「大砲とスタンプ」―「紙の兵隊」たちが織りなすコミカルな戦い

最前線だけが戦場じゃない。それを支える事務方「紙の兵隊」の現場でも、また戦いは起こっているのだ。

そんな軍の裏方・兵站(へいたん)部に所属する、個性的な兵隊たちをコミカルに描くのが、速水螺旋人(はやみ・らせんじん)さんの「大砲とスタンプ Guns and Stamps 」

講談社モーニング・ツーにて連載中で既刊7巻、以下続刊。ロシア風な架空世界の軍部を舞台に、4頭身のキャラクターたちが愉快な活躍を繰り広げます。

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「大砲とスタンプ」レビュー

「紙の兵隊」の物語

大公国・帝国の同盟軍共和国が開戦して2年になる、ロシア風の世界。共和国の領土を占拠した戦略拠点「アゲゾコ要塞」が舞台。

陸海空軍とは異なる独立した組織・兵站軍(兵站部)。その管理部第二中隊に、新任少尉マルチナ・M・マヤコフスカヤが赴任するところから物語スタート。


[速水螺旋人 著 講談社「大砲とスタンプ Guns and Stamps」1巻より引用]

なあなあでいい加減な兵站部の中で、何事もきっちりと処理しなければ気が済まない性格のマルチナ。彼女がいろいろな騒動に巻き込まれる様子を中心に、戦争をコミカルに描くのが漫画「大砲とスタンプ」です。

なお「大砲」は戦争や軍、「スタンプ」は別名「紙の兵隊」とも揶揄される兵站部の武器・ハンコの比喩。またスタンプはマルチナのペット・イタチモドキの名前でもあります。

主役は軍の事務方

戦争を描く漫画と言えば、最前線でのドンパチや、軍上層部の戦略・駆け引きによるドラマなどが主。比してこの「大砲とスタンプ」が特異なのは、軍部に属しながら直接的な戦いを行わず、主に事務方として戦争に関わる兵站部が主役であること。

「兵站」とは、後方における軍のさまざまな活動や機関の総称。部隊への物資の配給、兵員の展開、整備の手配から衛生面のケアに至るまで、軍事活動をスムーズに行うための役割を担います。

本作「大砲とスタンプ」では、マルチナやその上司・キリール大尉ら管理部第二中隊のオフィスワークがメイン。時に彼らが、前線や各部隊との調整に出向く様が描かれます。

ユニークな第二中隊の面々

「大砲とスタンプ」の魅力の一つは、マルチナ属する第二中隊のユニークなキャラクターたち


[速水螺旋人 著 講談社「大砲とスタンプ Guns and Stamps」2巻より引用]

趣味はSF小説執筆、エリート軍人家系の出ながら兵站部で飄々と活動するキリール大尉。

叩き上げの軍人、しかし訳ありで兵站部所属となった管理部第二中隊の用心棒・ボイコ曹長。

スラム出身で学は無いが行動力と肝っ玉は一級品、中隊の切り込み隊長・アーネチカ兵長。

民間出身で世渡り上手、金と経済に長け資金運用に目が無いマンチコフ軍曹。

そんな彼らのもとに、メガネのショートヘアー、とにかく事務仕事と懐中汁粉が大好き、ついたあだ名が「突撃タイプライター」の新人少尉・マルチナがあらわれて…。

「責任問題です!」が口癖、いい加減な仕事をゆるさないマルチナが、ある程度のゆるさが許容されている兵站部で騒動を巻き起こします。

「紙の兵隊」ならではの戦い方

そんな兵站部。軍部の潤滑油として大事な役割を担うものですが、荒くれ者揃いの兵たちからは「紙の兵隊」と揶揄される存在

ですがマルチナにとっては、その仕事がまさに「天職」とも呼べるもの。意欲的に管理部の業務をこなします。

しかし横領・賄賂・命令無視・スパイの暗躍などが日常茶飯事な軍部。また占領地であることから現地民との軋轢もあり、微妙な状況にあるアゲゾコ駐屯地。そこでは様々な問題が発生します。


[速水螺旋人 著 講談社「大砲とスタンプ Guns and Stamps」6巻より引用]

そこで活躍するのが銃とナイフ、…ではなく知恵とスタンプであるのが「大砲とスタンプ」のおもしろいところ。

横領の責任を押し付けられた仲間を救うために、士気の上がらぬ最前線の兵士を鼓舞するために、武力に頼らない「紙の兵隊」ならではの戦い方が描かれます。

コミカルさの裏にのぞくもの

そんなとかくいい加減な戦争の中で、兵站部の仕事にやりがいを感じ、周囲に認められていくマルチナ。

しかしやがて、彼女も軍の一員、戦争に参加する一人の兵士である、と認識せざるを得ないショッキングな出来事が起こります。


[速水螺旋人 著 講談社「大砲とスタンプ Guns and Stamps」6巻より引用]

書類に向かっているだけではわからないその事実に気づいた時、彼女はどのような行動を取るのか?

基本コメディ調で描かれる「大砲とスタンプ」ですが、その舞台は戦場。コミカルながらもシリアスに、時に皮肉を交えて軍・戦争が描かれます

この漫画を読んでいる読者の多くは、私も含め戦争とは無縁の世界に生きているでしょう。しかしマルチナが気づいてしまったように、実はすぐそばに戦争はあるのかもしれません

「大砲とスタンプ」を読んで、戦争をエンタメとしてカジュアルに楽しむか、人間の愚かしさに恐れおののくか、それともやはり、そこに笑いを見出すか。さて?

笑いの中に深みあり

以上、速水螺旋人さんの漫画「大砲とスタンプ」のレビューでした。本作、とにかく各話の構成が上手い。流れるような物語運びとしっかりつくオチ。そしてコミカルかつシニカルな内容。

また各話に必ず架空兵器や施設の図解があり、ミリタリーな魅力が詰まっています。サラッと気軽に読むも良し、繰り返し読み込むも良し。速水螺旋人さんの手腕が光る、オススメの漫画です。おもしろいですよ。

漫画データ
大砲とスタンプ(1) (モーニングコミックス)著者:速水螺旋人出版社:講談社発行日:2011-12-22

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