは異なる独立した組織だが、なあなあでいい加減な兵站部。その中で何事もきっちりと処理しなければ気が済まない性格のマルチナ。
彼女がいろいろな騒動に巻き込まれる(または巻き起こしていく)様子を中心に、「戦争」が時にコミカルに、時にシニカルに描かれていきます。
なお「大砲」は戦争や軍、「スタンプ」は別名「紙の兵隊」とも揶揄される、兵站部の武器・ハンコの比喩。また「スタンプ」は、マルチナのペットであるイタチモドキの名前でもあります。
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『大砲とスタンプ』レビュー
主役は軍の事務方
戦争を描く漫画と言えば、最前線でのドンパチや、軍上層部の戦略・駆け引きによるドラマなどが主。
比してこの『大砲とスタンプ』が特異なのは、軍部に属しながら直接的な戦いを行わず、主に事務方として戦争に関わる兵站部が、その主役であること。
「兵站」とは、後方における軍のさまざまな活動や機関の総称。部隊への物資の配給、兵員の展開、整備の手配から衛生面のケアに至るまで、軍事活動をスムーズに行うための役割を担います。
本作『大砲とスタンプ』では、マルチナやその上司・キリール大尉ら管理部第二中隊の面々が、基本はオフィスで、時に前線や各部隊との調整に出向き、事件に出会う様が描かれます。
武力を使わない「紙の兵隊」の戦い方
軍部の潤滑油として大事な役割を担う兵站部。ですが荒くれ者揃いの兵たちからは、「紙の兵隊」と揶揄される存在。
そんな彼らのもとに、とにかく事務仕事と懐中汁粉が大好き、ついたあだ名が「突撃タイプライター」の新人少尉・マルチナがあらわれて…。
「責任問題です!」が口癖、いい加減な仕事をゆるさないマルチナが、ある程度のゆるさが許容されている兵站部で、騒動を巻き起こしていきます。
しかし横領・賄賂・命令無視・スパイの暗躍などが日常茶飯事な軍部。また占領地であることから現地民との軋轢もあり、微妙な状況にあるアゲゾコ駐屯地。そこでは様々な問題が発生。
そこで活躍するのが銃とナイフ、…ではなく知恵とスタンプであるのが、『大砲とスタンプ』の面白み。
横領の責任を押し付けられた仲間を救うために、士気の上がらぬ最前線の兵士を鼓舞するために、武力に頼らない「紙の兵隊」ならではの戦い方が描かれます。
コミカルさの裏にのぞくもの
そんなとかくいい加減な戦争の中で、兵站部の仕事を「天職!」とやりがいを感じ、周囲に認められていくマルチナ。
しかしやがて、彼女も軍の一員、戦争に参加する一人の兵士である、と認識せざるを得ない、ショッキングな出来事が起こります。
書類に向かっているだけではわからない、その事実に気づいた時。彼女はどのような行動を取るのか?
基本コメディ調で描かれる『大砲とスタンプ』ですが、その舞台は戦場。コミカルながらもシリアスに、時に皮肉を交えて軍・戦争が描かれます。
この漫画を読んでいる読者の多くは、私も含め戦争とは無縁の世界に生きているでしょう。しかしマルチナが気づいてしまったように、実はすぐそばに、戦いはあるのかもしれません。
「大砲とスタンプ」を読んで、戦争をエンタメとしてカジュアルに楽しむか、人間の愚かしさに恐れおののくか、それともやはり、そこに笑いを見出すか。
さて?
レビューまとめ
以上、速水螺旋人さんの漫画『大砲とスタンプ』のネタバレなしレビューでした。
各話、コミカルさ&シニカルさを含みながら流れるように進み、そしてしっかりつくオチに満足の読後感があります。話の途中に挟み込まれる架空兵器や施設の図解というミリタリー要素も◎。
迎えた最終9巻では、突撃タイプライター・マルチナと仲間たちに、絶体絶命のピンチが?
コミカル要素多めながらも「戦争」を描く本作。ショッキングな展開も待ち受けているのですが、それをストレートにぶつけてくるのもまた、『大砲とスタンプ』の本質なのでしょう。
サラッと気軽に読むも良し、繰り返し読み込むも良し。作者・速水螺旋人さんならではの笑いと毒の詰まった物語。「紙の兵隊」たちの戦いと行く末を楽しんでみてください。
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