「血の轍」―恐ろしくも美しい。息子を溺愛する母の狂気

遅ればせながら2017年話題の一作、押見修造さんの「血の轍(ちのわだち)」1巻を読みました。

…なんやこれ。スゴイやないか。怖いやないか。

というわけでもうすぐ2巻も発売されようかという「血の轍」。息子を溺愛する母親の狂気を描くサスペンス漫画。小学館ビッグコミックスペリオール連載です。

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「血の轍」1巻レビュー

概要

「血の轍」の主人公は少年・長部静一。父母と暮らす一人っ子で、同級生の少女が気になる年頃。いたって普通の中学二年生。

…に見えるが、問題はその母・静子。静一を溺愛する彼女。ある「事件」をきっかけに、狂気とも言える愛情を増幅させて…というサスペンスが描かれます。

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小学館のサイトで1話が試し読みできます。

美しい母

母・静子。年の頃は30代後半~40歳ぐらいでしょうか。彼女が作中ではとかく「美しく」描かれます。

おそらく思春期の少年だったら、誰もが憧れるような「美しい母」


[押見修造 著 小学館「血の轍」1巻より引用]

朝、やさしく静一を起こし、食べたいごはんを聞く静子。

何かと静一の身の回りを気にかける静子。

静一の帰りをあたたかく迎える静子。

その態度と眼差し、慈愛に満ちあふれています

際立つ過保護さ

しかし読み進めるにつれて、次第に浮き彫りになってくるその過剰にも見える過保護さ

普通よりはやや多めに思える静一とのスキンシップ。幼稚園時代、常に教室の後ろに立っていたというエピソード(理由は不明)。

従兄弟の少年やその母からも、過保護であることを揶揄される二人。

思春期である静一は、そのからかいをやや気にしつつも、彼自身がその心地よさに依存している風でもあります。

そして後半で描かれる、親戚一同との山登り。そこで「事件」は起きる―


[押見修造 著 小学館「血の轍」1巻より引用]

というのが1巻の主な流れ。ネタバレ無しなので事件についての詳細は避けますが、ショッキングな出来事。そこに至るまでの道のりが、じっとり、ねっとりと描かれます。

静子の狂気

「血の轍」。何度か読み直しましたが、印象的なのは描画方法。作者・押見修造さんの近年の作画手法なのかもしれませんが、スクリーントーンを一切使わずに描かれる絵

絵画的・静止画的な雰囲気を持つ、線のみで紡ぎ出されたコマの数々。それらが繋がることにより、連続した物語の一瞬一瞬に独特の「間」が生まれ、そこに描かれるセリフ、そして表情が目に焼き付きます。

そして序盤・中盤・終盤と徐々にあらわになっていく、母・静子の狂気。「事件」さえなければ、それは少し変わっている程度の態度だったのかもしれません。

しかし息子を愛しすぎるがゆえ、それは起こってしまう―。

読み終わったあとにもう一度頭から読み直すと気付く、物語の起伏ともに変化する静子の表情。怖い。

静一の依存

一方、息子の静一。「男はみんなマザコン」なんてことも言われますが、たいていの少年は思春期にもなると反抗を重ねながらやがて母親から自立し、一人前になっていくもの。


[押見修造 著 小学館「血の轍」1巻より引用]

静一も静子の過剰な構い方に軽い反抗の素振りを見せますが、しかし根は依存しているような様子。むしろ日々の生活の中で、静子の様子をチラチラと窺い見るなど、彼自身も母に対する愛情が一般とは少し異なる感じ

そして「事件」が起こったあと、共依存とも呼べる静一と静子の関係は、抜き差しならないものに。以降、静一はどのように母と接していくのか―?

まとめ

…という「血の轍」1巻。なだらかに、しかし読者を徐々に、徐々に精神的に追い詰める。ホラーでもあり、サスペンスでもあり。読んでいると次第に蜘蛛の巣に絡め取られていくような、そんな怖さを感じる漫画でした。

とにかく終盤の展開は、押見修造さんの巧みな筆致により、恐ろしくも美しさを感じてしまいます。静一が同級生の女子と仲良くなりつつある、といった中盤の伏線も、これから描かれる怖さを予感させます。

漫画「血の轍」。精神的にじわじわ来る漫画が好き、という方にぜひオススメしたい、サイコ・サスペンスです。

血の轍(1) (ビッグコミックス)著者:押見修造出版社:小学館発行日:2017-09-08

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